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街に到着した

「やっと街が見えてきたわっ!」


 セレナのそんな歓声が聞こえたのは森を抜けてから2日後だった。

 俺達は迷いの森を南下して進んでいた。


「これでやっとゆっくりできるな……」


 ここまで約1週間。最初は大丈夫だったが、常に野宿をしており作れる料理も限られていたので、精神的に疲労をしていた。


「御主人さまお疲れならマリーがおぶりましょうか?」


 ほっとしたのが表情に出たのか、マリーが覗き込むように俺をみて気遣いの言葉をかけてくる。


「確かに疲れてはいるが、体力の問題じゃないからな。街につけばこのぐらいの疲労はあっという間に回復するさ」


「なるほどなのです、でははやく街に向かうのですよ」


 俺の返答にマリーは頷くとウサミミをピコピコと動かすのだった。





 街が見えるにつれて様子がはっきりしてくる。

 基本的に街というのは安全確保のために壁で覆われている。これはモンスターの脅威から人間を守るためだ。


 村などでは人手も足りず、畑や家畜を飼う関係じょうそこまで厳重にすることはできないので、柵などをもちいることが多い。


 現在俺たちの前にあるのはわりと立派な壁と門がある。

 これはこの国においてここが重要な拠点であることの証明でもあった。


「なんか、外に人が一杯並んでるわね」


 遠目がきくセレナが目を細めて様子をみる。


「ああ、こういう場所では街に入るのに警備兵のチェックを受けなければならないんだ」


「ううう、マリーは人間は苦手なので一度消えるのですよっ!」


 そういうとマリーの姿が掻き消える。ずっと顕現しているから忘れていたが、彼女は風の精霊王だった。


「あっずるい!」


 セレナはそんなマリーに恨みがましい声を出すと。


「どうしたセレナ?」


 俺はその態度が気になった。


「よ、よく考えたら私も人間が苦手かもしれない……これまであったことがある人間ってエルトだけだし」


 セレナは不安そうな表情を浮かべるとぽつりと呟いた。そしてハッとすると……。


「ああっ、もちろんエルトのことは大好きだよ?」


 弁解をするようにあたふたする様子。俺はセレナの手を握ると、


「安心しろセレナ。ヨミさんに約束しただろ? 何があっても俺が守るって」


 その言葉にセレナはあっけにとられると……。


「うん、エルトがそう言ってくれるなら安心できるね」


 安心したように笑顔をみせるのだった。




「すいません、ここっていつもこんなに混んでいるんですか?」


 行列に並ぶこと数時間。一向に列は進まず街にはいることができなかった。

 前に並んでいる商人の人に話を聞いてみると……。


「なんでも、他国の偉い人が滞在しているらしくてな。その方が出発するまでは新たに街に入ることができないようなんだ」


「えー、やっと休めると思ったのに……」


 セレナはがっくりと肩を落とすと。


「そちらのお嬢さんはエルフか? 珍しいな」


「エルフを見たことがあるんですか?」


「旅の商人をしておるからね、ドワーフやケットシーにも会ったことがあるよ」


 この世界には人間の他に亜人と言われる種族がある。エルフはその亜人の1種族と言われているのだ。


「それにしても、これほど美しいエルフは初めて見るな。よかったらうちの商会で受付をやらないか?」


 見惚れていたかと思えばさりげなく勧誘をしてきた。


「け、結構です!」


 そう言って俺の後ろに隠れた。目の前の商人は笑っている。会話を円滑にする冗談だったのだろう。


「しかし、そうなるとただ待っているだけで無益な時間になりますね?」


 俺は肩に担いでいる皮袋をポンと前に降ろす。


「ふむ、この時間を無益にするかどうかは自分たち次第ということか?」


 商人はアゴを撫でると俺を探るような目で見たそして馬車に何やら取りに行くと……。


「それじゃあ、お互いに有益になるかもしれない時間を作ろうじゃないか」


 そう答えるのだった。



          ★


「それでは、旅のご無事をお祈りしております」


 鎧に剣を携えた兵士たちが敬礼をして見送る。

 これまで通ってきた国でも同様の態度をとられた。


「ええ、ありがとう。貴国にミスティの加護があらんことを」


 アリスは手を振ると笑顔で返事をした。


 門が開かれ、兵士たちが先導する。

 馬車はそんな兵士の後ろをゆっくりと進んでいくと……。


「アリシア。まだ慣れていないの?」


 緊張した様子のアリシアにアリスは話し掛けた。


「す、すみません。こういった待遇にこれまで縁が無かったもので……」


 この街に滞在している間、アリシアは過剰ともいえる接待を受けていた。

 見た目が麗しく、王女であるアリスが傍に置いていたので貴族かそれに近しい立場の人間だと思われていたのだ。


「慣れておいた方が良いわよ。今回の一件が片付いたらあなた多分王国の貴族に召されることになるのだから」


 邪神に我が身を捧げた女性ということでアリシアの人気は王都で高い。

 そんなアリシアを取り込もうと貴族が動き回っているのをアリスは知っていた。


「そ、そんなの……」


 顔色が悪くなったアリシアにアリスは優しい瞳を向けると。


「安心して頂戴、私の目が黒いうちは無理な結婚をさせるつもりはないから」


 曲がりなりにも自分はアリシアの恋心を知っている。国益に反する決断はできないが、それでも彼女の望まぬ婚姻を潰すぐらいは考えている。


「そういえばアリス様は結婚とかされないのですか?」


 カウンターとも言うべきか、アリシアの純粋な質問が放たれた。


「私は……ちょっと……ね」


 剣の才能に恵まれているアリスは婚姻先が決まっていない。それというのも国王が条件を付けているからだ。その条件を満たす人間は国内の貴族の中にいなかった。

 

「私は多分……国益にかなう人物と結婚することになるわ」


 その判断をするのはアリス自身。自分が剣で負けるとは思えないので、あれは父からのメッセージなのだと受け取った。

 剣を手放しても良い程の人物と出会えという。


「なにやら外が騒がしいですね?」


 アリシアが馬車の窓をみると、外には人だかりができていた。

 まるで市場のように風呂敷が広げられて取引が行われている。


「ああ、あれは私たちが出るまでのあいだ街の中に入れなかったから簡単な市場をやっているみたいね」


 王族の滞在中は出入りが制限されるのはよくあること。

 街に入れない商人が時間を無駄にしないように商売を始めたのだろう。


 その中に一際賑わっている場所があるのだが、中心にいる人物の姿はここから確認できない。


「私たちが立ち去るのがあの人たちが街に入れるようになる条件よ。次はいよいよエリバン王国王都よ」


 アリシアは視線を戻すと表情を引き締めた。


「はい。やっとここまで来ました……」


 そして視線を前へと向けると……。


「エルト、もうすぐあなたの傍にいくから……待ってて」


 両手を組むと祈りを捧げるのだった。


          ★

 




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