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ローラの秘策

「くっくっく。思いのほか上手くいったものだな」


 馬に乗り道を進みながらドゲウは笑みを浮かべていた。


「それにしても、ちょっとあいつに恥をかかせようと思っただけなのに、まさかイルクーツの王女までついてくるとは思いませんでしたね」


「その上馬鹿な賭けにまで乗ってきたからな。あの生意気な顔が歪むのを見るのが楽しみだ」


 ドゲウはいやらしい笑みを浮かべると取り巻きたちに笑うように合図をする。


 元々今回の狩猟祭りは複数の王国によって仕組まれていた。


 英雄であるエルトをよく思わない人間は多く、その内の一部がエルトに恥を掻かせるために行動をした。


「邪神の討伐だって本当のところはどうだか? 神殿が御輿に担ぎ上げているだけだろ」


「まったくです。みたところ、全然強そうじゃないですからね。恐らくたまたま邪神が寿命で死ぬところにいたんでしょう」


 真実のオーブによる審議があったとはいえ、それを信じない人間もいる。神殿が民衆を制御するためにエルトを担ぎ上げていると考えている。


「とにかく、この狩りであいつの化けの皮を剥いでやるからな。そのためにこうして宝弓を持ちだしたんだから」


 ドゲウは自身の手にある美しい弓をうっとりと見た。風の精霊の加護を受けた弓は矢を放てば風の精霊が威力を上げ、向かう方向を制御して獲物へと突き刺さる。


 これまで何度か狩りに出た際に使ってみたが、その百発百中の精度に感嘆したものだ。


「あとは獲物さえ見つかれば……」


 ドゲウが早く弓を試したくてうずうずしていると、


「ドゲウ王子。獲物を見つけました」


 従者の一人が戻ってきてある方向を指差した。


 取り巻き立ちは口をつぐみ、ドゲウはその方向へと目を凝らす。

 すると、数百メートル先に中型のモンスターがいた。


「ビッグボアか。良く見つけた」


 直線上には木や葉が生い茂っている。その隙間からビッグボアが時々見える程度なので、通常ならば簡単に仕留めることはできない。


 ドゲウは矢を番えて引き絞ると狙いをつけて放った。


「お見事っ!」


 矢はまるで草木を避けるように飛び、加速したかと思うとビッグボアへと突き刺さった。


「このぐらい造作もないさ」


 取り巻き立ちにおだてられ、ドゲウは満更でもない表情を浮かべる。


「獲物さえいれば数百メートル内はすべて射程内だ。この調子でどんどん見つけてきてくれよ」


 弓を握りしめるとドゲウは従者に指示を出すのだった。


          ★




「なんで勝負を受けたんだよ?」


 あれからルールをいくつか決めた。

 狩猟祭にはドゲウだけではなく、各国の歳が近い王族貴族も参加している。


 ドゲウは取り巻きの数人と一緒に狩りをするらしく、狩った獲物はそれぞれのチームで共有すると宣言した。


 そもそも、こういった狩りは仲間内で役割分担をしてやるものらしく、索敵や追立役などがいた方が断然やりやすいらしい。狩猟祭ではチームで動くのが基本だとか。


 対して俺の方は俺とローラだけ。数の面でも不利となっているので思わず溜息が出た。


「本人が了承しているので良いのでは?」


 俺の抗議にたいしてローラは首を傾げる。了承も何もこの場にアリスはいないのだ。


「それに負けなければいいだけかと」


 後でアリスに謝ろうと考えているとローラが繋げて発言する。


「何か策があると?」


 俺の問いにローラは首を縦に振る。


 彼女は手に持っている杖を突き出すと言った。


「狩猟の際最も重要なのは獲物を発見できるかどうかです。私は【サーチ】の魔法を使えるので、森にいる獲物の場所を割り出すのは造作もありません」


「なるほど、ローラが獲物を見つけて俺が狩れば良いわけか」


 どうりであっさりと勝負を受けるわけだ。自分の魔法にそれだけ自信があるのだろう。


「とにかく、一度やってみるか」


 俺はそう言うと弓を担いで森へと入っていくのだった。






「そちらに野兎がいますね」


 ローラが杖を向けた先の草が揺れる。


 草の隙間から白い何かが存在しているのが解った。


 俺は背中の筒から矢を取り出すと、弓に番えて引き絞る。

 市販の弓は頼りなく、俺の力を受けて形を変える。


 俺は狙いを定めると、視界にチラつく野兎に向けて矢を放った。


 ――ヒュッ――


 風切り音とともに矢が進む。目標の野兎は数十メートル先にいるのだが、


 ――ガサササササッ――


「外れましたね」


 俺の放った矢は野兎の横を掠めて奥へと飛んでいった。


 その際、狙われていると気付いた野兎は草むらに身をひそめると逃げ出した。


「まあいいです。次の獲物を探します」


 獲物を仕留められなかったせいか、ローラは一度溜息を吐くと森の奥を見た。


 何か気になるのか森をじっと見ていたローラだったが、やがて杖を掲げて魔法を使い始めた。


 目を閉じて魔法を展開する。サーチの魔法を使っているので、近隣にいる生物はすべて彼女に捕捉されている。


 獲物を探す時間が極力まで抑えられているので、これならば数をこなすことができるだろう。


「問題は俺の方か」


 市販の弓を見る。

 ちょっと力を入れて引いただけで引っ張られてくる感覚がある。これでは力を入れたら壊れてしまいそうで頼りない。


 いくら獲物を見つけられるとはいえ、狩ることができなければ勝負に負けてしまう。俺が悩んでいると……。


「この矢を放ったのはどいつだっ!!!」


 森の奥から一人の男が姿を現した。



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― 新着の感想 ―
[一言] あ~風の精霊の力を借りてるって事は チームの成績で勝敗考えるなら・・・・
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