思ったより仕事が多かったの巻
前回の人、パトリック=パトレアくんの予定でしたが、庶民になったのでパトレアに名前統一します。
ご迷惑をおかけしてごめんなさい。
今日一日、頭痛がしている。
まるで二日酔いをしたような、そんな痛みだ。酒飲んだことないけど。
それは、あまりいいことではない。
これからすることを考えれば、なるべく万全の状態でいたほうがいいだろう。だが、時間がないのもまた事実。だから、俺は無理を押していくことにした。
頭痛の原因となっている曇り空を見上げながら、俺は今日も動き出す。
◇
最近盗難被害が増えたと、上流階級の皆様は世を憂いていらっしゃるらしい。
普通そう言うことは秘密にする物だが、人の口には戸は立てられず、次第に噂は広がっていっている。
いつ自分が盗まれるか、皆気が気ではないらしい。
だが、それに対して下流階級の人々は、そのことを全く知らない。
それもそのはず、庶民は最近になって泥棒が増えたことなど一度もないからだ。
盗まれるのは決まって金持ち。それがこの泥棒の特徴である。
警備も多く、また罪も重い。そんなデメリットだらけの盗みを、何故態々行なっているのか、本当に同一人物なのか。何が目的なのか。
不明な点が多く、このままでは未解決事件として歴史の影に葬られることとなるだろう。
そうはさせまいと、警察も躍起になって捜査をしているが、未だ証拠は一つも出てこない。
噂によると、高度な魔法を駆使して、証拠を消しているんだとか。
こう言う時こそ魔法課が動くべきなのだが、なんでもただの泥棒如きに動けるほど魔法課は暇ではないと言って、協力ができていないらしい。
そんな今の世の中の事情を聞いて、俺は──────
すいっませんでしたぁぁぁあ!!!
と思った。
いや、ほんとに申し訳ない。
そう、その泥棒の正体はまさしく俺! グリムさんである!
父親からそう言う話聞いてすっごく反省した! ごめんね!
でも仕方ないよね!
だってよく考えたらなんかすごい小さいサブイベで、過去の未解決事件としてさらっと語られてたのを思い出しちゃったんだもん!
グリマニアのやつ何やってんだよ!? すごい武器とか防具コレクションするのはいいけどさ、もう少し常識的な範囲でなんとかしてほしかったよね!
でもこの時のおかげで後々動く時すっごい楽! 畜生文句言えねぇ!
まあ何というか、これから攻略対象の人生壊すようなこともいくつかやるし、割り切っていくしかないのかなぁ。
そんなふうに思う今日この頃です。
こんなものは俺の自己満足だし、加害者が何を言ってるんだという感じだろうが、それでも一応言っときます。
ごめんなさい。
………………よっしゃ盗みいくかぁ!
今日も、怪盗は夜を駆ける。
◇◇◇
さて、それで本日盗みに入るのはこちら!
『服飾雑貨』でーす!
いやー、わかりやすいネーミングですね。
自分の仕事が一眼でわかる、庶民派な名前です。
……というか、庶民の家ですね。というか友達の実家ですね。
そう、今回盗みに入るのは、レインの家だ。
一応、ここで仕事は一段落の区切りとすると決めている。
え? 金持ちからしか盗まないんじゃないのかって?
知るか。グリムがここから盗んだんだから仕方ねぇだろ。
まあ一応考察しとくと、貴族から物を盗んだのは趣味だろうし、おそらくここから盗んだのも趣味なのは変わらないだろう。
先ず、コレクションしたくなるような不思議な道具は貴族宅にしかないし、だから偶然貴族からばかり盗みを働くことになる。
つまり、別にグリムはものがあればどこでも良かったのだ。
そして、今回ここにいくのは趣味のためじゃない。
正しく言えば、『実益を兼ねた』趣味だ。
ここにあるのは、魔糸。
職人でもなければ滅多に所有していない、マイナーな道具だ。
庶民ですら滅多に使わないし、それこそ、自分で裁縫など決してしないであろう貴族では持ち得ない代物である。
作中、グリムは何故か独自の魔道具を大量に所持していた。
それは殆どが自作であり、また布製だ。
そう、グリムは自分で魔道具を作る練習用糸としてここの糸を欲したのである。
実際、一般人では魔糸は手に入りづらい。
職人はいいところから融通してもらえるが、普通そんなルートを庶民は持っていない。
だから、魔糸が簡単に手に入る場所が必要だったのである。
そして、レインの家に白羽の矢がたったというわけである。
とんでもない節操なし野郎だが、まあこれ以降グリムは魔糸を盗まないので、許してあげてほしい。
(言い換えれば、いいルートを次回までに見つけねばならないのだが)
さて、答えもわからない考察はここでやめてそろそろ行こう。
いざ、レインの家へ〜!
