ゲート・ガーディアンズ その2
様々な種類の神術が神殿中に入り乱れる。
短縮詠唱と聖域の神術強化によって絶え間なく紡がれるそれは、しかし確実に俺の動きを封じている。
俺は何とかその状況を脱しようと、無詠唱で大量の魔法をぶつけた。だが、エレオスはその全てを焦らず的確にカバーしていく。そして数秒後には、元の状況に完全に逆戻りしているのだ。
『チッ、戦闘慣れしてやがる』
俺は邪魔な神術たちを苦々しげに見つめ舌打ちをする。
(くそ、俺とアイツじゃ練度が違いすぎる……流石に見廻隊隊長の名前は伊達じゃないな。相手を確実に捉える動きだ)
俺はそう思うと、蟻の子一匹通さないという鬼気迫る表情でこちらを睨むエレオスにため息をついた。
いや、実際このままだとまずい。
俺はこの聖域がどんな仕組みになっているのかは知らない。正直、ここから神術で無線とかそういうのを飛ばせるのかも疑問だ。(魔法はできるらしい、もう確認済みだ)だが、ここでウダウダやっていればいずれ助けが来るかもしれない。そうなればもはや撤退以外の道は断たれてしまう。つまり、俺の完全敗北である。
『それだけは避けてぇ……!!』
小さく、俺はそうつぶやく。
そう、我がハッピーライフのため、こんな序盤に負けてはいられないのだ!
『………仕方ない。ここは秘密兵器を使わせてもらうかね!』
防戦一方の俺からそんな一言が出たからか、エレオスは露骨に顔を顰める。そして、最高に馬鹿にしたような声で嗤った。
「はっ、秘密兵器ィ? この期に及んで小細工か!?」
…………ウッゼェ顔しやがって。完全に舐めてやがるな。
俺は吐き捨てるように舌打ちをする。
だが、俺も負けてはいない。俺はその挑発に一切止まることなく、跳躍を使い加速した。
『おうともよ! 覚悟しろやぁ!』
俺はそう叫ぶと、手元の魔法収納袋から(まあ相手から見れば靄の中からなんだろうけど)いくつかの小物を取り出した。
ハンカチ、ポーチ、クッション……それは一見すると、単なる手のひらサイズの日用品だ。だが、もちろんこれはそんなチャチなものじゃあない。
その素材は、魔糸。そう、これは竜の時にも使った「魔道具」である。
俺はその魔道具を一緒に抱き寄せると、一つ魔法を詠唱する。
『地獄を見な────無窮の願い』
その瞬間、その小物たちが一瞬で弾け飛んだ。
◇◇◇
『さぁさ舞えや踊れや闇の花々、神さんの僕なんて真っ黒に塗りつぶしてやんなぁ!!』
神殿に俺の笑い声が響く。
そして、それ以上に────魂を震わせるほどの破壊音が響いた。
「な、なんて数の魔法を……! どんな化け物ですか!!」
そう、パトレアが叫ぶ。
今、神殿では百を超えるほどの大量の魔法が飛び交っている。先程までアレほど美しく静閑だった筈のそこは、あちらこちらで闇槍が飛び交い爆発し、最早見渡す限りの黒色が染め上げた神殿は恰も既にアンリヨールが復活したかの如くなっている。
その魔法の数はとても一人の魔術師が一度に唱えられる数ではなく、自分らとのあまりに巨大過ぎる実力差に、パトレアは戦慄したようだ。彼の補助魔法は先程までのキレを失い、エレオスの神術の速度、効力の両方の面が一気に弱まる。そしてそれにより途端維持できなくなった戦線に焦り、エレオス本人の動きも鈍っていった。
しかし、さすがはエレオス。実戦馴れしているだけあって、一瞬のうちに戸惑いを彼方へと放り捨てた。そして的確に辺りの攻撃を躱し乍ら、状況の分析を開始する。
すると、僅かのうちに俺の狙いが自分達の混乱にあることを察知したらしく、キッと顔を引き締めると派手な神術を展開し、パトレアの動揺を止めた。
「落ち着け! 単なる魔法の複製………いや、強化増幅だ!!!」
そうしてこの大魔法カーニバルのトリックを早々に見破ると、エレオスは丁寧に一つずつ魔法を処理していく。
その様をみてパトレアも落ち着きを取り戻したようだ。少しきまりが悪そうな顔をすると、彼もまたエレオス同様魔法を処理していく。
『おっ、もう気づかれたか? 早いね〜』
俺はその様子をみて当てつけのように笑う。
ちぇっ、結構これ大きな手札なんだけどな。それなりな時間かけて作った大技だから、それに見合うだけの時間は稼いでほしかったぜ。
そう、俺は心の中で毒づいた。
今やったのは、魔道具に縫われている大量の攻撃魔法陣を一斉に発動する、という技術だ。
それを可能にするのは『無窮の願い』と言う魔法で、その効力は単純明快。「一つの魔法を大幅に強化増幅する」と言うモノ。まあ、要するに何時ぞやの竜災で使っていた『再使用』の上位互換である。そして今回はその強化増幅の部分を、魔道具に縫われた魔法に使うことでこの部屋を覆うほどの魔法を造ったのだ。
まあ、とはいえこの魔法はとてつもなく発動に集中力を要するので、出来ることならどさくさに紛れて封印解除とかまでいけたら楽だな〜、と思っていたのだが。
…………うん、流石にそこまで楽じゃないか〜。ペッッ!!!
と、幾ら託ったところで現実が変わるわけでもない。俺はひとまず気を取り直し、先ほどの絶望的な状況から脱出できたことを喜んだ。
『ハハハ、一気に形成逆転かァ!? 今度はこっちが追い詰めてやんよ!』
「…………冗談キツいな。実力ではこちらが勝っている、すぐに元通りにしてやろう」
再び始まるエレオスと俺の煽り合い。
それにより高まる戦闘へのボルテージを集中力に変換しながら、今度は俺が奴らの動きを制限するように魔法を展開していくこととなった。
状況がひっくり返ったように見えて切り札を切ったグリムの方が追い詰められていると言う罠。ただ、ここから優勢に転じ続ければいいので敗北濃厚なわけではない。
でも、素の実力はグリムが微不利。ヤバいぞ!




