転生先の彼の記録
ある小さな、といってもそこまで田舎ではない街で、俺は生まれた。
その日は別に何か特別な日というわけでもない。気候も穏やかで、俺の生まれ方も特段楽だったわけでも苦痛だったわけでもない、ごく普通のものだった。
しかし、ごくごく平凡な、平凡すぎるその街には似つかわしくないようなことがいままさに起こったのだと言うことは、周りを見れば明らかだった。
周りから上がるのは歓喜の声と、おそらく自分につけられたのだろう名前を呼ぶ大人の声だ。そのことから、俺は望まれて生まれてきたのだとわかる。
なにぶんまだ生まれたばかりなせいで周りの景色は見えないがいくつか甲高い鳴き声が混じっているから、きっと他にも赤ん坊がいるのだろう。といっても、少し遠くから聞こえていたから双子ではないようだが。
一度に何人も子が生まれたのなら、それはきっとめでたいことなのだろう。この歓声の大きさにも納得できる。そんな風に考えながら、俺は泣いていた。
いったいなぜ自分に意識があるのかは全く検討もつかなかったが、それが異常であることにまだ気づいていなかったから、それを疑問に思うこともなかった。
てか今も知らん。誰か教えて欲しい。
そうして無様な泣き声を周囲に晒しながら、俺はあることに気づいた。
(あー、俺、多分天才だなぁ) と。
なんでそう思ったのかは全くわからない。だが、兎に角そう思った。
実際この時点で意識があるのはなかなかに非凡であったし、そう思うのも強ち間違いではないだろう。
そして、この予想が確信に変わったのは、それから1,2年経った頃だった。
目が見えるようになり、立てるようになり……俺は確実に成長を重ねていた。
当時俺はやっと歩き回れるようになり、両親の家を探索していた。
家は床は木造だが基本は石造で、無機質な感じがしてあまり好きではなかった。
だからだろうか、唯一木でできた部屋へと俺は入っていった。
中へ入ると、そこはどうやら倉庫のようだった。(といっても子供からみたらそうだっただけで、おそらくただの押し入れだったのだろうが)
まだ見たことのないような家具や、何に使うのかよくわからない道具がぎゅっと押し込められて、なんとも窮屈そうにしていた。
埃っぽくて暗くて汚いと言う最悪の環境だったが、子供特有の好奇心というやつで俺は一人でその奥へと進んでいった。中には刃物もしまってあり、本当は一人でなど危ないのだが、当時の自分はそこまで頭が回るほど優れた理性は持っていなかった。
上に下に、左に右に、興味をひいたものに駆け寄ってはそれを見つめて、飽きたら捨てて他のものにまたひかれるという随分と身勝手な動きで内部を探検していく。そうして、俺はどんどん倉庫の深部へと進んでいった。
不思議な字と円が描かれた筒を見終わり、また別のものを探そうとそこを右に曲がった時のことだった。
俺はそこで子供と目があった。
その時俺はあまりにも驚きすぎて目を見開いたまま固まってしまっていた。頭の中では誰だ、とか逃げろ、とか色々考えるのだが、体は動かなかった。
こんなところに人が、しかも子供がいるなんて全く予想もしていなかったのだから仕方がない。
しかし、どうやらそれは相手も同じであったようで相手もこちらと全く同じ挙動をして止まっている。
そうして暫く時間が経ち、ふと冷静になって考えてみるとこれがおかしいことであるのに気がつく。
彼の顔はなんとも可愛らしい、美しい顔をしていて、しかもそこまで自分と年は離れていないように見える。そして何より、ここは自分たち家族の家の中である。こんなところに人がいるはずがない。
だが現に人がいるという事実は揺るがしがたく、そのことが自分の頭を益々混乱させる。
自分に兄弟などいただろうか、それとも来客か?
そんな疑問を頭の中に巡らせていると、あるものが目についた。
それは、「筒」である。つい先程まで自分が遊んでいた筒が相手の後ろに転がっている。
自分の後ろを振り返ると、先程まで遊んでいた筒はしっかりとそこにある。どうやら瞬間移動したわけではないらしい。そうして前を向き直ると、なんと相手もまさにこちらを向き直すところだった。
そこで自分の疑問はある仮説へと変わった。
俺は右手をあげる。
相手も同じ側の手をあげる。
俺は左手をあげる。
相手も同じ側の手をあげる。
そこまで試したところで、自分は大きく脱力した。
そう、つまりこれはただの虚像だったのだ。
冷静に見ればすぐにわかることだったのだが、当時は鏡を知らなかったし、何より冷静さを欠いていて相手を観察するということができなかったのだ。
俺は自分の知らない不思議な道具にとても興味をひかれた。当然その道具をまじまじと見つめてみることになる。
鏡が鏡である仕組みなど予想できるわけもなく、なんとか鏡の像から逃げて見ようとしたり鏡の奥の世界を覗いたりしたが、勿論失敗に終わった。
そうして長い間遊んでいると、自分のことをじっと見つめることになるわけで、その顔を何度も見ているうちに、ある感情が芽生えてきた。
それは決してそう思おうと思ったわけでも、よくよく考えてみたわけでもなく、自然と浮かんでいた思いだった。
———美しい。
先ほども言ったが、自分の顔はなんとも可愛らしく、そして美しかった。
その時「俺」は、自分の天才さを確信したのである。
そして、自身の異常のことについても。
次回が本当のプロローグ。




