マリーの索敵能力
「いよいよ、迷いの森に着いたのね」
アリシアは不安そうに杖を握り締めると森の中を見ている。
俺はそんなアリシアの姿をよそにエセリアルキャリッジを収納する。
出てきた時と同様に光が覆い、粒子となって指輪へと吸い込まれていく。
魔法生物とはいえ、これまでの道中をともにした馬たちに俺は愛着を覚えていた。
「お疲れさん。また頼むからな」
指輪を撫でながら話し掛ける。
「ふふふ」
アリスの笑い声に俺は顔を上げた。血が通っていない魔法生物に親しみを覚えている様子を見られたのだ。
「やっぱり変か?」
それこそ大昔に作られたアーティファクトなので意志なんてないに決まっている。そんな存在に労いをするなんて王族から見て奇異に映ったことだろう。
「こうしてここまで一緒にきたせいか、どうもただの道具に思えなくてな」
俺がそう考えているとアリスは……。
「別にいいじゃない。エルト君のそういうところ気に入ってるから」
普段のからかう様子ではなく俺の肩をポンと叩くと行ってしまった。
「なんだったんだ?」
どういうところを気に入られたのか、俺は首を傾げるしかなかった。
「ね、ねぇエルト。本当に大丈夫なの?」
森を歩きながらキョロキョロと周囲を見渡すアリシア。
ここを出るまで知らなかったのだが、エリバン王国の迷いの森といえば入った人間は無事に帰れないことで有名だったのだ。
そんな場所に足を踏み入れたせいで不安で仕方ないらしい。
「平気なのですよ。マリーに任せるのです」
迷いの森に入ってから同行者に加わったマリー。彼女は俺と契約している精霊なのだが、風の精霊を統率する精霊王なのだ。
迷いの森のいたるところに風の精霊を飛ばし、モンスターの位置を完全に割り出してくれる。
「実際、マリーのお蔭で私たちは不意打ちを食らうことがなかったしね」
アリシアを安心させるためなのか、セレナは俺たちが迷いの森から出たときの話をしていた。
「そ、そうなんだ……。マリーちゃん凄いんだね」
「エヘンなのです。マリーがいれば怪我一つ負うことがないのです……あうちっ!」
そう言ってるそばから木の根に足を引っかけて転ぶ。調子に乗って足元がお留守になっていたようだ。
「まったく。仕方ない子ね……」
それをみたセレナが手を差し伸べると……。
「ううう。ありがとなのですよ」
マリーは泥を払いながらその手を掴んだ。
「というか、マリーは空を飛べばよくない?」
空を飛べるマリーが一緒に歩いていることにセレナは突っ込みを入れると……。
「ううう、久しぶりに呼ばれたので少しでも御主人さまの近くにいたいのですよ」
空を飛ぶと風が巻き起こるので離れなければならない。そうすると傍にいられないと思ったようだ。流石にそこまで言われては放っておけない。
「周囲の警戒をしすぎて足元まで注意がいかなかったんだろ」
俺はマリーに近づくと手を取った。
「マリーの索敵能力は迷いの森では必須だからな。こうして手を繋いで歩けば平気だろう」
「ご、御主人さま……」
ウサミミを揺らしながら感激した様子を見せる。
「まったく、エルトは甘いんだから」
「ううう、羨ましい」
「こうやって次々に女の子を垂らしこんでるのね」
三人が呆れたように俺を見てくる。
「エヘヘ。御主人様大好きなのですよ」
だが、マリーの嬉しそうな顔を見ると俺は手を離すことができなかった。
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