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手紙を書く

「う……頭が重い……」


 意識を取り戻すと視界が暗かった。

 結構長い間寝ていたような気がするのだが、周囲は真っ暗で何も見えない。


「スースー」


 近くでセレナの寝息が聞こえる。


「えっと、明りは……」


 俺は暗闇の中手を動かすと…………。


「……ぁん」

 

 何やらセレナが艶やかな声を出した。俺は何かが触れた右手を動かしてみる。


「……あっあっあっ!」


 柔らかい感触が指に伝わってきた。

 それとともに何かが動き俺の顔に触れる。息を吸い込むと何やら落ち着く匂いがした。


 どうやら何かに視界を塞がれているようだ。俺は後頭部を押さえつけている何かを丁寧にどけると顔を上げる。すると…………。


 目に涙を溜めながら俺を見ているセレナとばっちり目があった。


「エルトのエッチ」


 そう言われて俺は右手を見てみると、俺の手はセレナの胸を掴んでいた。





「セレナ、悪かった」


 レストランで食事を摂るあいだ、セレナは俺の方を見ようとしなかった。

 無理もない、寝起きの状態で、突然異性から胸を触られたのだから。


 彼女は頬を赤く染めるとそっぽ向いた状態でパンを食べている。

 俺は彼女の許しを得るためにじっとその仕草を見つめていると…………。


「もういいわよ。お互いに酔ったうえでの出来事だし。今回のは別にエルトだけが悪かったわけでもないもん」


 セレナはようやく俺の方を向くと。


「それに、私がエルトの頭を抱えてたんだもんね。私だって悪かったわけだし」


 そう言いながらセレナの耳が真っ赤に染まる。俺は俺で先程の感触を思い出してしまい言葉を紡げなくなった。


 それからしばらくの間、黙々と食事を摂る。

 そして食事が終わると……。


「今回は仕方なかったけど、次からは許可を得てから触ってちょうだいね」


 セレナは俺の耳に唇を寄せるとそう囁いて逃げ出すのだった。






「それで、今日は何をするのかしら?」


 食事を終えて街にでる。セレナは気を取り直した様子で話しかけてくるのだが、瞳が潤んでいるのでまだ完全に意識の切り替えができていないようだ。


「とりあえず、この街を出るための準備だが、俺の考えではどれだけ急いでも1週間はかかると思っている」


 乗合馬車の予約にしてもそうだが、都合よく東の街に行く馬車に2人分の空きがあるかわからない。

 だが、俺の生存に関してはなるべく最短でアリシアに伝えなければならない。そこで……。


「手紙を書こうと思っている」


 この世界には手紙で連絡を取るという手段がある。

 人や物資を運ぶのではなく、情報を運ぶ専門の人間がいる。彼らは街と街の間を馬や飛竜にのって行き来しているのだ。遠距離なので値段はかさむが、手紙を出しておけば国に帰る前に情報を届けることができるのだ。


「ふーん、それなら確かにエルトの生存を知らせることができるわね。それで、誰宛に書くのかしら?」


 俺の両親が既に亡くなっていることについては聞いている。

 天涯孤独な身の上で誰に向けて手紙を書くのかセレナはそこが気になったようだ。


「一応、俺の幼馴染みのアリシアって女の子がいるんでな。アリシア宛にするつもりだ」


 なにせ身代わりに邪神の生贄になったのだ。彼女のことだから気にしているだろう。俺が生存していることがわかれば彼女の苦痛を取り除くことができるかもしれない。


「えいっ!」


 俺がアリシアについて思い浮かべているとセレナが急に抱き着いてきた。


「どうしたんだ?」


 俺はセレナに質問すると……。


「別に何でもないし」


 彼女はさらに力を込めて俺の腕を抱えるのだった。


 

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