【短編】婚約破棄されたら、最強の義母軍団ができました【改稿済】
ヒロインは完全に初出ですが、『クロ殿下と剣聖ヴェイセル』に登場した、ニマくんが登場するお話。その他、本編に登場したメンバーも出てきますが本編を読んでいなくてもわかるように書いたつもりです。
R-15は危険物の名称が出てくるので保険です。
※誤字修正しました<(_ _)>
「システィーナ・フォン・シュリー伯爵令嬢!私、セルジオス・フォン・ウィンディアは今日この場で、君との婚約を破棄させてもらう!」
ここは、北方に位置するエストレラ王国。
その王城で、地味なブラウンの髪と目の私・システィーナは婚約者であるセルジオスから、唐突にそう告げられていた。私は、前世の記憶がある。
だからエストレラ王国の慣例でもある前世の記憶もちである転生者および異世界召喚者が受けねばならない、エストレラ王国の北方竜保護区での研修もしっかり受けた。
北方竜保護区には竜が生息している。竜の密漁及び乱獲を防ぐため、転生者や異世界召喚者は必ず受けないといけないのだそうだ。
だから研修を受ける際に私も転生者であることを公にしており、貴族社会では私が前世の記憶もちだというのは周知の事実である。
だけどまさか自分が、前世で流行っていた婚約破棄イベント場面に居合わせるなんてこれっぽっちも思わなかった。
最初はエストレラ王国の隣国・ロザリア帝国で始まって、最近はエストレラ王国でも流行り始めた婚約破棄イベント。いざ自分がそんな目に遭うとなれば、冗談じゃなかった。
「そして、私の新たな婚約者はヒルデガルド、君だ」
金髪碧眼のファンタジー世界の王子さまのような外見を持つセルジオスが抱き寄せたのはヒルデガルド。私とは正反対の、かわいく華やかな少女。私の義妹だ。彼女は我が伯爵家の後妻との娘である。
「はい、セルジオスさま!」
ヒルデガルドは、桃色のふんわりとした髪にサファイア色の瞳を持っていて、どこから誰が見てもかわいらしい少女である。
「な、何故っ」
「決まっているだろう!君がヒルデガルド、いやヒルダに行ってきた、虐めや暴言、暴力全て彼女が話してくれたよ」
「はぁ?私、そんなことっ。むしろ、その子が」
私にやっていたことなのだが。
「この期に及んで、ヒルダに罪をなすりつける気か!」
こやつ、まるで聞く気もないらしい。
「いえ、なすりつけているのはっ」
「そうですわ!お義姉さま!私、もう我慢するのはやめました!そして、侯爵子息であるセルジオスさまが私のために共に声を上げてくださると。そして婚約してくださると約束してくださいました」
やっぱりアンタもおバカちゃんか~いっ!!
「そうだ。因みに君は廃嫡だそうだ!義妹にひどいことをした責任だそうだぞ!」
「えぇ、お父さまが認めてくださいましたの!ですから、とっとと伯爵家からも出て行ってくださいまし!」
「そんな。じゃぁ、明日から私はどうすれば」
まさか、あのバカ父がそこまでするとは思いもよらず。
「さぁ?どこかで野垂死ねば?どうせ傷物のお義姉さまをもらおうという貴族なんていないのですから。アナタみたいな傷物でも若ければいいという貴族でも紹介して差し上げたら?セルジオスさま」
最早勝ち組に上がった彼女は、己の腹黒さを隠しもしない。
「そうだな。どこかで野垂死にもいいと思うが。やはり君には相応の罰が相応しい」
そしてその腹黒に染められた哀れなバカ。
「それじゃぁ、俺と婚約する?俺、婚約者いないからさ」
―――そんな時だった。
「え?あなた、確かニマくん?」
彼は王立エストレラ学園在学時に出会った同級生だった。私はヒーラー志望でそこそこ治癒魔法が使えた。だから、ヒーラー友だちに連れられて彼が所属していた学生寮に遊びに行ったときに出会った。
