たまにはみんなで
俺は「はぁ」と小さくため息をついた。
隠れてやったので、誰かにバレることはないだろう。
俺がため息をついた理由、それは勿論魔法についてである。
ここ最近、魔法の時間がめっきりなくなってしまっている。
そのせいで、俺はあの日から何も進歩していない。
勿論なるべく自分で考察したり試したりはしているのだが、今のところは一度も成功していない。
親に聞くことも考えたが、「グライ」はそこまで勉強熱心ではなかった。何が未来を変えるかわからない以上なるべく矛盾する行動はとりたくない。
そんな訳で、俺は二の足を延々と踏み続ける毎日を送っているのである。
当然だが、別に俺は特段魔法が好きなわけではなく、今までに使ったことがないから使ってみたい、程度の興味しかない。
しかし、これからのことを考えるとあまり悠長にしている暇はないのだ。
俺はこれから学園の魔法科に進む。これは決定事項だ。
俺がやる、と言ったのだからそれ以外は取らない。
だというのに、今の俺は魔法のまの字をやっと知った程度だ。
つまり、このままで本当に大丈夫なのか、と俺は不安なのである。
そうして俺が考えを巡らせていると、後ろから急にレインが話しかけてきた。
「ねー、あそぼー?」
レインは無邪気な笑顔をこちらに向けている。
これが普段の俺だったならもう即落ちだったのだろうが、生憎今の俺は虫の居所が悪い。あまり元気とはいえない声でレインに返事をしてしまう。
だが幸いなことにレインはそれに疑問を抱く様子もなく、俺への話を続けた。
「あのね、ユキ……? くんがみんなでおにごっこしようって」
どうやら、園児あるある、(ほぼ)全員参加の遊びが催されるようだ。
大方、レインはその話を俺に伝えるように言われてきたのだろう。
こっちの悩みも知らないで、随分と楽しそうである。
お前とのイベントがいつあるか気が気じゃないんだとかルーナとの関係どうすんだとかいう言葉が一瞬口をついて出そうになったが、しかしギリギリの所で止める。
(……今のはただの八つ当たりだな。まったく、大人気ない……)
俺は心の中だけでレインに謝罪をする。
そして、その思考を振り払いと、少し思案して一つの結論を出す。
まあ、偶には息抜きをしてもいいかな。ちゃんとガス抜きをしないと、いつ今みたいに口を滑らすかわからないし。
そう考えた俺は、レインに対してゆっくりと頷いてみせたのだった。
「うん、やろうか。じゃあ、行こう?」
レインはその返事に微笑むと、後ろを向いて駆け出していった。
俺はスッと立ち上がる。
レインが向かった方向を見れば、既に結構な人数が集まっているようで、俺は集合に遅れている組なようだった。
これは謝らないとかな、と苦笑すると、俺はそこへと歩き出した。
◇◇◇
「あ、きた!」
大きな声が部屋に響く。声も高いので尚更だ。
「ゴメンね、ユキくん。遅い?」
俺がなるべく誠意がありそうな声で謝ると、ユキはそれを特に咎めずに笑って許してくれた。
まあ、子供だから本当に何も思わなかっただけかもしれないが。
「えと、これでぜーいん?」
首を大袈裟に回して、ユキが人数を確認する。
といっても数を数えることはできないので、あくまでも思い出せる顔が全員いるかを確かめているだけなのだろうが。
どうやら確認の結果は問題なしだった様で、視線を戻すとユキは再び大きな声で俺たちへと話しかけた。
「きょうはかくれんぼをしたいんだ! それで、おにやりたいひとはー?」
その問いかけに答えるものはいない。
まあ、一人寂しくというのはあまりやりたい職業ではないだろう。
だがまあ、今回はそれよりも———
「じゃあじゃあ、おれ! おれおにー!」
その結果を見てユキは自分が鬼になると提案する。
というより、これは狙ってたんだろうな、と俺はなんとなく思う。
だからといって誰も反対する理由など持つはずもなく、その提案は可決された。
それにしても、なんというか、みんなでルールを決めて遊ぶ、というのもそうだが、随分と大人びた子供たちである。
中世では精神の成長スピードが現代の1.5倍だったというのは強ち嘘ではないのかもしれない。
俺がそんなことをぼーっと考えていると、ふと、レインが俺の服を引っ張っているのに気がついた。
「……? あ、何?」
その言葉に一拍置くこともせずレインはすぐさま答える。
「いいところ、しってるの」
それはつまり、一緒に来い、という彼女からのメッセージだった。
◇◇◇
さて、絶賛俺たち隠れ中、である。
レインの誘いを特に俺が断る理由もないので、そのままついていったところ、案内された場所はまさかの木の上だった。
とても野生的かつ危険な隠れ場所に、最初は少し戸惑ったものの、そこまでの大きさではないこと、何よりレインが熱望していることなどからここに隠れることを決めた。
「よく知ってるね、こんなとこ」
俺は単純に疑問だったのので、そうレインに投げかける。
しかしそれを単純な褒め言葉と受け取ったのかレインは得意げに笑うだけだった。
仕方ないのでもう一度同じ質問をする。
「どうやって見つけたの、レインちゃん?」
「のぼってみつけた!」
元気な声で、だが音量は小さめにレインは返事をした。
まさかレインがそんなに活発な娘だったとは。幼少期のレインの思わぬ一面に、俺は驚いてしまった。
どんな子にもやんちゃな頃はあるんだなぁ……。
などと、謎に悟った様なことを思ってしまう。
人生二周目とはいえ、別にそこらのおじさんより生きてる時間は短いというのに。
と、そうやってあほなことを言ってはいるが、実際ここは結構強ポジだ。
その理由は、その座標にある。
人間というのは、基本的に二重の意味で視野が狭い。
まず、木という立地そのものが強い。
この木は冬でも葉をつけるタイプで、横からの目線をカットしている。
さらに、幹の上にただでさえ小さい子供が乗っていることでその体の大部分が隠されている。
つまり、単純に見つけづらいのだ。
そして、何より強いのがこの高さだ。
先ほども言ったが、人は視野が狭い。視野の外にあるものは見えなくなってしまう。
その点で、上、というのはとても盲点になりやすいところだ。
人間は普段平面で生活している。その為、三次元的にものを考えることが苦手だ。
地球平面説などと言ったものがそれを顕著に示している。
つまり、草葉の陰、遊具の裏といった「地上」という平面に大量に人間がいるこの状況は、鬼の視野を狭め、無意識のうちに上を選択肢から除外させてしまうのだ。
まあ結論として、ここは見つかりにくい、という訳だ。
恐らく偶然だろうが、ここを選ぶとは、レイン、恐ろしい子!
いやぁさすがの豪運……ん? 別にレインの運がいい経験なんて俺はしていないはずでは……?
あ、頭が痛い、な、何故……
……………ま、いっか。
と、まあここまでグダグダ言ってきた訳だが、何故こんなことを語っているのか、とお思いだろう。
当然の疑問だ。別にゆったりレインと話したっていい。ではなぜしないのか。
その答えは単純明快。人が理屈をこねるときはいつだって———
「おにだぞーー!! どーこーだー!!!」
自分の心を落ち着けるためだ。
まあ、理屈ではわかってても怖いものは怖いのです。




