ゲート・ガーディアンズ その7
──────まあ、当然そのまま終わるはずもない。
それは、八回目のやつの加速に対応した時のことだった。
『………まあ、流石に頃合いか』
奴は静止した状態でポツリとそうつぶやいた。俺はそれを聞き、すぐに何かを仕掛けてくるつもりだと察する。
だが、とりあえず一縷の希望に懸けて相手に停戦の申し込みをした。
「あー、それはつまり、ここらで帰ってくれるってことか?」
『アホか、な訳ねーだろ』
………だろうな。わかってた。
俺はがっくりと項垂れてため息を吐く。
実に面倒臭い。折角あれの動きに対応できてきたところだというのに、また新しい手を見せられなければならないのか。そう思うと、全身がずっしりと重くなったように感じた。
しかし、パトレアの手前ここで俺が折れるわけにもいかない。舌打ちひとつで自分の心を奮い立たせ、相手をまっすぐと見据える。
「それで? 次は何をするつもりだ? 今度は……それこそ神術でも使ってくるんじゃないだろうな。流石にそこまで来たら俺も対応出ないんだが」
『へへ、それができたら苦労しないんだが。生憎俺は魔法専門なのさ』
「それはよかった。お前のような極悪人に神が加護など、教会の権威失墜どころの騒ぎではすまん」
『わーお、すごい言われよう』
奴はそう言って笑う。俺も、それに対して軽く笑い返した。
だが、互いに軽口をたたきながらもその目は相手の全身を隈無く映している。
それは、この会話すらも戦術の一つであることの証明。相手の口調の乱れ、息切れのペース、魔力の流れや余裕のなさ、その他諸々を読み取るための情報戦。たかだか会話と侮る勿れ、人は「話したがり」の生き物だ。案外ここから決定的な情報が落ちることもあるのだから。次に来るという新戦術をより有利に進めるためにも、ここは────
『……なあエレオス。そんなに見たって仕方がないぜ? なんせ、今から俺がやるのは別に新戦術でもなんでもないんだからな』
「……は?」
奴からのあまりに突然な「宣言」に、俺は一瞬固まってしまう。
なんだ? 急に何を語り出した?? いや、確かにこれは相手から情報を読み取るための会話だが、しかしここまで露骨に開示など……
『だーかーらー、怪しむなっつってんの。別になんてこたない、今から俺がするのは全身全霊をかけた大攻撃だ。そんな必死に情報を探るまでもなく、今までの対処を続けりゃいいと思うぜ?』
「な──────」
あり得ない! 何を急に言ってるんだコイツは!?
こちらにアドバイスをしてくるだけでなく、次の一手すら明かしてみせる、だと? そんな意味のわからないことをしてなんの意味が……それとも、それほどに自信のある攻撃だとでも────いやいや、だとしても非常識すぎる!!!
「な、何を明け透けに作戦を語っている! 意味がわからない!!」
俺は、あまりの動揺から、なぜか相手の行動を咎めるような形で叫んでしまう。
というか、それこそ俺も何をやってるんだ、別にそのまま黙って情報を吐かせればいいのに。相当こちらも意味不明だ。
しかし、相手はそんな様子の俺を他所に、飄々とした態度を崩していなかった。
『いやー、正直さ。もう飽きたわ。一生懸命頭使って、これからのこと考えて、アンリヨール用に力温存して………はー、だっる!! もう全部知らん、なんもかんもめっちゃくちゃにしてやることにするから』
「はぁ?!」
『どーせ、この魔法の弱点も気付いてんだろー? 使用後に動けなくなるっていう、決定的なデメリットがさ』
「…………」
正解だ。俺はずっとそのことを訝しんでいて、攻撃を六回防いだところでそのことを確信したのだ。
理由は簡単で、攻撃が終わった後、コイツが必ず軽口を挟んでいたからだ。
別に連続で攻撃をしてもいい、クールタイムがあるにせよ、動かないというのは些か不用心ではある。だというのに、コイツは必ず何かを話して時間を稼ぐ。時間的制限があるのはあっち側だというのに。こんなもの、「私は動けません」と言っているようなものだろう。
