誰かに乗り移っちゃったよ?
ついに本編いきますよー
「さて」
鏡を見ながら俺はそう前置きをした。
まず自分のすべきことは何だろうか? それは勿論自己確認だ。
俺の名前は「遊綺 童也」まだギリギリ大学生だった。
あるゲームを漸くクリアして眠りについたのが最後の記憶で昨日のことだ。
……うん、OK。覚えてるな。思い出してない。
俺は大きくため息をついた。つられて鏡の中の見知らぬ男の子もため息をつく。
そう、今俺が鏡の中に見ている影と記憶の中の影は一致していない。
俺はこんなに目がはっきりしていないし、透き通るような白い肌も持っていない。というか俺は根っからの黄色人種だったはずで、こんな肌色だったことは人生で一時もなかった。
極め付けは……なにこの髪の色。
俺は黒だったのだが……こいつのは茶色なのか銅色なのか、語彙の貧弱な俺には正直表現できない。色とか小学生がわかるくらいの語彙がありゃいいんだよ!
とりあえず一通り容姿の確認も済んだところで、次にこの子について覚えていることを考えてみる。……が、ダメだ。全くわからん。
いや、大まかなことは一応思い出せるのだが、細かいこととなると無理だ。
例えば、使っている言語やら家の道やら、無意識に使える知識はいける。だが、何かの名前や人の顔、文化などになってくるとからっきしだ。
このことから、俺は自分は他人の体に憑依して、元の持ち主は記憶とともに消え去ったらしい、という仮説を導き出した。
いや、だからなんだという話ではあるが。
さて、ほとほと困り果てていた俺だが、やはりなんといっても今の問題はここは何処か、であり、こんなことをするのは時間の無駄という結論に辿り着いた。
場所、という情報は大変重要である。他人の家か自分の家か、それによって取るべき行動は大きく変わってくるのだから。
とにかく情報が欲しいと思って周りを見渡すが、広がるのは薄暗い倉庫であり、わかるのはそこらへんに乱雑に置かれた家具が汚いことくらいだ。
というかここ多分押入れだな。あの棚の上とか完全に玩具だし。もう元俺が必要としなくなったんだろう。
現俺の前の家との押し入れの差に資本主義の格差を垣間見てちょっと気分が凹んだが、一人暮らしだから仕方ないだろう。うん、そういうことにしておこう。
とりあえずここの外に出よう。そうすりゃあ何かあるだろう。
俺は安直にそう考えて歩き出し———盛大にすっころんだ。
大きな音が静かな部屋に響く。静かさにより際立つ音が恥ずかしい。
「いっててて、なんだよこの筒……」
自然に口に出る言語が日本語ではないのに少し驚きながら、俺は自分に恥をかかせた敵を睨みつける。
それは、筒だった。よくわからないが文字と模様が書いてある。
「えーなになに? ソ、エス、ハー……何だこりゃ?」
一瞬英語かと思いローマ字読みしてみたが、どうやら違うらしい。それじゃあ何なんだこれ、ドイツ語か?
だが、ドイツ語にしては見慣れない単語がある気がして、自分の既知のあらゆる言語とは違うのだと結論づける。
まあ自分の知る言語など限られているし、そんなこともあるだろうと思って立ち上がる。
そのとき、俺の頭の中の直感がほんの僅かに反応した気がした。
———俺はこの字を知っている。
その直感に当てられて、俺は立ち止まってしまう。
何だ? どこでこんな文字を見た? いや、というよりこの模様含めて、おれは知っているような……。
とっかかりからなんとかして記憶を掻き出そうとするが、するすると糸が抜けた釣竿のように俺の脳は空回りするだけだった。
結局思い出すという作業をやめると、俺は押し入れの出口へと走っていった。
というか、わからないなら聞けばいいのだ。
この家の主人か誰かに「あれは何か」と言えばきっと直ぐに話してくれるだろう。人間は話したがりなのだから。
心のモヤモヤの解消された俺は、意気揚々と押し入れのある部屋のドアまで歩き、そこを開け放った。
なお、その瞬間俺は悲鳴をあげることになった。
部屋の前にいたのは……巨人である!
自分の三倍はあろうかという巨人が自分を見てい……いや、普通に大人だったわ。
その巨人はよく見ればただの大柄な男で、そこまで怖がる必要もない。食べられる可能性も低いだろう。……食べないよね?
子供の頃は大人がこんなに怖く見えたんだなぁ、そりゃ泣きもするわ。子供が泣くのやめて欲しいとかいうもんやないでホンマ。
自分が内省している間にその大男はどうやら驚きから戻ったようで、俺を心配してか声をかけてきてくれる。
「おいおい、そんなに叫ばないでくれよな。悲しくなるだろ?」
そう言ってこいつは俺を持ち上げる。俗に言う高い高いである。
わーい高い高いだー、すげぇ高いってか怖い今直ぐ降ろせ馬鹿野郎
俺がなんとかその暴言を飲み込んで、体をジタバタとさせて抵抗のみを示すと、男は少し寂しそうな表情をすると俺を下ろした。
「もう一歳にもなると、父親の高い高いも嫌なのかなぁ」
……ちょっと可哀想なことしたかな、と思わないでもないが、怖いものは怖いのだから仕方がない。あれを楽しめるとか、子供は気楽でいいなぁ。
……ん?
今結構大事なこと言わなかったか?
子供に嫉妬する狭い心を落ち着けて今一度彼のセリフを思い出すと……
ふむ、どうやらこいつは俺(1)の父親ということらしい。
改めて見てみると、確かに先ほど見た鏡の容姿に似たかなりのイケメンだ。あと目元とかが似ている。髪の色が青いけど。
このことから、おそらくここが自宅であることがわかる。
流石に一歳の子供に他所の家は歩かせないだろうからな。
つまり、自分のことや家のこと、街のことを聞いてもきっと不思議には思われないだろうし、邪険に扱われることもないだろう。思ったより良い環境で俺は嬉しいよ、ほーらパパ、可愛い笑顔だぞー。
うん、一歳ってのもいい。親も可愛い盛りだろうし好奇心も強い時期だ。デレデレの父親を尻目に俺はそう思った。
まだあらすじの内容にも追いついとらんやんけ!
あ、あの……許して?
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それでは次回お会い致しましょう!