ヒーラー友だちのひとりの異母兄である彼とも何かと話すことが多かった。何より彼は異世界召喚者であり、私の前世の記憶について理解してくれたり地球とこの世界の違いなんかを話したりして楽しい時間をすごしたっけ。何となく、気が合ったのだ。
「うん。学園にいた頃からちょっと気になっていたし。マッドヒーラーたちの暴走を止めたり、異母妹やその友だちのデンジャラスマター料理を華麗に阻止してくれる君なら、と思ってね」
確かに。ヒーラー友だちがマッドポーションなるものを開発したり、愛妻料理とか言って、紫色の謎の物体を彼女の婚約者である王子殿下に食べさせようとしていて、王子殿下の騎士さまと一緒に、何度か必死で制したのを覚えている。
「だけど、私みたいな傷ものっ」
「大丈夫だよ。傷ものとか気にしないからさ。ウチの家族、結構変わってるからね。ウチの母さんなんて“失恋は女の勲章”とか言ってるから」
確かニマくんのお母さまは“勇者”だと聞いたことがある。ニマくんと同じ召喚者なのだ。
「失恋ではないと思うのだけど。だって、別に好きじゃなかったですし」
ただの政略結婚だったし、彼は残念過ぎて惚れることもできなかった。もちろん政略結婚は貴族にとって、避けては通れぬ道。私だってお家のために頑張ろうとは思っていたが。私を問答無用で廃嫡にした父にも呆れてもう伯爵家だとかなんだのどうでもいい。
「ぐはっ」
え?何かがセルジオスにクリティカルヒットしたわね。
「まぁ!お義姉さまったらセルジオスさまを愛してもいなかったってこと!?弄んでいたのね!!」
いや、政略結婚ってそういうものだぞ、義妹よ。
「いや政略結婚なんて、そう言うものでしょう?」
と、言ってやる。一応、義姉として。
「そ、それに、知っているんだぞ!お前!ラピスティアの男爵家の出身だろう!はんっ!婚約破棄されて家格も下がるとは、お前にお似合いだな!システィーナ!お前が男爵家に格下げされたら目一杯虐めてやるからな!俺は侯爵家子息、男爵家など目じゃないぞ!」
いつの間にか復活したセルジオス。
「えっ、ちょ、セルジオスさま。ニマくんはっ」
しかもものっそい誤解をしていると思うのだが。あぁ~、このバカは。
「気軽に私の名を呼ぶな!汚らわしい!」
「そうですわ!」
と、セルジオスと義妹。
「いや、あなたもさっき私の名前を呼んだじゃない」
と、思わずため息。
「それで、システィーはどう?俺のお嫁さんになる?」
私を愛称で呼んでくれるニマくん。身分の割りに気軽で優しいところも好感が持てた。
「―――そうね。他に貰い手なんてきっとないだろうし。それに私、ニマくんの容赦のないボケツッコミ、割と好きなの。見ていてスカっとするから」
これは、譲れない。だから彼の隣にいると楽しいのだ。何よりあの碌に相手にもしてくれない、プレゼントもくれない、デートにも付き合ってくれないエスコートもしてくれないあのバカに比べたら。ニマくんとたくさん笑った時間が幸せだなって感じたことを覚えている。
「それじゃぁ、決まりだね」
ニマくんが微笑んだのを見て、絶望的だった世界があっという間に温かいものに変わっていく気がした。
「ちょっと待て!そんなの認めないぞ!しがない男爵家の分際で!」
とセルジオス。往生際が悪い。―――と言うか、わかってないの?ニマくんは王立エストレラ学園でも有名人だった。なんたって、王立エストレラ学園で大人気だった、エストレラ王国の双子の王子殿下のご友人だったし。
「いや、お似合いとか言っておいて認めないってのはちょっとどうなの?バカなの?」
つい、溜息とともに口から本音が出てしまった。
「う、五月蠅い!私は侯爵家子息!未来の侯爵さまだぞ!?」
いや、だから!
「あの~」
と、ニマくんが申し訳なさそうに声を掛けるのだが。
「黙っていろ!男爵家風情が!」
そのくらいでやめた方がいいと思うのだけど。自業自得ってやつ?