だから、攻撃後の奴を丁寧に観察してみれば、成る程確かに、よくよくみれば周りを漂う黒靄すらも一切の動きを停止していたのだ。それはつまり、相手の動きが完全に停止していることと同義である。
因みに時間も測ってみたが、その時間はきっかり相手の加速時間と同じようだった。(尚この観察のお陰で相手の加速時間は任意らしいこともわかった。五秒というのはすこし早とちりだったらしい、危ない危ない)
まあ、そんな感じで、もしかしたらそこが攻略の鍵か、と思っていたのだが………どうやら相手はこちらが気付いていることに気づいていたらしい。やはり厄介な敵である。
『ま、これ以上お前らに観察されるのも後々困る。ここらで引導渡すことにするわ』
「……!」
奴がそう言った瞬間、全身から血の気がひいた気がした。体中に鳥肌が立ち、額に小さな脂汗が浮かぶ。
それは、膨大な魔力の奔流だ。人間が出せるとは到底思えないほどの、圧倒的な力。きっと永遠に自らでは辿り着けないであろう極地………才能を持つ者のみが見え得る世界に、相手は立っていることを自覚する。
だが──────それでも俺は、冷静さを崩さない。
『……あれ、これでビビらないのか? あんたやっぱりメンタル強いねえ。こりゃ英雄向きの性格してるぜ、俺が保証してやるよ』
体を震わせながらも屹然と立ち続ける俺をみて、奴はケラケラと笑っている。どうやら、奴に怯えない俺が楽しいようだ。まあ確かに、あの力は恐ろしい。冷静さを失わせるのには十分だろう。だが──────
「ふ、う………結構だ、英雄なんて向いてない。こんな、殺気の伴わない、でかいだけの力に臆さないくらい誰だってできる。できない奴は鍛錬不足だな」
そう、所詮『でかいだけ』だ。殺そう、という気概が奴からは見受けられない。それでは圧倒されることはあっても恐怖などはするはずがない。
どうせ殺さないのは片付けが面倒からー、とかそういう理由なんだろうが、そんな甘いことを言ってる奴に怯えるなど言語道断。あんなやつよりもそこらの魔物の方が百倍は怖い。なんせ死の危険と隣り合わせなんだからな。
………あ、今度の見廻隊の訓練はそれにしよう! 馬鹿でかい力の前に怯まない訓練、結構大事そうだぞ、うんうん。
『うおー……やっぱこいつ練習の鬼だったー………』
「? なんか言ったか?」
『ああいや、なんでも』
………なんだったんだ??? まあいいが。
『えー、おほん。では気を取り直しまして…………とりあえず、これにビビらねえってのはちょっと予想外だが、そんなのはどーでもいい。ここからは、全身全霊の超必殺が繰り出されるんだからな』
先ほどまで固まっていた黒靄も今やすっかり動き出し、再びその流動的な見た目に戻っている。
それはつまり、攻撃の再開を意味するわけで。俺は今までの軽口モードから戦闘モードへと心を切り替えた。
奴はその様子を見てゆっくりと腰を落とすと、言った。
『─────三十秒だ。今から三十秒間で、お前に必殺の技を叩き込んでやる。その結果、ここに倒れてるのはどっちか知らんが……何れにせよ、それで決着する』
「そうか、ではお前を捕まえるのに後一分もいらんというわけだな。これは朗報だ」
『………へっ、寝言は寝て言えっての』
そして、互いに最後の休息を噛み締めるように、大きく息を吐いて─────
『針の遅れる時計!!』
最後の攻防が始まった。
果たして、勝つのはグリムかエレオスか──────?
因みに、エレオスが「お前みたいな奴に神の御加護〜」とか言ってましたが、実際のところここの神は人の行為の善悪は気にしていないのでだれでも神術は使えます。
ただ、神術の仕組みが「神への信仰心が詠唱によって物質化し、それが神へと届くことで奇跡の具現化が発動者に授けられる」という感じなので、グリムは信仰心皆無のため使えません。悲しいね。




