暗い国の住民
一時間が経過しました。
今現在、目的のものは未だ発見できていません。
ぶっちゃけ寒いです。
くちっ、と、限りなく小さな音でくしゃみをすると、俺はブルリと体を震わせた。
目の前の小さな人形(氷製)を一列に並べ乍ら、俺は馬車の監視を続けている。
……え? この人形なんだよって?
えー、俺は今あまりに暇すぎて、ちょっとした氷の彫刻を魔法で作って遊んでいます。軽い魔法の練習にもなるし、いいアイディアだと思う。
────あ、これちょっと形悪いな、少し削ろっかなぁ。
よいしょ、よいしょ……うん、かっこよくなったな!
………こういうことをしてるから寒いんでしょうか。
いやぁ、でもこれ以外にやることないし、炎とか出すと流石に目立つし、風は無闇に起こしたら不自然だしで、氷の人形作りくらいしかやることないんだよねぇ。
土? 手が汚れんじゃん。
あとやることっつったら、口から雪吹いて、雪女ごっことか?
いやつまんな〜。しかも実際は口から出してんじゃなくて、口の前で魔素を雪に変換するだけっていうしょぼいトリックだし。
くっそ〜、放置ゲーは別にやることがあるから、許されんだよ!
それしかない時にやる放置ゲーはただの苦痛だぞ!
月に吠えたい衝動を必死に抑えて、俺はじっと馬車を見つめる。
人間、大切なのは忍耐だよ忍耐。不撓の心が必要なんだ。
(数分後)
「………」
(その数分後)
「………………」
(さらにその数分後)
「…………………………」
(さらにさr「ピギィぃぃぃぃぃぃ!!!!」
来たぞぉぉぉぉ!!!!
遂に、遂に『ヤツ』が動いた!
クックックッ、俺が発狂するフラグだと思ったかバカめ!
残念、勝利の雄叫びで〜す。フラグはおるもので〜す。
今回は俺の粘り勝ち、アイアムアウィナー!!
「はーっはっはっは!」
暗闇が広がる世界に、太陽のような笑いが響く。
尚俺の高笑いは、俺の魔法によって掻き消され、誰にも聞こえなかった。
てか普通に声出てたわ。あぶね。
◇◇◇
俺は、そこそこに塗装された道、そこそこに高い馬、そこそこに上手い技術、のそこそこ三拍子が揃ったような馬車を引くそこそこの行者、ライナス。
今日も今日とてそこそこな客を探し夜を駆けている。
まあ駆けるのは俺じゃなくて馬なんだけど。
「折角この区画独占したんだから、なるべく客を乗せてぇなぁ」
ぽつりと呟いたぼやきは、しかし誰も聞くことなく闇へと溶けていく。
冷たい空気が体を凍てつかせるように、切り刻むように俺の体を包んでいる。
心の芯まで冷やされて、気づけば機械のようになっているかもしれないな。
寒さのせいか、よくわからない妄想が頭に浮かんできてしまう。
この前、しけた顔だと幸運が逃げていくという話を友達から聞いたので、勉めて明るくいようと思ってはいるものの、やはりこの気温だと厳しいものがある。
本当、どうしてこの状況で笑顔になれるんだか……。
いつも隣で話しかけてくる友達の顔を思い浮かべながら、俺はぱしんと鞭を打った。
叩かれた馬はよく訓練された兵隊のように一瞬で方向転換すると、またまっすぐ走っていく。
その様子があまりに生物味を感じさせないので、俺はさっきの妄言はやはり正しかったのでは、などと考えてしまった。
ここから先はしばらくまっすぐなので、言うなれば休憩タイムだ。
勿論いつ馬が事故るかわからないので、気を抜くわけにはいかないが。
「はーあ、一度きりの人生、折角ならこんな仕事じゃなくて、もっといいことしたかったぜ。例えば朝に馬車を運転するとかさ」
自分で道を選んだ癖に、自分が不甲斐ないからこんな事をしている癖に、それでも環境を呪って、必死に責任転嫁して、ありもしない『もしも』を妄想する。
だが、それもすぐに虚しくなって、結局すぐにやめる。
できることなら、こんな夜の汚れ仕事なんてしたくなかったさ。
それでも、仕方ないじゃないか。これが一番稼げるんだから。
