ゲート・ガーディアンズ その5
急なエレオス視点への変更、理由は特にないです。強いて言うなら気分。
『加速せよ、針の遅れる時計!』
その呪文を唱えた瞬間、奴の姿がブレた。
いや、その言葉は少し正確ではない。厳密に言えば……目で捉えられなくなったのだ。勿論それは、奴の姿が消えたとか、幻が見えたとか、そういうファンシーなものではなく、もっと物理的に。
要は──────視界から急に消えたのである。
「なっ………!」
まず浮かんだ感情は、驚愕と困惑。何が起こったのかを理解できなかった。突如として敵の姿が消えるという状況に、俺の思考はフリーズする。
だが、それと同時、俺の体は反射的に最初の行動を済ませていた。
「ぐ、うっ?!」
視界に映る情報を整理し切る前に、咄嗟に頭の横に差し出した左手は、その直後に強力な打撃によって弾かれた。
その痛みに視界が点滅し、ただでさえ色のない聖域の景色が更に色褪せた。
何の神術も魔術も施さず、無防備な腕でモロに相手の攻撃を喰らったのである。そのダメージは甚大だった。
だが、攻撃はそれでも止まない。二撃、三撃と体に攻撃が加えられていく。そのどれもが、重く、速かった。
俺はその衝撃に未だ正常な思考ができずにいたが、今までの経験からそれを危険な攻撃であると判断し、すぐさま防御用神術を展開しようとする。
そうして口を開きかけるが、しかしその瞬間、今度は胸部への強い衝撃が入った。
「がっ……はぁ!!」
強い胸部への圧迫により、体内の空気が一気に吐き出される。
呻き声を上げ、俺は床に膝をついた。
と、その瞬間、相手の姿が再び視認できるようになる。
そのムカつく黒靄フード野郎は、先ほどまで経っていた位置に戻っていた。
『おっと……加速の時間切れか。へへ、惜しかったなぁ、あと一撃でノックダウンできそうだったんだが』
奴はそう言って、下卑た笑い声をあげる。
その声がまた腹立たしくて、俺は膝を突きながらも奴を睨めつけた。
「だれ、がっ……やられ、るってぇ……?」
しかし、相手はそれをさも何でもないかのようにじっとしている。
『おいおい、その様子で強がんなって…………ああそれとも、今お前が纏ってる結界のことかい? 確かにそれに触ったら即痺れっちまいそうだが……残念、見破ってるんだなーこれが』
そう言って、男はまた耳障りな嗤い声を出した。
(チッ……やはり魔術師相手に結界は効かない、か……)
俺は心の中で毒づきながら立ち上がる。
そう、俺が今使っているのは結界魔法、つまり防御の『魔法』だ。
よく誤解されるが、神官は神術しか使わないわけではない。(勿論そういう輩もいるが)基本的にはある程度の魔法くらいなら使えるのだ。
普通に生活で魔道具にお世話になることも多いし、別に隔世的な聖人でもなければ義務教育でやるくらいの魔術は普段使いしている。戦闘でも神術の方が強いからよく使うだけで、『強化系』だろうが『結界系』だろうが少しくらいなら練習はあるし、なんなら最近『付与系』でお手軽お祈りグッズなんかを売っている教会もあるらしい。
まあ、教会の魔術嫌いなんてそれこそ数十年前までの話であり、その頃の慣習を引き摺る老害でもなければほとんどの神官は親魔術派なのだ。
……だから神官前では魔法を使うのを遠慮しようとすんな、なんか爪弾き者にされてるみたいで嫌な気分になる。
だがまあ、その誤解は戦闘においてそこそこ役に立つ。
神術の詠唱中に襲ってきた敵を返り討ちにできるので、結構犯罪者の確保とかに使えるのだ。威力も弱めだから間違って殺したりしないし便利だぞ。
(……残念ながら、どうやらこいつにはそんな小細工は通じないらしいが……)
俺は苦々しげに目の前の敵を見つめる。
コイツは、俺が隠れて使った反撃の結界をあっさりの看破し、さらにそれが一発逆転の鍵にすらなりうることも理解してみせた。悔しいが、やはりこんなのでも魔法の腕は一流らしい。先程から使っている魔法の練度からも窺えたが、コイツの強さはやはり段違いだ。聖域の強化アリでこれなのだから、平時だったら俺は軽く遇らわれて終わりだっただろう。
「……ふー、やはりそう一筋縄ではいかない、か」
俺は深呼吸をして意識を集中させる。そして、自らを鼓舞するための言葉を心の中で唱えた。
(相手の強大さに臆するな。平時ならば、などという仮定は無意味。全てあるのは事実のみなのだから。事実として、奴は追い詰められている。俺はパトレアの復帰まで耐え凌げば良い、『それぞれの役割を全うせよ』だ、教えを実践しろ!)
「………よし」
呼吸を整え、俺は改めて視線をまっすぐと相手に向けた。
『お、休憩は終わったのかい、隊長さん?』
そこには、相変わらず飄々とした態度で立ち続ける黒靄の姿があった。
まるで待っていてくれたかのような口ぶりである。上から目線に聞こえるその言葉が、嫌に気に障った。
だから、俺はできうる限りの圧でもって、その言葉に応える。
「もう、十分だ………今の動き、理屈はわかった。──────今ので仕留めきれなかったこと、後悔させてやる」
俺がそう言い切ると、奴は一瞬だけフリーズして……そして、顔が見えなくてもわかるほどに大袈裟に笑った。
『ハッハッハ!! 良いねカッコいいぜ、やっぱ正義の味方はそうでなくっちゃなぁ? 俺もガキの頃は英雄譚ってやつに憧れたもんだぜ』
「……俺は神官だ」
そう返すと、奴は当然だ、と言わんばかりに肩をすくめる。
『ああ、わーってる。そう、あんたは英雄じゃねぇ。…………だから、お前じゃ《悪》にゃあ勝てねぇよ』
「おや失礼………俺はこれでも悪の敵たる見廻隊なんでね。良い子のみんなの為、と言うわけにはいかないが、とりあえず仕事はさせてもらうとも」
一瞬の間。そして─────
『針の遅れる時計!』
『目を開け、世界の歪みを見つけるために────!』
同時の詠唱が、神殿に響いた。
魔法の種類って、実は色々あるんだよ!
『強化系』……魔素を状態変化に置き換えるもの。物質への干渉力を保つよ。
例:『跳躍』、『厄招き』、『針の遅れる時計』
『結界系』……魔素を物質へと置き換えるもの。結界って名前だけど結界以外も含むよ!
例:『白銀の陽光』、『聖核の簒奪』、『合わせ鏡』
『付与系』……魔素を物質に定着させる魔法のこと。最近開発された。俗に言う「魔道具」はこれにあたる。
例: 魔素がものに定着していれば当てはまるので、具体例なし
実はそこそこ前からあったけど、何の役に立つのこれ? って言ってずっとあったまっていた設定。なんか丁度良かったから出しました。他意はない。




