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異世界クズ転生 〜原作のままに生きていく〜  作者: しゅー
序章 その時なにをしていたか
2/125

ゲーマーな彼の記憶


プロローグです。転生直前の彼の記憶。


物語始まる前なんで三人称です〜。


「ん〜、やっと終わった〜」

 そう言って男は体を伸ばした。


 一つ息を吐き伸びをやめ、彼は先程までプレイしていたゲームのディスクを抜く。だが、その表情からはまだ喜びの色が抜け切っていない。それほどまでに大きな達成感を彼は味わっている。


「これで積みゲーは全部やったかな。やっとだ〜!!!」


 その原因を書くまでもない。そう、彼の成したことは積みゲーの消化である。

 最近急に忙しくなり、やりたくてもやれなかったゲームがどんどんと増え、買っただけ、というディスクやカセットが日に日に彼のゲームを入れる段ボール(インベントリ)を圧迫していたのだ。

 しかし、先日やっと休暇が手に入ったことにより、遂に全てをクリアすると言うミッションを開始したのである。


 そのミッションは辛く苦しいものであったことは、その表情から容易に伺える。


 襲いくる睡魔、足りない食事、死にゆく知能……何度悪魔(理性)が次の機会でいいと囁いたことか。

 だがしかし、しかし彼はやり切った。あらゆる困難にも挫けず、来年には遺さないという強い覚悟とともに遂に彼は最後のゲームの電源を落とし、雄叫びをあげたのだ。


 今、彼の頭の中は殆ど虚無となっている。

 やっと終わったと言う達成感、積まれたゲームへの罪悪感からの解放感、そして次のゲームができると言う喜び。およそ人とは呼べぬようなことを、偉業を成し遂げた彼には大量の感情が押し寄せていたのだ。


 その圧倒的な感情に先程まであった疲労は吹き飛んでいる。最早彼はヤク中と変わらないほどの廃人っぷりだ。


 そして、そんな本能剥き出しの彼が次に選択した行動は……

















「よし、次のゲーム買いに行こう!」


 やっぱりゲームだった。


 ◇◇◇


 一人暮らしを始めてまだ長くないためよく覚えていない道が多い中、男がただ一つ間違いなく行ける場所。それがゲーム屋である。


 店に着くと、カウンターから気の良さそうな顔の男が出てくる。

 歳の程はおじさんともお兄さんとも言えるようで見た目からではわからない。というか知らない。


「あ、こんにちはお兄さん」

「ああこんにちは店主さん」


 彼と男ははもう何度もあっており、気軽に挨拶する仲だ。


 「またゲームを買いに来たんですか、ゲーマーですねぇ」

 「ああ、そうなんだよ、なんかいいのないかな?」


 流石に実はここで買ったゲームほとんど積んでました、とは言えない。多少の罪悪感を感じるが、今はもう終えているので男は黙っておくことにした。知らぬが仏というやつである。


 そんな脳内の思考を店主は知る由もなく、彼の質問に応えて店を回りオススメのゲームを紹介してくれる。……中に幾つか在庫処分前のもの(クソゲー)もあるが、当然男はそれを知る由もない。

それもきっと知らぬが仏だろう。

 そうして多少の嘘がありながら、二人の会話は一応和やかに進んだ。



 そうして一緒にゲームを探していると、店主があるゲームを勧めてきた。


「あ、趣味に合うかわかりませんけどね、これとかどうですか?」


 トットットッとリズム良く棚へと歩くと、店主は一つゲームを取り、また同じようにして帰ってくる。男がその手を覗くと、そこには随分とイケメンな男性のイラストが描かれていた。

 絵は綺麗だし、価格もそこそこ、作っている会社も信頼度ゼロ(クソゲーメーカー)ではないので良ゲーの匂いがするのは確かだと男は思う。だが、しかし———


「あの、これ乙女ゲームですよね? しかも結構ガッツリ目の」


 題名「星矢射る高貴の園」、そう、これは女性用なのだ。


 男の反応を店主は予想していたのか、彼は特に驚く様子はない。

 店主は、そのまま自分の話を続けた。


「いやいや、勿論これは女性用なんですけどね、実は男性でもプレイできるストーリーなんです。いや、なんなら少し男性寄りくらいですよ。イラストが女性向けっぽくてあまり有名ではないんですけどね」


 この店主がそこまで言うところを見たことがなかった男は少し驚き、少しずつ心が動かされ始めていた。


 (確かにまだ乙女ゲーはやったことはなかったし……。これもいい機会だし、買ってみようかな?)


 その一瞬の心の隙をやり手の店主が見逃すはずもなく、宣伝の声にも熱が入っていく。

 どこかのテレビショッピングのような話し方に、内容は企業のCMのようとくれば、素人である男にはできることなどあるはずもない。気づけばレジの前で店主の笑顔を見ることになっていた。


◇◇◇


 そのままきた道を逆からなぞると、男はゲームの入った袋を提げながら家のドアを開ける。どこか拭えない買わされた感は、しかし部屋の電気をつける頃には頭からすっかり消えてしまっていた。


 男はつい先程ゲームをクリアしたやる気が消えぬうちにやろうと、部屋に入るとすぐにゲームの電源を入れる。

 画面からはオープニングテーマが流れ始め、可愛らしい女の子が表示された。主人公だ。それを取り囲むように綺麗な顔をした男(子)たちが次々に現れる。声もどこかで聞いたことのあるものばかりで、どうやら結構いい声優を使っているようだ。

 なかなかに期待させるオープニングを見終わると、漸くメニュー画面が出てくる。自分の乙女ゲーデビューに胸を躍らせながら、男は親指をボタンへと落とす。


 綺麗な効果音とともに、ゲームが始まった———。


◇◇◇


 男は死んでいた。勿論比喩的な意味で。


 男の前には電源がつけっぱなしのテレビが置いてある。薄い照明のみがつく夜の部屋には、その明るさは少し眩しい。


 部屋を照らすテレビの画面に映るのは「Complete!!!」の文字。そう、男は何日かかけてここまで辿り着き、そして寝落ちしたのだ。だからこそ、最初にこう表現した。「死んだ」と。今男は先程までの生きる理由を切らしているのである。

 と、いっても、どうせ明日また目が覚めれば新しい「理由」を求めて店へ行くのだろうが。


 男はぐっすりと眠りについている。周りの音も何台かの車が走る音のみ。ただただ穏やかな夜が続いていた。

 

 ふと、部屋に強めの風が吹く。

 それはいくつかの家具を床に落とし、床と家具との衝突音が夜の静寂を打ち破った。しかし、それに気づくものは一人もいない。隣に住む学生も、下に住む会社員も、すでに夢の中だ。


 落下した家具の一つであるダルマが床に落ちても止まらずに転がっていく。


 コロコロ コロコロ  ぽすっ


 転がったダルマは、最後は男の布団に受け止められ、その運動を停止した。


 しかし、その場所にいるべき男は、なぜかどこにもいない。男は綺麗さっぱりその存在を消失してしまっていたのだ。

 同居人もいなければ、休暇中の彼を訪ねる友人も彼にはいない。きっとこのことが気づかれるのは相当後になるだろう。



 無人の部屋には、外を走る車の無機質な走行音だけが響いていた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] どうでもいいことですが、英語ではclearという単語をゲームを最後まで終わらせるという意味では使用しないので、たとえ日本のゲームでも日本語でゲームクリアと書くならともかくアルファベット…
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