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扱いに困る英雄

「じゃ、邪神を倒した……?」


 誰かが発した問いに俺は再び頷く。


「……ヒューゴ司教。その真実のオーブは壊れてやしないかね?」


 宰相が冷や汗を流しつつ神官さんに声を掛ける。


「正直なところ、私も信じがたいのですが……できればどなたか嘘を言って頂きたいのですが?」


 神官さんの無茶振りに皆が困った顔をする。


「そういうことなら私から1つ皆に問わせてもらおう」


 国王が前に進み出ると皆を見て行った。


「私がコレクションしていた幻獣シリーズのワインを割った者がおる。ここにいる人間は『割っていない』と言うのだ」


 その言葉にそこら中から『割っていません!』と聞こえてくる。どうやら嘘をついている人間はいないらしく、神官さんはまたも「真実です」と言った。


「わ、割っていません!」


「虚偽です!!!」


 神官さんが目をかっと開き指差した先には……。


「貴様が犯人かっ!」


「も、申し訳ありませんでしたっ!」


 冷や汗を流す宰相がいた。


「貴様は減給じゃっ!」


「そ、そんな……はぁ」


 国王の言葉に肩を落とす宰相。


「どうやら壊れてはいないようですね」


 アリス様が苦い顔をしてそう答える。


「そうじゃな、これは逆に厄介な事になった」


「えっと、もしかして答えたらまずかったですかね?」


 俺は確かに邪神討伐を果たしている。

 この場で打ち明けたのは真実のオーブ無くしては誰も信じてくれないと考えていたからだ。


 邪神が滅んだことを知らないままだと各国は邪神の脅威に怯えたまま過ごさなければならないだろう。だからこそこうして皆に告げたのだが……。



「エルトとやら。実はじゃな、真実のオーブは神の判定なのだ」


「というとどういうことですか?」


 国王の言葉の意味がわからず俺は問い返す。


「この真実のオーブは神殿の本部と繋がっております。全ての真偽は神殿へと共有されているのです。今この瞬間も」


「なるほど?」


 神官さんの言うことがいまいちピンとこないので曖昧に頷く。


「つまりね、邪神討伐を成し遂げたという情報が今の時点で神殿総本山に記録されてしまったのよ」


「恐らく今頃神殿は大騒ぎじゃろうな」


 アリス様と国王は苦い顔をするとお互いを見ていた。


「まず間違いなく。そしてこの情報はすぐに民へと発信されることになりましょうな。何せ、忌まわしき邪神が滅びたのですから」


 興奮した様子を見せる神官さん。周囲の人間も徐々にだが信じ始めたのか喜びを浮かべ始めた。


「とりあえず、この場はお開きにした方が良いですね?」


「そうじゃな、エルト様には貴賓室を用意しますのでそちらで休んで頂くということで」


 アリス様と宰相が頷くと俺はよくわからない間に退室させられるのだった。



          ★


 エルトが退室したあと、エリバン国王と宰相、それにアリス王女とヒューゴ司教は相談をしていた。


「神殿の公表を遅らせる訳にはいかぬのか?」


「それは無理かと思います。邪神の脅威は全ての国を苦しめていた問題ですからな。神殿としても秘匿する理由がありません」


「しかし、そうなると非常に困った事態になりますね」


 アリス王女は爪を噛むと苦しい表情を浮かべた。


「邪神を討伐した少年じゃからな。前代未聞の彼を取り込みたいと考えるのは当然じゃろう」


 エリバン国王もアリス王女も多少の功を得ただけの人物なら自国で取り込めると考えていた。だが、邪神を倒した人物ともなると扱いに困る。


 取り込むことに成功したとして逆に各国への脅威になりかねないからだ。

 邪神を討伐できるということは言い換えれば邪神よりも強いということになるのだから。


「エルト様は今は部屋で寛いでいるのですよね?」


 宰相の言葉に。


「ええ、アリシアが一緒についていったので今頃感動の再会をしているころかと」


 アリシアとエルトが抱き合っている姿、もしくはそれ以上の行為に及んでいる想像をしたアリス王女は胸がチクリと痛む。


 だが、それを無視すると今すべきことへと向き合う。


「ヒューゴ司教。神殿の発表を2週間後にしてもらえませんか?」


「どうされるつもりですかな?」


「邪神を討伐した人間を縛るわけにはいきません。反感を買えば国が滅びかねませんから」


 アリス王女はそう口にするがあり得ないと考えている。アリシアから聞いた、そして泉で接した限りエルトは争いを望まない性格をしている。


「なので、彼の意思を尊重しつつ周辺諸国をけん制する必要があります」


 沈黙していたエリバン国王が口を開く。


「つまり、国際会議を開くということだな?」


 真剣な表情を浮かべて頷くアリス王女。


 エルト一人の存在が世界に影響を与え始めるのだが、当の本人が知るのはもう少し後になるのだった。


          ★


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