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異世界クズ転生 〜原作のままに生きていく〜  作者: しゅー
四章 聖域で嗤う(予定外)
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ゲート・ガーディアンズ その8

光と闇、二つの決戦。

勝つのは、果たしてどちらか────?


 動き出しに合わせて神術を詠唱、初撃死を防ぐ。

 しかしその展開直後に横で衝突音、見ればそこには黒い靄。


(速度が上がっているだと……!!)


 先ほどまでは詠唱してからさらに詠唱し直すまで、若干の猶予があった相手の攻撃。それが、一切の猶予が消え失せている。それ即ち、相手の速度が上がっていることに他ならない。これではジリ貧になるのはこちら、三十秒の耐久などできるはずもない。


(だが、ならば対応するまで!!)


『さらば、御身は守られる!!!!』


 俺は詠唱速度をさらに上げた。

 今までの人生で出したことのないようなスピードで舌が回る。一つ一つの発音を意識せず、反射で文章を紡ぐ。


 もしこれで詠唱を噛んだとすれば、勝負はそこまで、俺は即座にこの地に斃れることになるだろう。

 だが、そうはならない。今まで積み上げてきた経験が、俺にミスを許さない。無意識のうちにではあれど、我が心のうちに眠る数万もの蓄積が、確かに己の力となる。


 確実に防がれる攻撃、それは一瞬の膠着。絶えず警戒を行いながらの、僅かな安堵。

 呼吸を整えることすらあたわず、けれど確かに心休まる時がそこにあった。


 しかし、それは即座に打ち砕かれる。


「なっ!?!?」


 前に見えるは黒き槍。今まで幾度となく現れ、その度に我々の体を貫いてきたもの。

 それ即ち、使えないはずの魔法である。

 

(バカな、使えないはずでは!?)


 全身に走る動揺。

 それは稲妻のように体を駆け巡り、電気に痺れたかのように体を縛り付ける。


 一瞬の後、それが奴の魔道具によるものだと言うことに思い当たるが、もう遅い。

 既に発動した魔法は止まることなどなく、硬直した体はまだ弛まない。


 迫る闇槍。鋭く尖った先端が、確かに俺の体へと飛んできた。


「!」


 ここで、体の支配権がようやく戻ってきた。

 目前に迫った殺意の具現へ、体が本能的に反応したのだ。


「くうっ!」


 首元めがけ飛んできたそれを、俺は体を捻って対応した。

 黒槍は俺の首の薄皮を僅かに削ると、後方へと消えていく。それがどうなっているのか気になったが、今の俺にはそれを確認する余裕などなかった。


 捻れた体、それはつまり無理な体勢。その状態では満足に詠唱など紡げない。詠唱が、攻撃に対して僅かに遅れてしまう。


「ぐおっ!」


 咄嗟に胸の前に差し出した手に鈍い衝撃。

 腕ごと折りにきたらしい、今までの攻撃の比にならない痛みが襲う。


(……腕が逝ったか!)


 痛みの大きさから、直感的に判断する。

 俺は余りの痛手に眉を潜めようとして、すぐにやめた。神術による耐久戦を仕掛けている今、腕など必要ない。必要なのは口だけだ。


 一瞬で頭からケガのことを拭い去ると、今度は攻撃に遅れることなく詠唱を紡いでみせる。

 ドゴォと、心の臓を震わせる鈍い音が鳴った。


(よし、防げた! あと七秒!!)


 勝利までの道は残り僅か。希望の星が燦々と煌めき出す。

 より一層体に気合が入った。


 ─────しかし、それは同時、刹那の油断をさそものでもあった。



  ボフン!!!!



 背後から、何かが弾けたような音がなった。


 それが何かを確認しようとする前に、俺はその正体を悟る。


(…煙幕、だと!?!?)


 ここにきての更なる小細工。

 視界が奪われ、頼れるものは聴覚だけとなる。


 だが幸い、奴の移動は足音という大きな音を伴う。それを聞き分ければ防御は容易い。加わる数撃は、しっかりと展開された結界が防いだ。

 そうだ、もとより速すぎて捉えることなどできていない。ゆえに、結局この行動は大した利には─────


(……! 違う!!)


 ここまで考えて、しかし俺の直感がバッサリとその考えを否定する。

 そうだ、利はある、見落としている、何か、何か……!!!


「そうか、姿隠しっ……!!」


 そういうが早いか、俺はすぐさま結界の範囲を体全体に拡大した。

 と同時、結界に衝突した光弾たち。これは……やはり、魔法だ!


(姿隠しの魔法がいらない分、魔法が飛んでくるのか!)


 状況は最悪だ。


 どこから飛んでくるかわからない魔法攻撃への対応は、全方位結界が必須。

 だというのに、奴の体術は魔法と合わされば、全方位に引き伸ばされた薄い結界くらい割ってくるかもしれないのだ。そして、割られれば最後、敗北するのは俺である。


 つまり、俺はこの視界不良の中、奴の攻撃を交わし続けなければならないということだ。


「………フッ、笑わせる」


 思わず笑みが漏れる。

 だが、それは決して諦めの笑みではない。


 残り四秒。今までに比べればごく短時間だ。ならばそれくらい、やってやろうではないか。なに、視界がないのはやつも同じ、遅れを取りなどするものか!


 右後ろから聞こえてきた地を蹴る音。

 それに合わせて俺が体を前に倒せば、背中を奴の蹴りが掠っていく。


(よし、躱せる!)


 確かに掴んだ希望の糸。

 黒煙の中にあって、しかしそれは確かに白く光り輝いている。


 いける!!!


 続く三撃、四撃を丁寧に体を捻り、捩り、よじり、曲げて回避していく。

 その様は、さながらダンスでもしているかのようだったことだろう。


 しかし、そんな攻撃もあと一秒。既に終わりが見えた!