「まぁ、おじいちゃんはラピスティア男爵だけど」
確かにニマくんのおじいさまはラピスティア男爵だ。
「侮辱罪で訴えてやるぞ!」
「そうよ!男爵家の、しかも孫が!」
「それに、知っているんだぞ!お前の母親は平民出身でラピスティア男爵家の養女だってな!」
「まぁ、貴族の血も引いていないじゃない!!それでよくセルジオスさまに盾突いたわね!」
確かに、ニマくんのお母さまは平民だったが今は男爵家の養女に入っており、立派な男爵令嬢、いやもう“結婚”しているから夫人。そこまで知っているのにこのバカどもは知らないのか?ニマくんのお母さまは男爵夫人ではなく、
「まぁ、そうだけど。血のつながった父さんはクォーツ公爵だよ?」
そう。ニマくんは召喚者だが、ニマくんのお父さんは異世界渡りと言う物凄い空間魔法を使える方で、この世界と地球の行き来も難なくできるそうだ。だからニマくんが地球人とこの世界人との混血でもなんら不思議はない。それに彼の父親はエストレラ王国でも、王家の次に高位な5大公のひとつであるクォーツ公爵そのひとなのである。そして当然ニマくんのお母さまは、“クォーツ公爵夫人”なのだ。
『え?』
ふたりとも唖然としていた。
「実家はラピスティア男爵家だけど、父親はクォーツ公爵だし戸籍もクォーツ公爵家にあるんだ。俺の本名は“ニマ・リンチェン・トバリ・クォーツ”。13人兄弟姉妹の9男だけど血筋は間違いなくクォーツ公爵家だし、ウチの兄弟姉妹、―――例え俺が9男でもその婚約者に手を出したら容赦しないし」
はぁ。苗字からも一発でわかるだろうに。クォーツ公爵子息じゃなければ、苗字に“クォーツ”が入っているわけがない。
「え、クォーツ?5大公家?」
「それ以上にヤバい連中がいるからさ。だからこれから注意した方がいいと思う」
それ以上に?ニマくんの異母兄弟の中にはエストレラ王国の第2王子、魔人王、マッドヒーラーとか、世界最強の剣聖だとかそうそうたるメンツがいるのだが。それよりもヤバい?
「え?じゃぁセルジオスさまより、立場が」
「俺、まさか大公家にケンカを売ったのか?」
「ちょっと待って!じゃぁ、お義姉さまの方が私よりも立場が上に!?あの、ニマさま!私、ニマさまと婚約しますぅっ!!」
「ひ、ヒルダ!?ちょっ」
「気安く触らないでくださいまし!あと、愛称で呼ぶな!金と権力があるから相手にしてやっていたけど、アンタみたいなボンクラまっぴらごめんよ!!」
「そ、そんなぁ―――っ!!!」
今更事態の深刻さがわかったふたり。そして、義妹よ。ついに本性を出したな。
「ですから、ニマさま?私にひどいことをするお義姉さまよりも私と結婚しましょう?」
この期に及んで、この義妹はっ!!
「その話なんだけど。システィがそんなこと、するはずないでしょ?」
ニマくんは、義妹の言葉をあっさりと否定して私を信じてくれた。
「え。でも、被害者の私が証言しているのよ!?」
妹が喚くが。ニマくんがその場に何事かと駆けつけてきたふたりの名を呼ぶ。
「ねぇ、アリス、クロ。どう思う?」
「あのひと、ステータスに“嘘つき”って書いてあるけど」
ニマくんが“アリス”と呼んだのは私の王立エストレラ学園時代のヒーラー友だちだ。赤髪にマリンブルーの瞳を持ち、羽根のような形の耳をもつ羽耳族と呼ばれる獣人族の一種である。
因みに獣人族なので、スカートの裾からふわもふしっぽが見え隠れしている。彼女はそのかわいらしい外見に似合わず、恐怖の産物を嬉々として生み出す(しかも無自覚)。
だが本人はとてもいい子で、公爵家出身らしからぬとても気さくで友だち思いな子である。ついでにニマくんの同い年の異母妹。そして彼女は“真眼”と呼ばれるあらゆる真実を見抜く魔眼を持っている。彼女がそう言うのならば、義妹のステータスは真実なのだろう。
「つか、最近パーティーで婚約破棄ブームなの?前にもあったじゃん。ほんと、法律で禁止してくれないかなぁ」
そう、困ったように吐き捨てたのは彼女の夫でエストレラ王国第4王子のクロ殿下だ。彼は人族で焦色の髪に水色の瞳を持っている。私はアリスちゃんやニマくんと親しくしていた関係でクロ殿下とも話したりお会いしたりする機会があり、互いに顔は見知っている。
「な、何なのよ。あんたたち!しかも、獣人の言うことなんて信じるの?」
いや義妹よ。アンタ、クロ殿下のこと知らないの?アリスちゃんだって大人気だったのよ?
