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ベースキャンプ

「セレナ、鍋に水をいれて火をつけてもらえる?」


「わかったわ」


 アリシアがそういうと、セレナはカマドに鍋を用意し精霊に命じて水を注ぎ火をつける。その横ではアリシアが干し肉をナイフで削っている。


 俺はセレナとアリシアが並んで料理をしているのを見ていた。

 盗賊を撃退してから数時間程進んだのだが、時間をロスしたせいで中途半端にしか進むことができなかった。


 以前セレナと2人で迷いの森から街に向かった時とは違い、今回は街道を馬車で進んでいる。

 街道の途中には野営の為のベースキャンプ地があり、そこでは冒険者や商人などが寄り添って野営設備を設置している。


 人が多くなればモンスターや盗賊などもおいそれと手出しできなくなる。安全に旅をするための知恵というやつだ。


 次のベースキャンプ地を目指すには時間が遅く、かといって1日の移動にしては距離が物足りない。俺は強行して次のベースキャンプ地まで移動するか悩んだ。


 普通の馬車とは違って、魔力で動く魔法生物だ。多少無理な進行にも耐えられるはず。

 そんなことを考えていると、アリシアが「だったら手の込んだ料理を作ってあげる。それなら時間を無駄にしないよね?」と言い出したのだ。


 思えば、アリシアの作る料理は久しぶりだ。最後に食べたのはアリシアが邪神の生贄に選ばれるずっと前だ。


 あの時はまさかこうして再び味わうことができるようになるとは思いもしなかった。


「ちょっと! 何やってるのよっ!」


 感慨深く感じていると、その余韻をぶち壊すセレナの怒鳴り声が聞こえてくる。


「えっ? 野菜を斬ってるんだけど?」


 みてみるとアリスが野菜を空中に投げてバラバラに斬り裂いていた。


「アリス様。だめですそんな切り方じゃ、なるべく同じ大きさにしないと火の通りが変わります。あと、芽に毒がある野菜も混じっているのでそれも取り除かないと……」


 アリシアが困った顔をしながらもやんわりと指摘するのだが……。


「わかったわ。次はもっと細かく斬ればいいのね?」


 それを挑戦ととったのか、アリスは自信満々に言い放った。


「だからなんで剣でやろうとするのよっ! 包丁を使いなさいっていってるでしょっ!」


 聞き分けのない子供をしかるようなセレナ。ここまで感情をぶつけるのは珍しい。


「えー、こっちの方が慣れているのに……」


 頬を膨らませるアリスはセレナのそんな掛け合いを楽しんでいるようだった。


「もういいですからっ! アリス様はエルトと待っていてくださいっ!」


 しばらくするとお役御免にさせられたアリスが俺の方へ歩いてくる。


「なによ、私にも料理教えてくれたっていいのに」


 そう言って向かいに座りテーブルに肘をつく。


「流石に調理場で剣を振り回すやつは追い出されるだろう……」


 俺は白けた目でアリスを見ると、正論を述べた。


 ベースキャンプには調理場があるのだが、かまどや調理台などは共有のスペースになる。

 そんなところに剣をもった人間がいたら、皆安心して料理ができないだろう。


「どうせ私は戦闘でしか役に立てない女ですよーだ」


 すっかりいじけているアリスを放置して俺は視線を動かす。 


 セレナが精霊魔法を使い、他の人たちに水を出してあげているところだった。

 こういう場所ではお互いに助け合うのが当然とされているので、魔法が使える者は率先して火を起こしたり水を出したりする。


 セレナも当初は人族が苦手だったが、今ではすっかりと馴染んでいるようだ。ラッセルさんやいい人たちと出会ったお陰だろうか?

 俺は料理ができるまでの間、アリシアとセレナの後ろ姿を見守るのだった。




「はいエルト。召し上がれ」


 そう言って湯気の立つ器を差し出してくる。俺がアリシアから器を受け取ると懐かしい匂いが漂ってくる。

 干し肉と野菜を煮込んで味付けしたアリシア特製シチューだ。


 無意識のうちにスプーンが伸び、シチューを口へと含む。すると懐かしい味がした。ふと見上げるとアリシアが不安そうな瞳を俺に向けていた。


「うん、美味いな」


「そう。良かった。お替りもあるから一杯食べてね」


 ほっとした様子のアリシア。俺がそういうと、彼女は安心したのか自分もシチューを食べ始めた。


「へぇ、干し肉を入れると味が変わるのね」


 今回、料理の補助に徹していたセレナはアリシアの料理にそんな感想を述べる。


「長時間煮込むことで肉も柔らかくなるし、調味料の加減で結構かわるんだよ」


 アリシアも料理のことになるとこだわりがあるのか、セレナにコツについて話し掛けていた。最初はうんうんと頷いていたセレナだったが、隣に置いてある杖を見ると何やら首を傾げた。


「どうかしたのかセレナ?」


 俺はそんなセレナの様子に思わず話しかけてしまう。


「あっ、えっと……」


 見られていたのが気まずかったのか、セレナは微妙な顔をしつつアリシアの杖をみた。


「これ? さっきエルトから貰ったんだよ」


 セレナの視線に気づいたのかアリシアが説明をした。杖を抱きしめて本当にうれしそうな顔をする。


「……そうなんだ」


 何やら声に元気がなくなった。俺はそんなセレナの様子をみて首を傾げてしまうのだが……。


「ちょ、ちょっとエルト君まずいわよ?」


 慌てた様子で俺に話しかけてくるアリス。


「ん。何がだ?」


「アリシアに贈り物をしたのにセレナには何も贈ってないでしょ? セレナはそれを気にして落ち込んでるんだよ」


 セレナをみる。確かに落ち込んで見える。先程までと違いシチューを食べる姿に元気がない。

 どうやらアリスの言葉は正解らしい。


「あー、セレナ。ちょっといいか?」


 俺はそんなセレナにゆっくりと話し掛けた。


「えっ? なに?」


 顔を上げたセレナはじっと俺を見た。

 俺は懐から指輪を取り出すと……。


「これから先は強いモンスターが生息する場所だからな。アリシアにも自己防衛のために杖をあげたんだが、セレナにはこれを身に着けて欲しい」


 そう言って渡したのは【福音の指輪】。攻撃の命中率が上昇するらしく、セレナの弓と相性が良い装備だろう。


「あ、ありがとうエルト。わたし、大事にするね」


 指輪を受け取ると胸へと持っていく。俺はその真っすぐな瞳を見ると思わずドキッとする。


「やるじゃないエルト君。まさか指輪を隠し持っていたなんてね」


 アリスはそういうと俺を褒めた。俺はそんなアリスに対し感謝の気持ちをもった。


「すまない、助かったぞ」


 アリスの一言がなければ俺はセレナに悲しい思いをさせてしまったかもしれない。


「べつに気にしないでいいわよ」


 そう柔らかく笑い、セレナとアリシアの様子をみる。

 その笑顔はまるで二人の姉のように見えるのだった。

新作の投稿を始めました。


『生産スキルがカンストしてS級レアアイテムも作れるけど冒険者アパートの管理人をしています』


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