虚偽の報告と再会
「それでは次の人間入ってまいれ」
宰相の言葉に扉が開き、男が入ってくる。
両側を兵士に固められ逃げ出せないようにしっかりと腕を掴まれていた。
男が証言席に立つ。
「ではまず名前と身分をあかしてください」
ヒューゴ司教は先程と同じ質問をした。
「エリバン王国兵士長クズミゴだ」
「虚偽の判定がでております」
「なっ!」
焦りの声を浮かべるクズミゴだが、
「クズミゴは現在、王国法違反により身分を剥奪されております。なので兵士長という名乗りが抵触したのかと」
宰相の説明により魔導具の故障ではないことが全員に伝わった。
「それではクズミゴよ。この場で貴様の言い分をもう一度聞こう。冤罪だという主張をしてみるがいい」
調査から戻っていらい、クズミゴは何度も自分の正当性を主張してみせた。
これまでは結果ありきの判決を優先したのだが、もし彼が国家を思っての行動だったのなら情状酌量の余地はあるだろう。
王国は本人から真実を聞き出した上で罪状を決めるつもりだった。
「俺……、いえ私は迷いの森の調査を国から命じられ任務にあたりました。そこでは使えない冒険者共が多数おり、私はその面倒役として調査に同行することになったのです。やつらは碌に動くことも出来ず、私は襲い来るモンスターを前に必死に指示をだしました。そのお蔭で調査隊は被害をだすことなく奥地まで入ることができたのです」
宰相や王は表情をピクリとも変化させなかった。これまでの調査報告をあらかじめ聞いているからその反応は冷めたものだった。
だが、クズミゴは言っている間に自分に酔ったのか、
「ですが、奥地で私たちはアークデーモンに遭遇しました。奴は『異変を起こしたのは全て自分だ』と告げると我々を殺そうと襲い掛かってきたのです。そこで私は『俺が引き受けるから誰か王国へ知らせてくれ』と言ったところ『我々では信用がありません。ここは引き受けますので先に行ってください』と言い出したのです。私はそれを聞き涙を流しながらその場を後にしました。そして命からがら迷いの森を抜けるとアークデーモンの出現を報告したのです」
熱弁を振るい、涙を流すクズミゴ。
演技だとしたら臭すぎるし、真に迫っていた。
この訴えを聞いた何人かはクズミゴを感心したような目で見ていたのだが……。
「……全部嘘ですな」
「なっ!」
ヒューゴ司教の判定により周囲の視線はしらけたものへと変わる。
誰もがクズミゴを、屑やゴミをみるような目で見ていた。
「情状酌量の余地があるなら一兵卒からやり直させる罰もあったのですが……流石にこれは……」
自己の為の行動で愛国心を一切持ち合わせていないクズミゴに宰相は戸惑いを覚える。
「王よ、いかがなさいますかな?」
クズミゴが王国にとって害でしかなかった。ここにはイルクーツ王国の王女もゲストできているのだ。甘い判定をすると外交で付け入られることになる。
エリバン国王は眉をよせ、しばらく悩む様子を見せると口を開いた。
「判決。クズミゴは死刑に処す」
「なっ…………!」
それは最も重い罰だった。
だが、神殿から司教まで呼んだ上で嘘をつらねたのだ。仕方ない話である。
項垂れるクズミゴ。身体を震わせながら何やらぶつぶつ呟き始めた。
周囲の人間たちはそんなクズミゴを冷めた目で見ている。
今回の処罰は戒めだ。敵前逃亡をして国益を妨げた者には厳罰が下る。
同じような目にあいたくなければ考え、国益にそう行動をしろという。
「ではクズミゴを連れていけ。次の人間を呼ぶことにしよう」
扉が開き、兵士がクズミゴを退場させようと近づくのだが…………。
「な、何故俺がこんな目に……。これもそれもすべては…………エルトのせいだ」
「えっ?」
その名前にアリシアが反応する。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
アリシアは焦りを浮かべると前にでた。
「あなた今なんと言ったの?」
アリシアはクズミゴに質問をすると本人へと近寄って行く。
周囲の人間は止めようか悩むのだが、その真剣な様子に行動が遅れた。
「なんだおまえ?」
突然質問をしてきたアリシアにクズミゴは吐き捨てるように言った。
「私はアリシア。エルトの幼馴染みよ。エルトがこの国にいると占いで知ったからここに来たの。お願いです。知っていることがあるのなら教えてください」
頭を下げるアリシア。
「なるほど……エルトの……ね」
そのせいでアリシアにはクズミゴの表情が見えなかった。
クズミゴは醜悪な笑みを浮かべる。そして信じられない程の素早い動きを見せると……。
「きゃっ!?」
「動くなっ! この女がどうなってもいいのかっ!」
アリシアを羽交い絞めすると兵士の腰から抜いたショートソードを首に突き付けた。
「アリシアっ!」
アリス王女が叫び声を上げる。
「クズミゴよ! 乱心したかっ!」
宰相が大声で怒鳴りつける。
「馬鹿めっ! どちらにしろ死刑なら怖いものなんぞあるものかっ! お前ら下がれっ! こいつは他国の貴族だろうがっ! 国際問題になるぞっ!」
「ううっ……」
力強く締め付けられたせいで苦しそうな声を上げるアリシア。
「いいか、貴様ら。俺がここから離れるまで動くんじゃないぞ。ついてくるようならこの娘を殺す」
目を血走らせたクズミゴ。だれが見ても危うい状態だとわかる。
「くっくっく、まさかお前がエルトの関係者とはなぁ。これで俺を陥れたあいつに復讐ができるわ」
「ひっ!」
嗜虐的な笑みを浮かべるクズミゴにアリシアは涙を浮かべる。だが、次の瞬間……。
「呼ばれたから入室してみたが、これは一体どういう状況だ?」
「嘘……本当に……生きて……」
アリシアは状況を忘れると扉の前に立つ人物を見る。
「ほ、本当にエルト……なの?」
喉が掠れて聞き取り辛い声をアリシアは出す。だが、その声を聞いたエルトは……。
「ああ、俺だよ。久しぶりだなアリシア」
様々な感情が詰まった声を出すのだった。
今回の話で丁度50話になりました
そして大変な状況にはなったものの、ようやく幼馴染みが再会です
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それでは次は100話を目指していきたいと思いますので、これからもお付き合いお願いします。