ただでさえ、羽耳族はかわいい女の子が多いって言われているし。あぁ、そうか。碌に学園の授業にも出ずに、遊び惚けていたあなたは知らないのね。
「ほう?嬢ちゃん言ってくれるじゃねぇか」
「俺らのクロ殿下とアリスちゃんの悪口は許さねぇっ!」
「クロ殿下の顔を知らないだと!?いっぺんその脳みそほじくり出してやろうかぁっ!!?」
「しめっぞ、めぇ」
(※訳※いっぺんしめてやろうか、てめぇ)
そんな言葉と共に会場からコワモテのアニキたちがずいっと出てくる。頭に魔族のような黒く長い歪んだ角を持つアニキは魔族ではなく魔人族だ。長い竜の角をもち、後ろからずんぐりとした竜の尾を持つアニキは竜人族。人族だけど魔人王並みのコワモテのアニキ。黒い狼耳しっぽのアニキは黒狼族と呼ばれる獣人族。あぁ、多分彼らはクロ殿下のホームであるクォーツ公爵が治めるクォーツ州周辺の出身なのだろう。そのほか、王都や他の州にもシンパがいるという。
ぶっちゃけ、エストレラ王国で大人気のクロ殿下とその妻であるアリスちゃんにケンカを売るとか、愚かすぎる。
『ひいいいぃぃぃぃっっ!!?』
先程までシュラバ別れ中だったセルジオスとヒルデガルドはふるふると震えながら抱き合っていた。都合のよろしい時だけ仲がよろしいようで何よりです。
「静粛に」
その時、凛とした女性の声が響いた。
「あ、母さん」
クロ殿下が“母さん”と呼んだそのひとは銀色の髪を結い上げ、したたかでキレイなエメラルドグリーンの双眸で凛とした表情でこの場に颯爽と現れた。
『じょ、女王陛下!?』
バカでも、エストレラ王国コーラルディーナ女王陛下の顔くらいは記憶していたのね。そして、隣に立つのは彼女の第3王配・エリック・フォン・シュテルンさまと第1王配で近衛騎士隊長のマティアス・フォン・クリスタさま。
コーラルディーナ女王陛下とシュテルン公爵閣下は人族でクリスタ近衛騎士隊長は茶色の狼耳しっぽの茶狼族と呼ばれる獣人族である。因みにクリスタ近衛騎士隊長の実家もクォーツ公爵が治めるクォーツ州内の領地だ。
「さて、ニマ。その子との婚約、本気なの?」
女王陛下は問う。
「はい。本気です。システィもいいよね?」
と、ニマくんが微笑む。
「は、はい!」
もちろんですとも!!ここまで来たら付いていきましょう、どこまでも!!
「そう、じゃぁ。ウィンディア侯爵子息くんと、ヒルデガルド嬢だったかしら?」
女王陛下が、震えるふたりに目を向ける。
『は、はいっ!!』
完全に、目の焦点がおかしくなっている。
「私の義娘に罪をなすりつけた挙句、公の場で婚約破棄をつきつけて、さらし者にした罪はしっかり償ってもらうわよ?」
「え?何故女王陛下の、義娘?」
セルジオスはぽかんとしている。
「だって彼女はクォーツ公爵子息のニマの婚約者。つまりは未来のお嫁さんだもの。つまりクォーツ公爵夫人会に属する私にとっても、義理の娘だわ。それに他の夫人会のみんなも黙ってはいないわよ?」
クォーツ公爵夫人会。―――それはクォーツ公爵の奥さんや元奥さん、婿養子母、嫁母などの集まりで結成される、恐怖の冒険者パーティー軍団なのだとニマくんが以前言っていたけれど。女王陛下までその一員だったとは。
このエストレラ王国の第2王子の父親はクォーツ公爵で女王陛下はクォーツ公爵を諸事情があって王配には迎えていないようだから結婚はされていないのだけど、もれなく女王陛下もメンバーであった。
「ほ、他!?」
「えぇ~と。ロンド公爵夫人でしょ?ラズーリ侯爵もとい先代魔人王、それに元召喚勇者にマッドヒーラーに、他にもいるわよ?みんなで義娘を辱めたオシオキ、しに行くから。楽しみに待っていてねぇ~~~?」
ロンド公爵夫人は元妻になるのだが、クォーツ公爵と同じく5大公のひとつであるロンド公爵の奥さまだ。
あと、エストレラ王国には“魔人王”と言う職種の魔人族の長のような立場の方がいるのだけど、その先代さまも一員なのね。元召喚勇者とはニマくんのお母さま。マッドヒーラー、は?私は不意にアリスちゃんに視線を泳がせるとかわいく微笑みながら手を振ってくれる。私も振り返したのだが。アリスちゃんのお母さまのことだろうか?