◇◇◇
「おじゃましま〜す」
俺はゆっくりとドアを開ける。
ドアは本来の役割を全く果たさず、俺の侵入を許した。
もちろん、音を消しておくのも忘れない。
なお、開けたのは店側のドアだ。
家側だと音が聞こえるかもしれないし、普段出入りしている扉はちょっとした違和感にも気づきやすいから、こっち側のを開ける。
もちろん鍵はかかっていたが、まあそこは手慣れたもので、魔法でちょっといじれば簡単に開けられる。(一時間かかった)
『さて、作業場はどこかねぇ』
俺はいつも通り靄と消音、変声を使って家を散策する。
警察すら欺くこの三点セットがあれば、一般家庭を欺くなど簡単だろう。
そして、家の中を歩き回ること十数分。
「お、ここがそうっぽいな」
扉を開け中を覗けば、そこには糸に針にミシンにと、あらかた裁縫に必要そうな道具が机の上にとっ散らかって置いてあるのが見える。
どうやら、俺は目的の作業場に辿り着いたようだ。
部屋へと入ると、俺はすぐに扉を閉める。
音は消せても振動や姿までは消せない為、誰か(主にレイン)が起きてきた時に見つかる可能性があるからだ。
流石に真夜中にここを開けるようなことは誰もしないはずだろう。
『さぁ、魔糸を探すとしましょうかね〜』
俺はさっそく物色を始める。
机の上の、ごちゃごちゃした道具を一つ一つ確認しながら、魔糸を探していく。
……というか、本当に汚いな。もう少し綺麗にすればいいのに。
それとも、できないほどに忙しいのだろうか。レインが行けない理由もそうだったし。
だとすると若干盗むのは悪い気がする。いや勿論悪いんだけどね。
でも、夜遅くまで働くほどでもないんだよなぁ。とも思うのだ。
大方、客の納品日がもうすぐで焦ってるとかだろう、と適当に予想すると、俺はまた物色に戻った。
そしてそれから数分後。
「よし、これだ、あったぞ!」
手に取り、少し魔力を流してみれば、それは微かに光っている。
魔力を通す物の特徴を示している。つまり魔糸だ。
思ったより時間がかかったが、無事に見つかってホッとする。
やはり後回しにして置いて正解だった。泥棒初心者だったらきっと一日では終わらなかっただろう。
「よし、それなりの量あるな。これなら一ヶ月は困らんだろう」
ざっと目測で量を測り、俺はそれを十分だと判断した。
それをポケットに入れると、俺は部屋を後にする。
さて、証拠処理を終えたら、後は帰るだけ……。
いや、いいや。
レインがいるなら問題ないだろう。
そろそろご両親が起床する時間だろうしな。職人の朝は早い。
ちょっと今日は来るのが遅かったから、時間が押しているのだ。
まあ、あの程度の証拠で特定できるほど警察は有能じゃない。
最悪通報されても問題はない。
最近レインの解釈違いが続いてるし、試す意味でもいいかもしれないな。
そんなわけで、俺は数少ない証拠を消さずに家を出た。
レインなら必ず通報を防ぐだろう、そんな確信とともに。
間章のやつ。伏線回収的な?
裁縫はそこそこできるグリムですが、一応この後レインに教わった模様。
まあこの世界に来てからやってないんでもう六年ぶりですからね、裁縫。




