パーティー会場
パーティー会場には奇妙な雰囲気が漂っていた。
豪華な食材がこれでもかというほどに使われた料理、これまでどのような豪華なパーティーでも出されたことがないような美酒が並べられいる。
参加者たちはこのパーティーの主催者が一体どれだけこのパーティーに気合をいれているのかと噂をしていた。
この場に参加しているのは、エリバン王国・イルクーツ王国をはじめ、この世界で国を支配している特権階級の人間ばかり。
権力者が集まれば何をするのかといえば決まっている。外交だ。
各国の人間が招待され参加するこのパーティーは、久しくされていなかった国同士が交流する場として大いに役割を果たしていた。
各国は国王を筆頭に上位貴族やその令嬢・令息を連れてきている。その狙いは言うまでもなくエルトだろう。
今から二週間前、天空城がエリバン上空に現れた。国民は混乱し、国王自ら乗り出し事態の収拾にあたった。天空城で乗り付けてきたのはエルトで、国王は箝口令をしくことにした。
だが、目撃者の数が多すぎる。
エルトが天空城の持ち主だということはあっという間に広まり、各国はこぞってエルトに面会を申し込んだのだ。
「それにしても一体いつになったら現れるんだ?」
「早く英雄様の顔を拝見したいですわ」
「噂によるととても神々しいお方だとか」
だが、エルト周辺の警備が厳しく接触をできた国はなく、こうして皆エルトが登場するのを待っている。
エリバン王国の警備は抜くことができる。各国とも腕利きの密偵を連れてきていたからだ。それらが連携をとってことにあたったので一国の密偵では太刀打ちできない。
それでもエルトに接触できなかったのはマリーのせいだ。
姿を隠せる風の精霊王の存在は密偵にとって最も相性が悪い。エリバンの隙をついて侵入してきた密偵もマリーの魔法で吹き飛ばされ、あるいは昏倒させられ城の中庭へと積み上げられた。
邪神を討伐して懸賞金のすべてを手に入れる少年。
天空城を自在に操り空を支配する少年。
精霊王を自在に操り暗殺者を容易に退ける少年。
様々な噂が国内に流れるのだが、各国はそれが真実だと知っている。天空城や積み上げられた密偵がその噂を肯定していたからだ。
目の前にある事実で判断するなら武力による脅しや援助による外交は無意味。エルトには邪神討伐の報酬もあるし、天空城などの魔導施設は世界中でエルトしか持っていない。
天空城を前にしてはどのような高級な魔導具を贈ったところで魅力が落ちるだけ。各国の交渉カードは自然と限られてくる。そう女だ。
いくら英雄とはいえ若い男。物欲が満たされていたとしても他は別。
そんなわけで、各国の代表は連れてきた年頃の令嬢を着飾り、英雄が登場したら真っ先に話しかけに行けるようにお互いを牽制していた。
「おっ、どうやらそろそろかな?」
一人の男がワインを片手に周囲の気配を探っていた。
伝令の人間がエリバン国王に耳打ちをし、ドアの前に給仕の人間が数人立つ。
誰かが静粛にするように言ったわけではないのに会場にいる全員が黙りドアへと注目した。
『英雄殿が入場します。皆さん拍手でお出迎えください』
ドアが開くとどよめきが起こった。
入ってきたのは燕尾服に身を包んだ、どこか惹きつけられる雰囲気を持った少年。
それと彼と腕を組む美しい女性の姿だった。