Let's go!
更新遅れてごめんなさい……
ちょっと現実に急用が入ってしまって。
「うふふ、楽しみだね、ライアン?」
「ああ、久しぶりの旅行だ、楽しまなくっちゃな」
席の向かいで、親二人が元気におしゃべりをしている。
そんな二人の話を遮るかのように、時々ガタン! と大きな音を立てて、馬車が揺れる。
しかし、二人は慣れているのか特に気にもせず会話を続けている。
いくら対してスピードが出ていないとは言え、これは経験の差だろうか? 俺はさっきから舌を噛みそうで危ないったらない。
今言った通り、俺たちは馬車に乗っている。
それも、ただの馬車ではない。それなりに通りところへ行く時用の、大きめの馬車だ。
普通の街で見かけることはまずないレア物である。なんでもマニアの人たちはこれに乗るためだけに遠出することもあるんだとか。
ちょっと言っている意味がわからないが、こんな時代だ。きっとマニアというのは相当の金持ちばかりなのだろう。
この馬車の行き先は勿論、サクリシアだ。
竜のいる街であり、数年に一度、竜喜祭が催される火山都市。そして、俺か。一世一代の大勝負に出るところでもある。
尚、隣町とはいえそれは王都が国の中心に位置しているからに過ぎず、普通に遠い都市な為、俺たちは結構な時間をこの馬車で過ごしている。
それなのに会話の種が尽きないとは、本当に仲の良い人たちだ。
俺はさっきからすっかり飽きて、柔らかい椅子に身を投げ出しているというのに。
うん、いいねこれ。普通に現代クラス……とはいかないけど、こっちじゃ滅多にお目にかかれないやつだよ。
え? そんな物どこから手に入れてきたんだって?
おいおい、忘れたのか? 俺にはつよーい味方がいるんだってことをさ。
「ああ、もう少しで休憩所だから、そこらで少し泊まるぜ。今日1日お疲れ!」
馬車の行者がいる方向の窓から、見覚えのある顔が覗く。
そう、いつぞやの何でも屋、ライナスである。
この馬車は、ライナスのものだ。
これは、ライナスに用意させたという意味でなく、本当の意味で「ライナスの所有物」という意味である。
つまり、これは依頼を受けるための車両に多少の改造を施したものなのだ。
なぜこんなに高い車両を使っているのかは甚だ疑問だが、まあ見栄とか何か都合があるのだろう。
さて、それで、なぜ俺たちがこいつの馬車に乗っているのか、だが、その理由は数日前に遡ることとなる。
◇
◇
◇
「へぇ、じゃあその業者さんが街まで運んでくれることになったんだ」
話を聞いた母が、その結論をまとめるように言った。
なんでも父曰く、家に帰っている時、偶然困っている業者を見つけたから魔法で助けてやったら、意気投合して友達になったらしい。
それで竜喜祭のことを話すと、お礼に自分が連れて行ってやると言われたそうだ。
「やっぱり、情けは人の為ならずっていうのは間違っていなかったんだなぁって思ったよ。人助けってのはしてみるもんだなぁ」
父はそんなふうに言って照れ臭そうに頭を掻いている。
家族に自慢話をしたことが恥ずかしいのだろう。
その一方で、馬車だと隣町までは結構かかるから、無料になってよかったと母は喜んでいる。
最近は父も月給が上がっているようで、昔よりずいぶん暮らしも良くなったが、とはいえまだまだ貧乏時代の頃の癖が抜けないようで、母は少し吝嗇なのだ。
俺もそんな彼らに対してよかったね、などとよくわかっていなさそうな感じの言葉を贈る。
……が、当然今回のことは俺が仕組んでいることだ。
あの夜、俺が例の何でも屋に依頼したことは、『ライアンという男がいる家庭をサクリシアまで馬車で運べ』というものだ。
その計画も、大まかにだが俺が指定してあった。
あの時必要だった『情報』とは、即ちあの街の馬車の航行ルートと、父の帰り道である。
本当はそれも依頼するつもりだったのだが、計画について話すと、計画のために必須だからとかで自分で集めてくれると言ってくれた。わーいお得だね!
計画の概要は、ライアンに借りを作って、それを返すという名目で行けという作戦だ。
話を聞いた限り、俺の結構大雑把な計画をしっかり実現レベルまで練り上げて、無事成功させてくれたらしい。
流石にベテランである。素人の無茶振りにも応える見事な手腕だ。
因みに、何故態々こんなことをしたのか、というと、実はこの一家、父が優秀すぎて、魔法を使って街まで徒歩で行くとかいう計画を企てていたからである。
いくら身体強化の魔法でバカみたいな速さで飛べると言っても、それはやはり疲れるだろう。
というか、そんな荒唐無稽な行軍は到底許せるものではない。
そんなわけで、その計画を阻止すべく馬車を手配してやったというわけである。
所要時間は(何故か)延びたが、大空の旅よりはましだろう。
何も知らない両親を横目に、俺は微かにほくそ笑んだのであった。
◇
◇
◇
と、いうわけで、ライナスくんが一晩でやってくれました。
まあライアンのコミュ力もあるけど、見事なものである。
実際、側から見たら二人は良い友人にしか見えない。
もしかして、本当に友情に目覚めたのではと思ってしまうほどだ。
これで演技だとしたら、やはりこういう手合いと関わるのは結構リスキーだ。
何故なら、演技ができるやつというのは、大抵演技している奴もわかる。
俺は完全に独学だからよくわからないが、演技する奴特有の癖とかがあるらしい。(流派が云々とか言っていたがよく覚えていない)
つまり、俺の演技を見破る可能性もゼロではないということだ。
ただでさえ元からグリムとして演技をしているのに、さらに黒い靄として演技しているのだから、粗というのはどうしても出る。
自分の演技にも自信はあるが、やはりなるべくは控えるべきだろう。
などとごちゃごちゃ考えていると、ついに馬車は停車し、客室の扉が開いた。
もう今日はここで終わりにして、明日の昼頃からまたサクリシアに向かって出発するのだ。
元々昼夜逆転してる連中だから、彼らが普通の時間になれるためのリハビリとして、今日は俺たちは夕方から深夜にかけての行軍をしている。
そして、明日は比較的健康的な時間に起きて、普通の時間に行軍をするのである。
子供に優しくないやり方だとは思うが、無料で載せてもらっているのだから文句は言えないだろう。
そんなわけで、この深夜に俺たちはやっと眠りにつけるというわけだ。
俺は、横でもうほとんど眠りかけているレインに声をかけると、いそいそと馬車を降りていく。
この頃、どんどん暖かくなってきた夜の空気が俺たちを迎えた。
グリム「馬車で行くならレインちゃんも連れてこー!」
親「いいね!」
レイン「いきたーい!」
レインの親「どうぞ連れてってやってください!」
レインの親は忙しいけど、レイン本人は忙しくないことを逆手に取った作戦。
子供だけでいけるなら許可してくれるだろうと予想したのだ。
尚、普通の馬車じゃダメだった理由は、普通の馬車は人数で料金が変わるから。
流石によその子を金払ってまで連れてくのはねぇ……。




