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戦争が中断されます

戦争中の事でした。私は相変わらず王宮で薬を作る毎日です。今、戦地はどうなっているでしょうか。やはり多くの血が流れ、命が失われている事と思います。想像するしかない事ではありますが。


戦争は嫌なものです。誰だって嫌なものだとは思いますが。


「はぁ……はぁ……はぁ!」


 そんな時の事でした。私の部屋にヴィンセントさんが飛び込んできます。普段の冷静沈着さは見られません。随分と焦っている様子でした。一体、どうしたというのでしょうか。


「どうしたのですか? ヴィンセントさん?」


 私は作業の手を止め、尋ねるのです。


「ア、アイリス様。大変です」


「大変といわれましても、何がどう、具体的に大変なのですか?」


「それがなんとアイリス様」


「なんと?」


「我が王国ルンデブルグ及び隣国アーガス、それと帝国ビスマルクによる戦争が中断されました!」


 私はヴィンセントさんからの報告を聞いてとても驚きました。


「それは本当ですか? ヴィンセントさん」


「は、はい! 本当です。アイリス様」


「で、でもなぜですか? なぜ急に戦争が中断されたのですか?」


 理由がわかりませんでした。なぜ急に戦争が中断されるのか。あんなにも帝国は戦争に勝利し、ルンデブルグを我が物としたかったはずではないですか。


 特にあの王女リノアのエル王子やレオ王子に対する執着は異常でした。その執着の次元はまるで子供が玩具を欲しがって駄々をこねるほどの低俗さでしたが。


 どうやら父上である帝王は娘であるリノア王女のいう事に絶対服従のようでした。よく言えば子煩悩だったのでしょう。それだけではないはずです。帝王自身がルンデブルグを植民地化する事で帝国の利権を拡大するという思惑があったはずです。


 それがなぜ、今になって急に戦争を中断する事になるのか。私はヴィンセントさんの報告に耳を疑うのでした。


「それがアイリス様。なんでも戦争中に例の伝染病が流行ったようです」


「伝染病ですか……」


「はい。それもただの伝染病ではなかったようです。その伝染力や感染した場合の病状の進行速度は今までの伝染病とはまた異なっているようです」


「異なっている?」


「ええ……我々の見立てでは新種の伝染病なのではないかと思っております」


 伝染病はウィルスという微細な生き物によって発病するものです。完全な無生物ではなく、生物に近いのです。生物というものは環境に応じて変化し、対応するものです。それは普通の生物の進化のようなものです。


 ウィルスの進化。突如発生した変異ウィルス。ありうる話ではありました。


「その新種の伝染病に冒された兵士達はアイリス様の調薬した治療薬でも完治させる事ができないそうなのです」


「……そうなのですか。そのような事があり、戦争が中断されたのですね」


「はい。その通りです。今、帝国はその新種の伝染病で大混乱となっています。そのため、戦争を行っているどころではなくなったそうです」


「戦争どころではない……ですか」


 決して人の不幸を喜んではならないとは思いますが。我々にとっては僥倖でした。無益な戦争を中断できたのでしたから。中断。当然のように終戦ではありませんので、再戦する可能性はあります。


ですが束の間の平和を手に入れたのも事実です。私は安堵のため息を吐きます。勿論一時的な平和ではありますが、戦争が止まるのはとても良い事だと私は考えます。


「そこでアイリス様にお願いがあるのです。これは国王陛下及び王妃様からの言伝でもあります」


「私にお願いですか?」


「恐らく、戦争はすぐには再戦されない事でしょう。しばしの猶予はあると思われます。その猶予期間がどれほどの期間になるかはわかりかねますが……。その間には、アイリス様にはその新種の伝染病の新薬を開発して欲しいのです」


「私が新薬の開発をするのですか?」


「はい。アイリス様。国王様と王妃様は是非お願いしたいそうです。お願いできますでしょうか? アイリス様。あなた様の手腕に我が王国ルンデブルグの未来がかかっているのです」


「ええ。当然、お引き受けしますが」


 私は宮廷で薬師として雇われているのです。ですので、王国のためにできうる限りの事はしたいと考えています。


「ありがとうございます」


「ですが、新薬ができるかどうかはわかりません。ともかくやってみない事には」


「アイリス様ができうる限りの事をしていただければ十分だと私達も考えております」


 こうして私は新種の流行病に効く治療薬。つまりは新薬の開発に着手する事になったのです。


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