魔法とは 入門編
「お、来たか」
扉を開けると、そこには父がいた。
父は俺を視界に収めると、すぐにこちらへ来て俺を抱き上げる。
「じゃあ、グリムはそこの椅子に座ってろ」
父は優しく俺を椅子に据えた。
まあ、木製の椅子なので、どちらにせよ痛いは痛いのだが。
父はそのあと腰をかがめて押し入れの中に入っていってしまった。
いったい何をとってくるつもりなのかわからないが、俺はとても興奮していた。
ああ、ついに魔法が使えるぞ……
今迄なあなあで誤魔化されてきたが、漸く異世界らしいことができるのだ。
やはりゲーマーとしては絶叫ものである。
俺がこれからのことに胸を躍らせていると、中から大きな音がした。
俺がいったい何の音だろうと考えている間に、父が中から帰ってくる。
「はぁ、いてぇ〜。崩れちゃったな……」
帰ってきた父は、口を尖らせぶつぶつと何やら言っている。
その内容を聞くに、どうやらものを取り出すときに他のものが崩れきたらしい。
不注意なのが悪いとはいえ、まあ無事でよかった。
その後父は手に持つそれを机に置くと、椅子に座る俺の隣にやってきた。
「さて、それじゃあ魔法の使い方のお勉強をしようか」
遂に、魔法の授業が始まる。
◇◇◇
「じゃあ、まずは、魔法の前にその素となるものを教えるぞ」
父はそう前置きした。
本当のことを言えば、今すぐにでも魔法を教えて欲しいと言いたいが、しかし基礎を理解しておけば後々役に立つことも多いので黙って聞くことにする。
それに、対して魔法について知らない素人が口を出すところではない。
「えー、まずこの世界には『魔素』と言うものがある。それは絵本で知ってるよな?」
俺は頷く。
「そう。その魔素を使って、人間は魔法を使うんだ」
そう言うと父は、手のひらに力を込めた。
すると、「何か」が集まっているのが……いや、「ある」のが分かった。
「ほら、これが魔素だ。世界のどこにでも存在して、常に循環している。ほんとは見えないんだが、今はちょっと魔法を使って見してる。特別だぞ?」
「へぇ〜……」
若干相槌が適当になってしまう。
だが、それも仕方がないほどに俺はそれに見入ってしまったのだ。
魔素は、輝いたり動いたりはしないが、それでもどこか美しく見えた。
父は、そんな俺をみて少し笑うとその手を閉じる。
すると、魔法が解除されたのか魔素も同時に見えなくなった。
俺は正気に戻ると、改めて父の方へと向き直る。
その表情はきっと物足りないと言う感情がはっきり出ていたことだろう。
「ハハハ、そんな顔するなよ。グリムもすぐできるからさ」
父はそんな俺を宥めるように、大袈裟に腕を振っていった。
しかし、それでもなお表情を変えない俺に、父は苦笑いしてしまった。
「ほら、説明続けんぞ〜。それで、えーっと、お前もう魔力については学園でやったんだろ?」
「うん、楽しかった」
「あー、じゃあこれは間違えないように早めに言っとくぞ。『魔素』と『魔力』は別物だ。よく似てるし、実際分からなくても困んないけど覚えとけよ」
父は、結構真剣な声色で俺に忠告してくる。
しかし、俺はその説明を聞いて首を傾げた。
「んーー、何が違うの?」
その質問に対して、父はそのままの声色で説明をし始めた。
「魔素ってのはつまり、この世界を循環する要素………まあちっちゃい粒みたいなもんだ。見えないけどな。ここまではいいか?」
俺が分かっているような顔をしていたので、父は説明を続ける。
「それに対して、魔力ってのは『波』なんだ。こう……説明しにくいんだが、確かな物というより、なんていうか、力の流れって感じなんだ。お前にわかるように説明するのは難しいなぁ」
父は何とか子供でもわかる言葉に変換しようとするが、どうやらあまりいい言葉がないらしい。そのままずっと頭を捻り続けている。
しかし、俺は子供ではない。何となくだが、その違いを理解できた。
(つまり、魔素は粒子で魔力は圧力的な……空気の分子と風みたいな関係ってことか。確かに、全く違うものっぽいな)
俺は頭をかいている父を見乍ら、自分で納得する。
思えば、確かに先程の魔素はどこか粒子の集合体ようだったが、学園で感じた魔力は明らかに波の、力の奔流のようだったな、と俺は思う。
と、そこでどうやら適当な説明を思いつくのを諦めたようで、父はため息をつくと、「とにかく違うってのを覚えとけ」とだけ言って元の話に戻ってしまった。
「あーっと何の話だったか………そうそう、魔力についてだな。えーと、魔力なんだが、人間が魔法を使う時、これは絶対に起こる。というか、起きたら魔法だ」
「ふえー」
俺は再び気の抜けた相槌をうつ。
「だから、よく魔法の強さを測るのに使ったりするな。……まあ所詮感覚だからあんま当てにはなんないんだけどな」
後半に何かぼそっと愚痴が聞こえたが、聞こえなかったことにして続きを待つ。
すると、父は一瞬見せた怒りの表情をすぐにしまい、話を続けた。
「まあつまり、こんなふうに使い方が違うからごっちゃにして話すとえらい目見るぞってことだ。わかったか?」
こちらに向き直り、視線が俺へと向けられる。
それに応えて、俺ははっきりと肯定してやった。
父はそれを見て満足げに笑うと、また話をし始める。
「それじゃあ次は、魔法が出るしくみをやろうか」
お、と俺は思う。
レインといくらやっても出来なかった魔法の仕組みがやっとわかるのだ。
やっと本題らしいところが来て、俺は俄然話を聞く気になった。
授業は、まだまだ終わらない。




