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エルとレオが兄弟喧嘩を始めてしまいます

「久しぶりだな、兄貴……元気にしてたか? じゃなくて。元気になったんだな」


 エルとレオは再会しました。気になった私とヴィンセントは何となくその情景を見守ります。


「レオか……騎士団との軍事遠征から帰ってきたのか」


「まあな。兄貴、俺また一段と強くなったぜ。今度また剣の試合やろうぜ」


「今はそれどころではない。国中、いや、世界中が伝染病の猛威に苦しめられている。その為我々王族も何かと雑務に追われてるんだ」


「ちっ。なんだよ、つれなーな。俺に負けるのが怖くなったのか? 兄貴」


「よく言う。昔から俺に勝てなくて、何度も泣きべそをかいて挑んできたではないか」


「う、うるせぇ!! それは小さい時の話だろうが!! 今は違うんだよ!! 今は!!」


「どうだかな……」


「それよりなんだよ、兄貴。あの地味な女は」


「地味な女?」


「あのアイリスとかいう薬師だよ。あいつがいると宮廷の空気が重くなるぜ。地味すぎてよ。じみじみとしめってくらぁ」


 エルの表情が明らかに険しくなった事を感じる。


「貴様!」


「んっ」


 エルはレオの胸倉をつかんだ。そして拳を固く握った。今すぐにでも殴りかかりそうになる。温和なエルが滅多に見せない、怒りに満ちた表情だ。だがエルは何とか自制し、暴力に訴えるのをとどまっていた。


「なんだよ? 兄貴……まさか命を救われたあの地味女に惚れたのか?」


「だとしたらなんだ?」


 エルは真面目な顔で聞き返す。


「ぷっふっふ。マジかよ、兄貴。兄貴ってやっぱ頭よさそうに見えて、実は結構単純なんだな」


 笑った後、レオは急に真面目な表情になる。


「やめとけよ……周りだってよく思わないだろ。王族が王族以外と結ばれる事は通常ない事だ。俺達にとっては結婚ひとつとっても自由にできないのが当たり前の事だ。それに兄貴とあの地味女じゃ、明らかに釣り合ってないだろ」


「き、貴様!! またアイリスを地味だのなんだの!」


 我慢の限界だからか、エルは拳を振り下ろそうとした。


「や、やめてください!」


 覗き見ていた私は思わず姿を現す。そして叫んだ。


「喧嘩はやめて、やめてください!」


「ちっ……なんだ。いたのか、地味女。じゃねぇ、アイリスだったか」


 レオはエルから離れ、私の方に歩み寄ってきた。


「あんたもなんか勘違いしてないよな?」


「か、勘違いってなんの事ですか?」


 レオは私を見下してくる。男性にしては小柄だが、それでもそれはヴィンセントなんかに比べるとで。女性の私からすれば普通に見上げなければならない程度であった。


「兄貴はあんたに命を救われた事で絆されてるみたいだけど。俺達王族とあんたじゃそもそも身分が違う。兄貴のあんたに対する気持ちも一時的なものさ。兄貴に好意を寄せられているからって、浮かれて勘違いしない事だな」


「そ、そんな、私浮かれてなんて」


「どうだかな? 兄貴と結婚して自分もお姫様になれるんじゃないか、って浮かれてたんじゃないか? けどよ。夢っていうのは叶わないから夢っていうんだ。夢はベッドで寝て観るもんだぜ」


 レオは耳打ちをしてくるかのように告げてきた。


「そ、そんな……そんな事を別に私は夢見てるわけじゃ……」


「それじゃあな。兄貴、アイリス、ヴィンセント。俺は遠征で疲れてるから部屋行って寝るわ」


 そういって、レオはその場から去っていきました。


「すまない、アイリス。レオのせいで気分を悪くさせたな。僕の方から謝らせてくれ。弟の不始末は僕の不始末でもある。本当にすまない」


「いいんです。エル王子。彼の言っている事はその通りだと思います。エル王子はただ私に命を救われたから、気持ちが一時的に向いているだけなんですよね」


「そ、そんな事はない! アイリス! 僕は――」


「ごめんなさい、エル王子。私は調薬がありますので。仕事場に向かいます」


 居づらくなった私は仕事を言い訳にエルの元を去った。そうなのだ。彼は王子。そして私は実家を追い出されただけのただの薬師。そもそも身分が違うんだ。


例え私が彼の事をどれだけ好きになったとしても、報われないだろう。だったらきっともう好きにならない方がいいだろう。その方がきっと傷つかずに済むし。


 それも彼の為だ。私はそう考えるようになった。


「アイリス……」


 エルが寂しそうに私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。





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