「!?!?!?」


 その瞬間、視界に大量の魔法弾が映る。

 一瞬にしてそれは網膜に焼き付き、情報処理を済ませた脳が危険信号を発した。


 あれほどの量、どこにそんな余力があったのか知らんが、いずれにせよまずい。あれは、流石に今の結界では耐えられない。


「回避をっ……」


 そういうや否や、周囲を漂う光弾は一斉に俺の元へと向かってきた。


「ぐ、うおおおおおお!!!!!」


 俺はその人生全ての経験と力と記憶と才能をかき集めた、全力の回避を実行した。

 そうだ、教会でもこんな訓練をしていた。この程度、あの量の攻撃の回避に比べれば、造作もない─────!




「あ」




 ………間抜けな声を出したのは、正直仕方がないと思う。

 今、見えたのだ。………………()()()()()()()


 そうか、失念していた。攻撃は何も左右からだけじゃない、上からという手もあるのだった。それなら音も出ないし、何よりこちらからの感知もしにくい。人間は、視野の外に意識が向けられない生物なのだから。

 さらにいえば、この集中的な左右攻撃で視野を絞らせ、且つ煙幕によって俺に視界を捨てさせることで、「音の出る方」を見るという戦法に誘導、俺に地上に目を向けさせていた、というわけだ………なるほど、よく考えられている。これでは、躱せる攻撃も躱せまい。



 ああくそ、これは一本取られたなぁ…………



 なんて思って、俺は一つため息を──────


















 つくわけねえだろこのクソバカがあ!!!!!!!


 既に時間はゼロになっている。奴は今、動ける状態ではない。体をキックの形に固定し、魔法がかかっていた時の慣性で落ちてきているにすぎないのだ。

 ならば、避けられる! 微調整すらできないただの落下物など、躱せぬ道理はないのだ!!


「気合いじゃああああ!!!!!!!!」


 そう叫ぶと俺は光弾の方に突っ込み、何発かを結界に受ける。


「ぐっ!」


 勢いよく当たった光弾は確かな威力を発揮し、結界に穴を開け俺の体にも少しの傷を残した。

 痛みに顔が歪む、疲れ切った体には、些細な衝撃もとてもよく響くのだ。


 だが、それでいい。その行動によって、本来回避するはずだったそれがあったところに強引にスペースを開けられたからだ。

 俺は歪んだ顔を引き締めて一気に体勢を戻し、そして奴を避けるようにギリギリで前転。攻撃を外させた。


「きた!」


 思わず声が漏れる。


 目の前に現れたのは、変わらず黒靄。どうやら既に姿隠しはかけ直しているようだった。だが、そんなことはどうでもいい。

 問題は、その靄が一切動かなくなっていること。


 攻撃開始から三十一秒が経過。既に時間はオーバーしている。今、奴は無防備な状態。更に魔法の反動で効果時間分、つまり三十秒間動けなくなっている!

 ここだ、ここがチャンスだ、奴を捕らえる絶好の機会!


 パトレアを待っていたら逃げられるかもしれない、故にここで! 確実に!! こいつは捕まえる!!!!!!


 俺は体を覆う結界を消し、そしてありったけの力を振り絞って神術の詠唱を開始する。

 いくらか大袈裟かもしれないが、獅子はウサギ一匹にも全力を尽くすという。俺も念には念を、全力でこいつを打倒すべきだ!


『主はこう申された。この世は全て二つに一つ。あるか、ないか、ただその二つに定めらるるものなり。────』


 それは、教会の訓練にて、締めに必ず使う大技。

 章句全てを詠唱すれば、視界に入る全てを『絶対に』打ち滅ぼす、最強の呪文。


 今回は殺すというのは流石にできないので、半詠唱くらいにする。だがそれだけでも、如何なるなものも立つことはできないだろう。


『そこに中庸はなく、全ては極点!』


 詠唱の大半が終わった。既に俺の身体には眩いばかりの力が溜まっている。

 あとはこれを放てば、絶大な力が奴を襲うだろう。



 さあ、これでお前も終わり──────











『いや、終わるのはお前だよ』


「……は?」


 そこには、大きく腕を振りかぶった奴の姿。

 既に敵は目前に迫り、神術も詠唱中の状態。回避も結界も、最早間に合わない。


「しまっ」


 嵌められた、ということに俺が気づいた時にはもう遅く、奴の強烈なストレートは、俺の回避を物ともせずに頭に直撃。今日一の快音を出して俺の脳を揺らした。


『そもそも、針の遅れる時計(テンシュタルディウス)にデメリットなんてねーよバーカ。てか、あっても態々自分の弱点教えるかっつーの』


 嘲笑気味の笑い声が聞こえる。

 なるほど、確かに奴の言う通りである。どうやらこのタイマン、最初から奴に乗せられていたらしい。あの魔法の分析をしてしまった時点で、俺はアレの術中にだったというわけだ。


 薄れゆく意識の中、俺は冷静にそう分析した。

 そして、その身が地に倒れ伏すと、せめてもの一言を絞り出す。


「こ、の……ホラ…ふき、が───」


『おう、当たり前だ。なんたって俺は天下の大悪党、宵闇の忠臣(ルミナ・アベルティー)、だからな』


 ふふん、と鼻息荒く奴は笑った。


 ……何やら、ムカつくことを言われたような気がする。気がするが、残念なことに、もう俺にはその意味を考えられるほどの猶予は残っていなかった。




 ああ、くそ、意識が、沈ん、で、い、く──────





 決着





 そもそも素早さアップのバフにデメリットなんてあるわけないし、「盗人より〜」の回でもそんな描写はありませんでしたよ?

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