迷いの森から脱出
「えーと、次はこっちね」
セレナは身軽な動きで俺達を先導すると向かう先を示した。
流石はエルフらしく、この、目印が一切ない森の中でも方角がわかるようだ。
「南下して3日。そろそろ森を抜けたいわね」
虹色ニンジンを手に入れてから3日が経ち、俺達は迷いの森を歩いていた。
途中で様々なモンスターに襲われた。
アウルベア・ジャイアントトロル・デッドリーマダンゴ・ゴールデンクロウラー等々。
どいつもこいつも滅多に見かけない希少モンスターらしく、俺とマリーはいかに傷つけないで倒すかについて苦心をした。
そのお蔭で綺麗な状態で倒すことができ、死体はストックに入れてある。
「もう森の中は飽きたのです」
マリーもうんざりしているようで退屈そうにしながら歩いていた。
「おっ、あれってもしかして出口じゃないか?」
しばらく歩いていると、先の方に変化があった。視界いっぱいに木々がなく平原が広がっているのだ。
「やったっ! ようやく森を抜けられたわっ!」
「良い風が吹いてるのです!」
はしゃぐ2人を見ると俺も息を吐き胸を撫でおろす。
途中口にしなかったが、ずっと同じ場所を歩いているような錯覚は精神を不安にさせていた。『本当にこの道であってるのか? さっきの場所で曲がった方が良かったのでは? ちゃんと森から抜けられるのか?』。そんなことを考えていた。
「マリーどっちに行けばいいと思う?」
この中でもっとも旅慣れしているのはマリーだ。俺が意見を聞くと……。
「まずは川を見つけるとよいのです。恐らくその近辺には街道があるはずなのです、それさえ発見できれば人間のいる場所はすぐ見つかるはずなのです」
人間が生活するのには水は不可欠だ。川があればそこから水を引いているはずなので、辿って行けば人里を発見することができる。
よし、それじゃあまずはこのままさらに南下していくとしよう。
どちらに何があるかわからない以上悩んでも仕方ない。
俺は決断をするとしっかりとした足取りで先に進むのだった。
★
馬車が揺れ視界が動く。
窓の外には馬に乗った鎧を身に着けた騎士達がいて警護をしている。
アリシアはそんな様子をぼーっとしながら見ていると……。
「ねえ、アリシア。またエルト君のこと考えているの?」
「アリス様。申し訳ありません」
そう返事するということはアリスの指摘は正解らしい。
「あの占いから3週間。目的地のエリバン王国まであと1週間程で到着するわね」
エルトの居場所がいくつもの国をまたぐその先にあったので、随分と長い時間を移動に費やした。
そのお蔭もあってか、占い師が突き止めたエルトがいる迷いの森まで随分と近づいている。
アリシアの表情には元気がない。会議の場ではその場の全員に啖呵をきったアリシアだったが、時間が経つにつれてエルトの生存が望み薄だと考え始めてしまった。
生き延びていてほしいというのは本人の願望でしかなく、常識的に考えるのなら死んでいる可能性が高い。今回の調査で死体が発見できれば良い方とすらアリスは考えていた。
「まだ何も確認していないじゃない。あなたが信じてあげなくてどうするのよ」
だが、アリシアには笑っていてほしい。そう考えたアリスはそれを表面に出すことなく励ます。
「ありがとうございますアリス様。そうですよね……。私はエルトが簡単に死ぬとは思えません。結果をこの目で見届けるまでは生きていると確信して行動します!」
少し表情に元気が戻った。アリスは微笑むとさらにアリシアに話しかけた。
「そうだ、アリシアがいつからエルト君を好きだったのか教えてよ。あと、どんなところが好きなのかもね。これは命令よ」
「べ、べべべ別に私とエルトはそんな関係じゃないです! 単なる幼馴染みで……腐れ縁で。いつも一緒にいただけで……」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになるアリシア。そんな彼女をアリスは面白そうにみる。
「ただの幼馴染みの身代わりに生贄になんてなるかしら? 私の勘が告げているけどエルト君はアリシアに惚れているわね」
「っ!?」
次の瞬間。アリシアは熟れたトマト程に顔を赤くした。
「おやおや? もしかしてアリシアも満更じゃないのかしら?」
横から覗きこみアリスはアリシアをからかうと……。
「や、やめてくださいっ! 本当にそんなんじゃないですからっ!」
そう言って否定して見せるのだが、アリシアの口元が緩んでいた。
「そう? なら私が恋人に立候補しちゃおうかしらね。アリシアから話を聞いた時から興味はあったし。別に構わないわよね?」
「えっ?」
今度は血の気の引いたような顔をするアリシア。
「冗談よ。あなたが素直にならないからからかっただけ」
「アリス様は意地悪です……」
恨みがましい目でアリスを見つめるアリシア。
アリスはアリシアが立ち直ったのを見届けると……。
「とりあえずまずはエリバン王国に入って王国側に話を通します。そこから冒険者を雇ったり色々調査しつつ迷いの森近くまで行くって感じかしらね?」
何か異変でもあれば手掛かりになりそうなのだが、これまで滞在していた街ではそのような噂は聞いていない。
「到着してから2週間以内に結論をだします。アリシアにもばんばん働いてもらうつもりだから宜しくね」
とにかくエリバン王国につけば何かがわかるだろう。
アリシアは馬車の外を見ながら、
「エルト……早く会いたい」
そう呟いた時の表情は完全に想いを寄せる相手に対するものだった……。
★