不動産屋
「ふぅ、満腹だ。もう食えねえぞ」
ラッセルさんは腹をさすりながら店から出てくる。
あれからエセリアルキャリッジを無事入手した俺たちは、丁度昼時ということもあり適当な食堂に入り昼食を摂った。
「御馳走していただきありがとうございます」
「何、いいってことよ。後輩に奢るのは先輩のつとめだからな」
大金を使ったせいか、ここでの食事代はラッセルさんが払ってくれた。
俺が何度も「払います」というのだが、頑として聞き入れてくれない。なので申し訳ないと思いつつも甘えさせてもらった。
「しかしエルトよ。飯食ったら急に眠気がでてきちまったよ」
夜勤明けからこうして付き合ってくれたのだが、どうやら流石に限界のようだ。
「ここまで付き合ってくださってありがとうございます。後は一人でも済ませられる用事なんで大丈夫ですよ」
迷いの森に行く前にどうしてもあと1つ解決しておかなければならない問題がある。だが、それは事前に話をしていたので準備ができているので一人でも大丈夫だろう。
「そうか? それじゃあ俺は一足先に兵舎に戻らせてもらうとするわ」
ラッセルさんは手を振ると、身体をクルリと回転させ城へと帰って行く。
「さて、俺も行くとするか」
俺はラッセルさんに背中を向けると逆方向へと歩き出した。
「すみません。王都の物件を管理している不動産屋さんはこちらであっていますか?」
建物に入った俺は、受付にいる女性に声を掛ける。
「はい。当店は大型物件が専門になります。どなたかの紹介状はございますか?」
「こちらをどうぞ」
俺はアリスに頼んで用意してもらった紹介状を受付の女性に手渡した。
「拝見します」
受け取った女性はその名前を改めると……。
「しょ、少々お待ちくださいっ!」
慌てて奥へと入っていった。
「お待たせいたしました。店長のミラルゴです。この度は宰相の紹介ということで承っております」
適当にアリスに頼んでいただけなのだが、宰相さんに紹介状を書いてもらったらしい。
「エルトです。宜しくお願いします」
「さて、エルト様は本日はどのような用件でしょうか?」
この国の宰相さんの紹介状ということもあり、丁寧な対応をしてくれる。
「なるべく人通りが少なく広い物件を借りたいのですが……」
なので、俺は安心するとミラルゴさんに自分の希望を述べた。
「なるほど、紹介状の内容を確認したところ、エルト様には最大の便宜を図るように申し付かっております。貴族街の屋敷を売ることもできますが?」
その言葉はありがたいが、貴族の屋敷では俺の目的に少しそぐわない。
「いえ、今はこの国に長く滞在するか決まっていませんので。一時的に借りられる建物で十分です」
俺が首を横に振ると、ミラルゴさんはファイルをめくり始めた。条件にあう物件をピックアップしているのだろう。
「人通りが少ないとなると、貴族街や商業街からは外れた場所となりますね。それでいてそれなりの広さとなると……。こことかはどうでしょうか?」
一枚の紙を取り出すと俺に差し出した。
間取りを見る限り二階建ての建物だが、一階にはかなりの広さが確保してある。
「ここは去年まで宿屋を経営していた建物になります。老夫婦で経営をしていたのですが、後継ぎがおらず引退するということで当店が管理しております」
一階の広いフロアは食堂スペースらしい。更に二階には宿泊部屋もあるということで、俺が考えている条件をそこそこ満たしていた。
「この場所の治安とかはどうなんですかね?」
「閑静な場所にありますが、近くには詰め所もあります。出入りしている人間は冒険者など多いですがそこまで悪くはありませんね」
ミラルゴさんの言葉を受けて俺はどうするか検討する。
俺の利用条件をかなり満たしているので特に問題はないように思える。だが、こういった物件は話に聞くだけではわからない不都合もあったりする。なので俺は……。
「一度その場所を見せてもらえないでしょうか?」
「わかりました。それではご案内いたします」
実際に物件を見てから契約をすることに決めた。