エルトの考え事
「うーん」
ベッドに横になり、天井を仰いでいると突然視界一杯にマリーの姿が飛び込んできた。
「御主人様、どうしたのです? お腹でも痛いのですか?」
彼女はうさ耳をぴこぴこと動かすと、そのまま空中に浮かび俺に向き合った。
「いや、ちょっと考え事をしててな」
ランチの際、ローラは悲しそうな表情を浮かべ、自分が父と姉に嫌われていると言っていた。
国王のことは良く知らないのだが、アリスが彼女を嫌っているとは思えない。
これまで接してきた限り、アリスは正義感に溢れていて人当たりが良く、とても肉親をそのように扱う人物には見えなかった。
「考え事……、マリーが解決してあげるのです」
マリーはそう言うとふわりと降りてきて俺の懐に収まる。
ライトグリーンの髪が俺の胸いっぱいに広がり、彼女の暖かさと柔らかさを全身に感じる。
俺が彼女に触れると、滑らかな感触が手に伝わり、マリーは気持ちよさそうな顔をした。
「マリーは、もし親しい人から嫌われてると感じたらどうする?」
「親しい人……、御主人様やセレナのことなのです?」
唐突な質問に、マリーは眉根を寄せて考える。
「嫌なのです! マリーはもう、孤独なあのころに戻りたくないのです! たとえ嫌っていても傍に置いてほしいのですよ!」
「今のは俺の話じゃない。俺もセレナもマリーのことは大好きだから」
頭をぐりぐり押し付けてくるマリー。彼女は凄惨な過去を持っているので、こういったデリケートな質問は失敗だったな。
「では、誰の話なのです?」
改めて、彼女は大きく目を開くと俺の瞳を覗き込んできた。
「アリスとローラだよ」
「ああ。あのすまし顔のいけ好かない女なのです。御主人様との時間を奪う……納得したのです」
マリーは俺の胸に顔を埋めるとポツリと呟いた。
「こらっ、ローラはそんな人間じゃない。今日だって俺のために書類を纏めてくれていた」
表情が変化しないのでわかりづらいが、彼女はマリーが言うような冷酷な人間ではない。
周囲に対して笑うことがなく、淡々と仕事をこなすので誤解されがちだが、おそれもすれば傷つきもする普通の少女だ。
俺がマリーを嗜めようとしていると、
――コンコンコン――
「入っていいぞ」
ドアが開き、アリスが部屋に入ってきた。
「アリスなのです!」
マリーが浮かび上がり、俺が身体を起こす。
「ごめんね夜遅くに」
「気にしないでくれ、こんな時間でもないとお互いに顔を合わせることもできないし」
何せ、パーティーやら訓練やらで毎日忙しくしているのだ。
落ち着いた話をしたければ、どちらかが部屋を訪ねるしかない。
「それで、何か用なのか?」
俺はマリーに命じて席を外すように言うと、彼女を迎え入れた。
「実は、妹のことで話があるのよ……」
アリスはそう言うと、縋るような表情を浮かべ俺を見るのだった。
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