こんな無能の、唯一の特技を活かせる仕事なんだから。
一生懸命、自分に言い聞かせる。
自分を正当化する。
自分をペテンにかける。
そして、今日も一人納得するのだ。
ああ、この仕事やっててよかった、と。
「ふふっ、ふっふっふっ! クーっクックック」
そんな自分が可笑しくて、ああいや誇らしくて、か。つい、笑いが溢れる。
横を見れば、時々交差点から横の通りを走る馬車が見える。
あいつらも俺と同じなんだ、そう考えると少しだけ気が楽になる。
同じ、夜の人間。同じ時間に住む奴ら。
俺は、一人じゃない。それが、唯一の慰めだった。
「そうさ、今日はこんなにも暗い、昏い夜なんだ。まさに、俺たちの時間じゃねぇか。何を恐れることがある! 俺たちは今、生きてるんだから!………」
空を見上げれば、月が雲に隠れて、夜を照らす光を僅かに衰減させてくれている。
仕事を始める前にはあった星々も、どうやら一緒に隠れたらしい。
今、この街を照らすのは魔法の灯りだけ。
人間が作った、偽物だけ。
そう、もはや夜とは獣のものではない。人のものなのだ。
この、夜を生きる者の。
自然の明かりは何もなく、何も俺たちを照らさない。
誰も、俺たちを邪魔しない。否定しない。
昼間、腹が立つほどに照り付けて、俺たちの眠りを邪魔する太陽は沈んでる。
今日は全く気分がいい。
だって、こんなにも素敵な時間を生きられているのだから。
こんなにも明るい夜を、生きているのだから。
「っと、そろそろ曲がり角か」
長い直線が終わる。残念ながらもう休憩は終了らしい。
そろそろ、ここを回って隣の通りへ行かなくては。
そう思って前を見れば、そこにふと不自然な靄があることに気づく。
「あ? なんだ、あの……黒い霧は」
俺はつい気になって、それをよく見ようと馬車のスピードを落とした。
少しずつ、それに接近していく。
ちょっとずつ、ちょっとずつ……。
『ああ、態々近寄ってくれてどうも。私は君のお客さんだよ』
突然、靄から声がした。さまざまな声が重なったような、汚い声が。
その声は、男とも女とも子供とも取れる、不思議なものだった。
だが、およそ自然な人のものとは思えない。そんな声。
そして、俺はそれが魔法なのだ、と気づく。
何をどうやってるか知らないが、変声の魔法を使っているらしい。
魔法は学園の頃からどうも苦手だ。
理論を聞いても何を言っているのかサッパリだからな。
正直あまりお近づきになりたいタイプではない。
全身靄で隠して、しかも夜の街に居るなんて、完全にヤバいやつである。
今までもこういう手合いはいたが、ここまで徹底した変装は初めてだ。
俺の勘的には、関わんのは『凶』なんだがなぁ……。
しかし、もし本当に客だというのなら、馬車に乗せるのが義務になる。
俺は相手の言葉を信用し、馬車を停めた。
まあ違うとは思うが、一縷の望みをかけて、俺は普通に質問する。
「えーと、それで、何方まで──────」
『ああ、そっちじゃないよ。本業の方さ」
まあ、だよなぁ……。だと思ってたけど、正直そうあってほしくなかったよ。
しかし、もうこいつが「客」なのは確定だ。
それならば、しっかりとしたおもてなしが必要だろう。
こんな仕事でも多少は持ってる誇りってやつを、完全には失わぬ為に。
俺はそいつを一瞥すると地面に降り、そして丁寧に扉を開ける。
それからスムーズに一礼した後、こうつづけた。
「ようこそ、何でも屋『キャリッジ』へ。ご依頼をお伺いいたしましょう」
汚く卑しい世界だが、いや、だからこそ、礼儀正しく迎えよう。
裏社会へようこそ、依頼人。どんな望みもお聞きいたしましょう。
闇に紛れて蠢く影が、少しだけ、笑ったように見えた。
闇に棲むのは黒幕だけではないのです。
ってことで新キャラです。結構おっさんな感じ。
結構設定が浅い、勢いで作ったキャラ。




