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人質奪還とアリシアの抱擁

「本当にエルト。生きていてくれたのね」


 涙を流しながら真っすぐ俺を見つめるアリシア。俺は不覚にも懐かしさがこみあげてきた。


「ああ、お陰さまでな。何とか無事にやっているよ」


 それにしても懐かしんでばかりはいられないだろう。俺はなぜここにアリシアがいるのか気になった。


「それよりアリシアはどうしてここにいる? イルクーツで何かあったのか?」


 生贄から逃れられたアリシアがなぜこんな遠くに来ているのか気になる。


「馬鹿エルトっ! そんなのあなたを探しに来たに決まってるでしょう!」


 その言葉に俺は大きく目を見開く。


「俺を……? どうして?」


 動揺がそのまま口からでる。するとアリシアは瞳を潤ませると……。


「そ、そんなの決まってるでしょ。わ、私ね……、失ってみて初めて気づいたの。私にとってエルトがどれだけ大切な存在なのかって。エルトがいなくなって毎日泣いて、それでわかったことがあるの……」


 アリシアの健気な訴えに俺だけでなく周囲の人間も聞き入っている。

 中にはハンカチを目にあてて涙を流す者まで。


 アリシアは顔を真っ赤にすると恥ずかしそうに俺を見つめると……。


「私はずっと伝えたかった。私ね、エルトのことが――」


 アリシアが何かを訴えかけようとしたところで……。


「俺をほうっておいていちゃつくなあああああああああああああああああっ!」


「きゃっ!」


 耳元で怒鳴られたせいでアリシアが悲鳴を上げる。


「2人の世界を作りやがって! 今がどんな状況かわかっておるのかっ!」


 クズミゴは相変わらずアリシアにショートソードを突き付けている。


「この外道がっ!」


「空気が読めない奴め!」


「そんなんだから死刑になるんだよ」


「今すぐ死んで詫びろ」


 周囲の貴族や騎士たちから罵声を浴びせられている。


「うるさいうるさいうるさい! 全員揃って俺を見下しやがって! お前たちは俺の命令に逆らうんじゃねえ!」


 あまりにも哀れな様子に周囲の視線は冷たい。


「お、お前もだぞエルトっ! お前さえいなければ調査隊は全滅。俺が功績を挙げる事が出来たのにっ!」


「いや、あの時あんたが逃げなければそのまま功績が手に入ってたんじゃないか?」


 勝ち目がないと見限って逃げたのが自業自得だろう。


「黙れっ! 貴様この娘の知り合いといったな。こいつの命が惜しければ地面に頭をこすりつけて許しを乞えっ! 俺が満足したら貴様の首をはねてやる」


 目が血走っている。俺が言うとおりにしなければアリシアの首にショートソードを刺すつもりなのだろう。


「念のために聞いておくが、改心するつもりはないのか? 今止めるのなら俺の褒美の代わりに減罪を嘆願しても構わないぞ」


「ふざけるなっ! それで情けをかけたつもりかっ! この娘が死んでから後悔しやがれっ!」


「アリシアっ!」


 何やら高貴なドレスに身を包んだ女が叫ぶ。あれは先日泉で遭遇した……。

 周囲の貴族たちが目をそらした。残酷な光景を見たくなかったのだろう。


 クズミゴが少しでも力を入れればアリシアの喉が貫かれるはず。だが……。


「ば、馬鹿な……腕が動かない」


 ショートソードを持つ腕が震えている。クズミゴは力を入れると必死にアリシアに剣を突き刺そうとするのだが、動かすことはできない。


「アリシア。こっちに来るんだ」


 クズミゴが動かないと知ったアリシアは拘束を解くとショートソードから逃れる。そして俺の方に走ってきた。


「エルトっ! 会いたかったっ!」


 抱き着いてくるアリシア。懐かしい声に懐かしい暖かさ。至近距離から見つめ合う俺達は互いに目を離せなくなる。


「今だっ! 確保しろっ!」


 誰かの声が聞こえるとともに、ドタバタと足音がする。クズミゴが拘束されているのだろう。


「私ね。エルトが生きているって信じてたの。だけどもう会えないかと思って……ふええええん」


 泣き出すアリシアは俺の胸に顔を埋める。俺は頭を撫でてやると……。


「ちょっと、まだ終わってないんだから説明してくれないかしら?」


 そう言うと先日泉であった女が話し掛けてきた。


「なんでクズミゴはアリシアを刺さなかったの? あんた落ち着いてるところを見ると確信があったんでしょう?」


 女の質問に俺は頷くと……。


「マリー。皆に見えるように姿を現せ」


『えー、御主人さま以外に見られたくないのですよぉ』


「えっ? 急に女の子が……?」


 文句を言いつつも姿を見せるマリー。

 先程の会話だが、俺は目的もなしに話していたわけではないのだ。


 マリーにクズミゴの動きを止めるように命令をしていたのだ。

 精霊の姿は精霊視を持たない人間には見えない。なのでそれを利用すれば人質を無傷で助けることは造作もない。


「こいつは風の精霊王のマリー。俺の契約している精霊だ」


「えっ? ちょっと嘘でしょう? そんな……ただの人間が精霊王と契約するなんて……」


「……真実ですな」


 神官服を着た男の人がオーブに手をかざしなにやら断定している。あれが真実のオーブだろう。


「高位の精霊は姿を見せたり消したりできるからな。マリーに命じてクズミゴの動きを止めていた。だから危害を加えることができなかったのさ」


 俺の説明に周りはぽかーんと口を開いている。そんな中、目の前の女だけが……。


「あなた……無茶苦茶すぎるわね」


 かろうじて声を出すのだった。

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