魔法とは 基礎編
「さて───」
父は、そう言って額に指を当てる。
「まず、グリム。魔法の使い方、だが、その前によくある間違いを正しておく」
父はそうすると、突然指を鳴らした。
軽快な音が部屋に響く。いったい何をしたのかが俺にはわからず、ちらと周りの様子を伺った。
「わっ!」
その時だった。突如として俺の前に置いてあった筒が浮き上がり、父の手元へと飛んでいく。
そして、父の手の上で静止したかと思ったら、筒から急に紙が飛び出してきた。
「お、あ………え?」
口から、つい声が漏れてしまう。
本来ならば、このような反応は子供らしくない為俺は絶対にしなかった。
だが、その声を抑えることができないほどに、その時俺は驚愕していたのだ。
「おいおい、そんな驚くなよ。これから魔法を学ぶんだ。もっとすごいことがたくさん起こるんだぞ」
俺の様子を見て、父が呆れたように忠告してくる。
いや、全くもってその通りなのだが、しかし驚いたものは驚いたのだ。
正直、魔法を見るのはこれが初めてではない。それこそこの中世感漂う家の中でバリバリ稼働している時計や冷蔵庫、ヒーターなんかだって見たことがある。
だが、それらは全て元の世界でも再現可能な、言うなれば凡庸な品ばかりだった。
しかし、今のは違う。今のは、正真正銘物理に反した、『魔法』だった。
つまり、実際目に見える魔法というのはこれが初体験だったのである。
「はあ……、まあ続けるぞ」
どうやら話の腰を追ってしまったらしい。
申し訳なさを感じつつ、今度こそ黙って話を聞くことにする。
「さて、それでだが、よくある間違い。それは………魔法というのが魔素を『使って』起こされることだ、ということだ。これはお年寄りなんかがよくいうが、それは全くもって不正解だ」
父は、俺の周りをコツコツと足音を立てながら歩き回る。
その様子は宛ら、事件を解く名探偵のようである。
「いいか、魔法っていうのはな、魔素を『使う』んじゃない、魔素を『変える』んだ。それも体内で、な」
そういうのと父は、ポン、と腹を叩いた。
まあ最近わかったことだからしかたないが、と付け加えながら。
そうやって父が話している間、俺の頭は既に魔法の仕組みについての疑問でいっぱいになっていた。
変えるとはどういうことか、なぜそれだといけないのか、最近わかったようなことを知っているのは何故か……考えれば考えるほど、次々に溢れてくる。
しかし、そこで考えても仕方がないと父の次の説明を待つことにした。
もはやここまできたら、勿体ぶらず最後まで聞き出そう、そう決意して。
「なぜこの間違いを正したのか、だがな。さっきも言ったが、魔法とは『変える』ことだ。そのために必要なのは、意志の強さと明確なイメージ。そこに少しでも間違いがあると、魔法を使う難しさはとても高くなる。当然威力も落ちる。だからこそ、今のうちに、『正しい』魔法を知っとくべきだと思ったからなんだ」
父は優しくそういうと、俺に先ほど作り出した紙を見せてきた。
「一応お前にも分かりやすいように、説明しながら書いてみたんだ。きったないけど……わかるかな?」
そこには、今の説明の雑な図解と、細かな補足が記されていた。
お世辞にも綺麗とは言い難い字と絵だが、なんとなく言いたいことは伝わってくる。
(『魔素の吸収と変質』ねぇ。通りで魔道具の感覚じゃあできないわけだ)
そう、つまりは魔法とは、世界中にある魔素を体内に取り込み、その上で魔素の性質を変換させて起こすものだったのだ。
魔道具は、その『吸収と変質』の部分を代わりにやってくれていたのだ。
それなら今まで魔法が使えなかったのも納得できる。俺は完全に何かを「召喚」するつもりでいた。それは、父に言わせれば「不正解」だったわけである。
「うん、わかったよ、多分。有難うお父さん」
俺は、心からの賛辞を父に送る。
彼は、それをあくまで彼は子供の軽い礼と受け取るとわかっていても。
「ん、いいんだよ、お前のためだし……俺のためでもあるんだから」
父は、予想通り普通に返事を返してきた。
……自分のためってどういうことだろ。いや、話の腰はもう折りたくないから訊かないけど、なんか気になるな。
しかし、父はそのことに触れることなく話を進めていく。
「それでな、まあつまり、魔法ってのはまず魔素を吸収できるようになんなきゃ始まんないんだよ」
父は今までの探偵モードを解除すると、いつもの通りだらけた姿勢でそういった。
先程までのピンと伸びた背筋はどこへやら、今はすっかり猫背である。
「ま、そんなわけで、これから俺はまず魔素の吸収を教えるんだけど、わかった?」
すっかり表情も緩んでいる様子で、父は俺にそう問う。
もちろん俺は笑顔で返事をする。
「うん!!」
父は明るく微笑んだ。
◇◇◇
ある程度の勉強が終わった頃のことだ。
「あ、そうだそうだ。折角だしここでちょいとだけ魔法見せてやるよ」
部屋を出ようと父が俺を抱き上げる寸前、突然父がそう言い出した。
いきなりではあったが、まあ俺としても有難い。是非とも見せて欲しいと父に懇願すれば、父はノリノリでそれを承諾した。
「さぁて、久しぶりにアレいくかぁ!」
そう父は叫ぶと、父はすっとその目を閉じる。
それから一瞬だけ止まったかと思うと、その後すぐにその手を前にかざした。
「少し危ないから離れろよ、グリム!」
その警告を放つや否や、父はすぐさま開眼する。
そして、俺が少し距離をとっていることを確認して────
その瞬間、大きな風が巻き起こり、俺はつい目を閉じ、顔を背けてしまう。
そして、少しして風がやっと止まった頃、うっすらと俺は目を開いて………
俺は、目を大きく見開いた。
そこに広がっていたのは、宇宙だった。
当然本物ではない。これは例えである。
綺麗な、七色に輝く小さな粒がそこら中に舞っては消え、舞っては消えと生々流転する様子がそこにはあった。
一つ一つの星も、全てが違う形、色をしていて、それがまた宇宙っぽさを演出している。
ふと手を伸ばせば、指に一際小さな星が流れてくるのが見える。
そして、それに触ろうとさらに手を近づける。
しかし、その手に触れた瞬間、星は跡形もなく消えてしまった。
そのことに驚きながらも、それもまた趣深い。そう思ってしまう。
俺の顔はきっと、それこそ子供のように輝いていたことだろう。
その時、その全ての星が一瞬にして弾け、消滅した。
「はい、今回はここまで。魔法、なかなか楽しいもんだろ?」
そこには、自慢げな顔をした男──父だ──が立っていた。
父のその言葉に、俺は内心盛大に同意する。
(全く、これは最高に唆る要素だなぁ……クックック!)
ワクワクが止まらなかった。
極めれば、こんなことすらできるのか、と。
そして、こんなに身近に『彼』がいたのか、と。
「楽しんでくれたようで何より。それじゃあ、戻ろうか」
父はそういうと、今度こそ俺を抱き上げて、母の方へと戻っていく。
その時、俺は父の胸に抱かれながら、あの見覚えのある魔法を思い出していた。
「本当に……綺麗な魔法だったよ、『彗星』さん」
俺は父も聞こえないほどの音量でこっそりと呟くと、そのまま体を預けて夢の世界へと落ちていった。
魔法の仕組み、お分かりいただけましたかね?わからなかったら気軽に質問してください。
ちゃんと答えますし、設定がまだ未出なだけでしたらそう言わせていただきます。
それじゃあ星とブクマよろしくお願いしますね〜。




