入街、サクリシア
更新遅れたお詫びの一日二回投稿。
遅れた分考えれば結局プラマイゼロってマジ?
入り口である関所を通る前からでも、風に乗って活気が伝わってくる。
騒がしい声、響く金属音、楽器の演奏……
そういったさまざまな音が壁を越えて俺たちの耳に届き、その街の尋常ならざる熱気を雄弁に物語っていた。
それは、街に入るまでの長い行列に並んでいる俺たちの疲れた心すら元気づけられるほどの、圧倒的迫力である。
祭りの影響力とは如此か、と俺は感動してしまう。
まだ祭が始まってすらいないのにこれならば、一体当日はどれほどのものになるのだろう。自分で選んだ道とはいえ、直接楽しむことができないのが口惜しい。
隣を見れば、レインがとても興奮した様子で街の方を眺めている。
子供らしく無邪気に、中に入れるのを今か今かと待ち侘びているようだ。
……少し精神ダメージが入ったが、気にしないでおこう。
さて、まあそんなわけで、今現在俺たちはサクリシアの入街検問の行列に並んでいる。
周りにいるのはほとんどが旅行客で、俺たちと同じような衣装に身を包んだ人々が、退屈そうに駄弁っている。
つまり、彼らは全員観光客なのである。ヤバっ。
尚、これほど大きな祭りなのに商人がいないのは、とっくの昔に街に入っているかららしい。
聞くところによると、その行列は今日の行列の何倍も大きかったとのこと。
大企業が絡むと、本当にスケールが大きくなるなぁと感じたものである。
そうして何度目かもわからない記憶の振り返りをしていると、バッとライナスが振り返り、そして陽気に言った。
「そろそろ衛兵が来るから、多少身だしなみ整えといてな。大人は大丈夫だと思うけど、子供はすぐ服をぐちゃぐちゃにするからさ。それで審査が通りませんでしたなんてことになったら、流石に恨むぜ?」
やっと順番が来たのがうれしいのか、多少軽口が混ざってはいるものの、言っていることはもっともである。
俺たちだって、ここまでの長旅が無駄に終わったらたまったものではない。急げや急げと服や髪を直し始めた。
レインはよくわかっていないようだったが、それでも周りの様子を見て自分のすべきことを理解したようで、すぐに服を整え始める。
聡い子だなぁと改めて思うが、そんなことを言えば一発アウトである。
俺はその感情に蓋をして、俺もさっさと服を整えた。
あ、俺の名誉とレインの将来のためにいうが、この旅において、俺は一度だってレインや母親の着替え、トイレを覗いたりはしていない!
そんなことをするほど俺もクズではない………というか、今の俺はそういうことに興奮しない。歳かな。
「お、きたみてぇだな。ほら、ちゃんと挨拶しなよ坊ちゃん達!」
ライナスが遠くを見つめ細めていた目を緩め、俺たちに注意するようにそう言った。
すると、彼の言った通り、遠くから甲冑をつけて歩くとき独特の音が聞こえてき始めた。
おそらく衛兵のものだろう。
漸くこの長い行列から解放されるという、一筋の希望の光が差し込み、俺はひとまず安堵するのだった。
◇◇◇
「さぁ、来ましたぜ! サクリシアだー!!!!」
軽い質問や手荷物検査を済ませ、俺たちはついに関所をくぐった。
退屈からの開放感から、ついついライナスは叫んでしまう。
その後、レインにびっくりした目で見つめられて一気に体が萎んだライナスを見て、一家全員で大笑いする。
それをレインは不思議そうに、ライナスは不機嫌そうにこちらを見つめてくるので、その対比が面白くて再び笑ってしまった。
「ったく、笑うなって。子供の目線ってのはどうしても怖いんだよ」
ぶつくさと文句を言うライナス。
なんで子供が怖いのかはよく知らんが、ちょっと素っぽかったので無視。
彼には適当に返事をして、俺はすぐに街の景色を見回した。
まだ後ろから文句が聞こえるが、聞こえないふりでやり過ごす。
街の印象として、ここら辺はあまり王都とは変わらないように見える。
とはいえ、俺の知ってる王都とは豪華絢爛の貴族街ではなく、あくまで庶民のいる街のこと。
そんな王都に似ているということは、ここら一帯は住宅地であると言うことだ。
……街の関所のすぐ手前というビジネスチャンスを取らずにいる理由はなんだろうか?
てっきり俺は、街に入るや否やすぐに商人たちが押し寄せてくるかと思ったのだが。一人一人しか入ってこない入口など絶好の狩場だろうに。
俺がそんな風に疑問に思っていると、雰囲気からそれを読み取ったのか、ライナスが説明をしてくれた。
「この街は、今は祭りで人が来るけど普通は工業都市だから、物流の……物を運ぶ人たちの邪魔にならないように、お店は街の内側に作るって言うルールが決まっててな。だからここら辺はいくら探しても店は並んでないぜ」
親切にも、子供がなるべくわかるように換言してまで説明してくれた。
そこら辺、ただの教養のない裏社会の人間とは違うのだなと思う。なんでこんな仕事やってるんだろ。いやそりゃ金のためだけども。
それにしても、物流への配慮、かぁ。
なんと言うか、商人ってそんなルール知ったこっちゃねぇ! みたいな半分ヤ○ザみたいな連中だと思ってたから、ちゃんと守ってるのは意外だな。
もしかして、この世界の商人って結構常識人……? 破天荒な性格なのは、攻略対象の彼くらいなのだろうか。
まあ、商売やりにくくなるからとか、互いに不可侵の領域として他の組と同意したとかそう言う理由なことも考えられるけど。
そして、その後しばらくこの街の騒ぎの中心の方へと歩みを進めると、丁度店々が見え始めたあたりでライナスは馬車を止めた。
「とりあえず、送るのはここまで、かね。それじゃあライアンたちは自由に街歩いときな。俺はこの車停めとけるとこ探しとくわ。帰る時また呼んでな」
そう言ってライナスは俺たちを馬車からおろすと、バシンと馬に鞭を振った。
馬は勢いよくかけて行き、俺たちは後ろ手に手を振るライナスを見送る。
帰るときにまた送ってくれることになってはいるが、祭りは自分で回りたいらしく、ホテルも自分専用のものをとるのだという。
つまり、帰りまでは彼とは別行動である。
正直、帰りのことをライナスに特に指示していないということの『意味』を多少理解されているっぽいので、多分これから王都まで直帰するつもりなんだろう。
ここまで旅した一家に危険が迫っているかもしれないのに、全く気にかけることなく去るあたりやはりドライな人間である。指示したのは俺だけど。
まあ、仕事ぶりに人間性は関係ない。
いずれにせよ、依頼を無事やりとげたのだ。彼には、然るべき報酬という物を与えてやらねば。
馬車の屋根の上にぶら下げておいた『贈り物』に想いを馳せながら、俺たちは自分たちのホテルを探しに商店街の方へ歩いて行った。
ライナスくんは笑顔で街を脱出しました。
よかったね!




