新生グリマニア
日の光が目にかかり、俺はようやく目を覚ます。
「……んぅ、朝、か」
眠い目を擦りながら俺は意識を覚醒させる。
普段ならこんな時間まで俺が寝ることはないのだが、今日は学校が休みなので母は俺を起こさないでいてくれたらしい。
ちょっとした配慮に感謝しつつ、俺は改めて昨日のことについて考える。
昨日、ふと考えついてしまった「可能性」、それに対して、自分は何ができるだろう。
勿論目的の為の努力は惜しまないつもりだ。やりこみには慣れている。
しかし、いかんせんすべき努力が不明瞭すぎる。これではできる努力もできやしない。
「はぁ、どーしたもんかね……」
つい、弱音を吐いてしまう。
大体、本当にその必要があるのかも怪しい。
あるかないかもわからないことに怯えて、空回りしてボロが出ることの方が俺にはよっぽど恐ろしく感じられる。
俺は無駄なレベル上げや非効率な買い物は嫌いなのだ。
「はぁ………」
ここで再び俺はため息をつき、寝返りを打つ。
考えても考えても、まるで見えてこない答えに俺は苛立っていた。
沈黙。
「ああーーー!!!! わっかんねぇ!」
俺は跳ね起きると、乱雑に頭を掻いた。
幼児特有のサラサラした髪の感覚がする。こんなに掻くとすぐに抜けてしまいそうだ。だが、その不安定さが俺を多少冷静にした。
「どうせ考えて答えが出る類の問いじゃないんだ、仕方ない!」
俺はそう言って自分に言い聞かせる。
俺は自分のすべきこと、それを今、ここで決定した。
すると、今迄乱雑に散らかっていた思考は一気にクリアになっていった。
その爽やかさが未だに残る頭の中で、俺は再び自分の決意を言葉にする。
やる、それが俺の出した結論だった。
どちらにせよいつかはやるのだから今やろう。というわけである。
さて、そうと決まれば、やるべきことは一つだ。
確かに幾ら俺が決意を新たにしても、俺は所詮一人の子供で自分のできる範囲のことなど限られている。しかし、だからこそ、その限られた選択肢の中で、できるだけのことをしなくてはならない。
思い立ったが吉日という。俺早速行動巣すべくベッドを降りた。
そのまま俺は勢いよく寝室の扉を開け、食卓へと向かう。
まるでこの世界に来た初日のようだな、と少し思った。
だが、それでいい。俺はつい先程、再び生まれ変わったのだ。
新生グリマニアの生き様、見せてやろうぞ!
最高潮のテンションを纏い、俺は彼のもとへと歩く。
その歩みは、さながら勇ましい軍隊のように決意の力に満ちていた。
◇◇◇
「ねぇ、お父さん、僕魔法してみたい!」
目的の人物───つまりは父親───に合うや否や、俺は早速用件を伝えた。
父親はそのせいで少し吃驚してしまったようで転びそうになっていた。
俺ができる唯一のこととは、それ即ち魔法である。
多少体を鍛えるとか、勉強とかは今からやっていては不自然だし不健康だ。
それが原因でボロが出て目的が達成できなくなれば本末顛倒である。
しかし、魔法は違う。
確かに子供のうちから魔法ばかり、というのは多少一般から逸脱しているし、前にも言ったが多少「グリム」という人間像からの乖離を見せる。
しかし、他の案に比べて丁度学園で習ったばかりで違和感もなく、また今後魔法学校に進学するとなった時の理由にもなるという一石二鳥の行動なのである。
多少のリスクを負ってでも、俺は今は自分を高める必要があるとそう判断したのだ。
そんなわけで、魔法は誰でも使えると聞いたのでとりあえず信頼できる親に頼んでいる。
「あー、えーと……ま、魔法を使えるようになりたいのか?」
そう聞かれたので、俺は威勢よく肯定の言葉を返す。
当然である。一体何処に魔法が使えるようになりたくないのに魔法を使おうとする奴がいるのか。
父はその言葉を聞くと、少し困ったように眉をハの字に変えた。
後頭部を決まりが悪そうに手で掻いている。
禿げるぞ、と言いたい気持ちもあるがここはグッと我慢。
「あー、学園でもうすぐ習うだろ? 何で今やりたいんだ?」
父は、そう言って俺に再び問いを投げかける。
まあ、当然の疑問である。来るだろうと思っていた。
魔法を習い始めてもう一ヶ月近く経つ。幾らペースが遅いとはいえ、そろそろ魔法の発動の練習に入る頃だろう。彼は、なのに何故今からなのか、と聞いているのである。
しかし、その程度のことで今の俺は止まらない。
俺はすぐさま用意しておいた答えを相手に放つ────!
「僕は今やりたいの! 僕もお父さんみたいに魔法使ってみたい〜〜!」
……別に嘘は言っていない。
俺は今魔法が使いたいし、(例えば)父のように魔法が使いたいのだ。
なので、ヨシ!
父の顔を見れば、もう見るからに嬉しそうな顔をしている。
ふっ、チョロいぜ。
「じゃあ、必ず俺がいる時だけ使うようにできるか〜?」
「うん! 勿論!」(大嘘)
そう返事をすると、父は大きく頷いて俺の手を握った。
力は俺が痛くないよう優しくなっていたが、そこから伝わる感情は何故かとても嬉しそうなものだった。
きっと俺に言われた言葉が相当嬉しかったのだろう。
朝食を食べたらあの押し入れのある部屋に来るように言われた俺は、今迄の朝食の中で最も舞い上がった気持ちでパンを頬張ったのではないだろうか。
正直、味はほとんどわからなかった。
いうても男の子。ワクワクしちゃうよね