「びくっ!!」
「んなっ!?そんなことって」
かわいそうに、バカふたりは愕然としていた。
「私は女王と言う立場だから結婚していないけど、クォーツ公爵は全員妻として大切にしてくれるし、娘息子は嫁も婿養子も合わせて全員大切な子どもたちだから。養育費もきちっと払ってくれるしね!」
女王陛下のにこにこ笑顔が恐い。因みに奥さんがとっても多いクォーツ公爵だが、女性にだらしなくはないらしい。そこら辺はしっかりしているひとだとはニマくんに聞いている。
『ひいいいいいぃぃぃっっ』
「だけど安心してね?あなたたちも、私の大切なこの国の“子どもたち”だもの。死にはしないけど、それなりに覚悟してね?」
さすがは、女王陛下。国母の見本である。
『―――っ!!?』
しかし、死にはしないって一体どんな目に遭うのだろうか。ふたりは完全に顔が青く変色していた。アリスちゃんのマッドポーションでも飲んだのかしらね?
「お前ら、とりまこいつらつまみだせ」
と、クリスタ近衛騎士隊長さまが命じると、パーティー会場に配備されていた近衛騎士たちが集まって来た。
『はい、隊長!』
そして、さっそうと引きずって行かれた。さよなら~。
「うむ。やっぱり法律つくるか。こんなバカな断罪ショーばかり見せつけられたらかなわんからな」
と、シュテルン公爵閣下。―――是非、そうしてください。
「さて、システィーナ。いいえ、システィって呼んでいいかしら?」
不意に、女王陛下がかがんで私に目線を合わせてくれる。
「は、はい!女王陛下!」
「ようこそ、クォーツ公爵家へ!また虐められたらいつでも言うのよ?私たちクォーツ公爵夫人会が、システィを守ってあげましょう!」
にこっと微笑む女王陛下は、相変わらず美しい。
「母さん、それはシャレにならないから」
と、クロ殿下がぼそっと呟いたのだが。
「さぁ、今日はウチのニマとシスティの婚約記念パーティーでもあるわよ~っ!かんっぱ~いっ!!」
そう高らかに告げられ、会場中がその熱気に包まれてしまい、後ろでシュテルン公爵閣下がくらっときていた。
『おおおぉぉぉぉ~~~っ』
そして、会場全体から拍手喝さいをもらってしまった。ちょっと恥ずかしいなぁ。
でも、私はニマくんの手を取って周りのみんなに、女王陛下に祝福されて、まるで夢のような一夜を過ごしたのだった。
―――
その後実家の伯爵家はと言うと。クォーツ公爵家を敵に回したので、最近ではすっかり落ち目になってしまい財政も悪化したため、男爵家に格下げとなった。また女王陛下のいらっしゃるパーティーで醜態をさらしたヒルデガルドとその母は、実家を追放され修道院送りになったのだとか。
セルジオスの実家の侯爵家もセルジオスを廃嫡、追放し、家督は次男が継ぐことになったそうだ。
私はとんだ目に遭わされた伯爵家―――今は男爵家だが、そこに戻る気はない。父は義妹と継母が修道院送りになって私に泣きついて来たが、次私に近づいたら、実家ごと潰すとクォーツ公爵夫人会に脅され、泣く泣く帰って行った。―――まぁ、潰れるのも時間の問題だと思うが。
私はクォーツ公爵子息の婚約者となったのだが、ニマくんの実家だというラピスティア男爵家で本当の孫娘、娘のようにかわいがってもらっている。
それに、ニマくんのお母さまは世界各地で伝説を作っている元召喚勇者なんだとかで、我ながらすごい方を義母に持ってしまった。
それにそのクォーツ公爵夫人会の義母たちが半端ない。私たちの婚約に異を唱えるひともいないし、私はパーティーで嘲笑されることもなく、行く先々で義母たちや義兄弟姉妹たちにかわいがられてニマくんと幸せに暮らしている。