マリーの過去
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幸せだった頃の記憶を思い出していた。
御主人様と7人の仲間と共に邪神討伐の旅をしていた時の記憶だ。
これまでも何百、何千、何万……数えきれないぐらい繰り返し蘇った記憶。
私も含めて皆、御主人様が大好きで……それでも自己主張が苦手な私は他の子が御主人様を取り合っているのを羨ましく思いながら見ていた。
それから旅は進み、私たちはとうとう邪神の居城に攻め込んだ。
多数現れる邪神の教徒と眷属のデーモンたち。
私たちは戦った。傷つきながらも進み、とうとう邪神の元へと辿り着いた。
邪神を倒せば世界が救われる。御主人様はそういうと神に鍛えられし剣を抜くと邪神と戦った。
最初は互角に戦いを繰り広げていた。私たちの援護も効いているのか魔法による攻撃は確実に邪神の身体を削っていき、御主人様の剣は邪神を追い詰めていく。
勝てるという思考が浮かんだ瞬間。全員に緩みが発生した。
まず仲間の1人が邪神が撃ちだした黒い光に貫かれて消滅した。
そこからは早かった。
1人が欠けたことで拮抗していた戦力は押し返され、私たちが一気に不利になった。
御主人様はこのままでは勝てないと悟ったのか、私たちに「逃げろ」と命令をした。
その言葉を聞いていた邪神は私たちに呪いをかけた。
人型である時に獣人の姿になる呪いを……。
御主人様は討たれ、私たちは散り散りになった。
★
「な、なるほど……。それがエルト君が契約した精霊王かね?」
あれから風の谷から戻った俺たちは、ことの詳細をヨミさんに話していた。
俺たちを心配していたのか村に戻るなり皆に囲まれたのだが、説明を終えた今では皆驚愕の表情を浮かべている。
「エルトって、つい昨日まで精霊視も持ってなかったよな?」
「初めて契約した精霊が精霊王とか凄すぎない?」
「まさか生きて精霊王様を見ることができるようになるなんて、拝まなければ」
何やら色々言われているが、この村の連中に悪意はないのでスルーしておくことにした。
俺は右腕に抱き着いているマリーを見ると……。
「ん?」
至近距離から目があった。そしてマリーは俺に身体をこすりつけて幸せそうな顔をする。
俺は彼女の過去を知っているだけに拒絶する気が起きないのだが…………。
「ううう、エルトとくっついてないで離れなさいよね」
戻ってからというもの、セレナの機嫌がなぜか悪い。
「断るのです。マリーは遠慮することで後悔をするのはもう嫌なのですよ」
セレナの言葉にマリーは更に強く抱き着いてくる。俺は腕に柔らかい感触を感じながら2人の口喧嘩を聞き続けるのだった。
俺は部屋に戻ると横になる。ひと段落がついたところで改めて自分のステータスを確認した。
名 前:エルト
称 号:街人・神殺し・巨人殺し・契約者
レベル:874
体 力:1761
魔 力:1761
筋 力:1761
敏捷度:1761
防御力:1761
魅 力:8400
スキル:農業Lv2 精霊使役(40/42)
ユニークスキル:ストック(630/875)
精霊使役のスキルが追加されていてコストが40埋まっている。
「虹の果実を食いまくっておいてよかった」
まさか精霊王と契約できるとは思っていなかったが、備えておけば役に立つものだ。マリーを受け入れるコストはギリギリではあったが、なんとか範囲内に収まっていた。
「今日は疲れたからな……とりあえずゆっくり休むか」
俺はステータスの確認を終えると重くなった瞼を閉じるのだった。
「よし、マリー。左のフォレストウルフは任せたぞ」
「はいなのです! マリーに任せるのです」
翌日。俺とマリーは村の周辺で狩りをしていた。
精霊と契約を結んだからといってすぐになじむ訳ではない。
お互いのスキルを見せる必要もあるし、連携できるかの確認もしなければならなかった。
「ガルルルルルッ」
俺は数匹のフォレストウルフを剣で牽制しながらもマリーの動きを見る。
「早く倒して御主人様に褒めてもらうのです。砕け散るのです! 【ヴァーユトルネード】」
先日みせられた風の魔法が突き進む。進行方向にあった木は触れた部分が削り取られ塵となって舞い上がる。
「キャウンッ!?」
その威力に驚いたのか、フォレストウルフは鳴き声をあげるのだが……。
次の瞬間、風に巻き込まれてその命を散らしてしまった。
「やったのです」
喜びながら俺の元へと戻ってくる。そしてマリーは俺を見ると……。
「あれ? あっちのウルフもマリーが倒すです?」
首を傾げて聞いてきた。俺は剣を鞘に納めると。
「いや、必要ない」
「ほえ?」
「【ヴァーユトルネード】」
俺もマリーに倣って魔法を唱えると数匹いたフォレストウルフに直撃した。
「凄いのです。これが御主人様が憎き邪神を倒した力なのですか?」
マリーが尊敬の眼差しを俺に向けてくる。
精霊契約の時、俺は彼女の。彼女は俺の記憶を見たのだ。
「ああ。俺のユニークスキルの【ストック】はあらゆるものをストックして自在に取り出すことができる。今のはお前が俺に放った魔法だな」
「ううう、ごめんなさいなのですよ」
それを思い出したのかマリーはウサミミをペタリと倒して反省してみせる。
俺はそんな彼女の頭を撫でると……。
「さて、もうすこし狩りを続けるとするか」
そう促すのだった。