漫才「ATM」
漫才・コント31作目です。どうぞよろしくお願いいたします。
銀行のATMコーナー。入ってきた青年が、ATMの前に立った。
青年「たしかまだ二万円ちょっと残っていたはずだよな。全部降ろしちゃお」
青年がATMのパネル操作を始める。
ATM「最近使イスギデスヨ」
声が聞こえた。
青年「ん?」
後ろを振り返る青年。だが、誰も居ない。
青年「気のせいか」
パネル操作に戻る。
ATM「今日ハ、降ロスノヲ止メニシテオキマショウヨ」
青年「わかった、ここから聞こえてきてる」
声の出どころがATMだと気づいた。
ATM「ネ、ソウシマショ」
青年「でも、なんでATMが説教をたれるんだろう?」
ATM「サア、取リ消シボタンヲタッチシマショウ」
青年「新機能なのかな? あー、これが例のAIっていうやつ?」
ATM「取リ消シボタンガ待チクタビレテマスヨ」
青年「あのさあ、ごちゃごちゃと余計な事を言わないでくれないかな」
ATM「アドバイスデスヨ。オ・ヤ・ゴ・コ・ロ」
青年「そういうのは、大きなお世話っていうんです」
ATM「モウスグ給料日ナンデスカラ、ソレマデガンバッテ節約生活ヲシテオキマショウヨ」
青年「僕のお金なんだから自由に使わせてもらいます。ほっといてください」
ATM「ジャア、セメテ降ロス金額ヲ半分ニシテオキマショウ」
青年「だーめ」
青年が声を無視してパネル操作を続ける。
ATM「考エ直セマセンカ?」
青年「直せませんねー」
ATM「ドウシテモデスカ?」
青年「どうしてもですよー」
ATM「ソウデスカ」
青年「そうですよー」
ATM「・・・」
青年「二、万、円、と」
ATM「・・・」
青年「あとは実行ボタンをタッチすれば、僕はお金持ち。えいっ」
ATM「ソウハサセマセン。ホイッ」
青年「あっ、実行ボタンが逃げた」
ATM「フッ、フッ、フッ」
青年「こんどこそ、えいっ」
ATM「ホイッ」
青年「くっそー、逃げ足がはやい」
ATM「無駄ナ抵抗ダト思イマスヨ。コノヤリトリヲ閉店マデ続ケマスカ?」
青年「根比べだな、望むところだ」
ATM「機械ヲ相手二機械戦ヲヤッテ、勝テルトオ思イデスカ?」
青年「うーん」
ATM「サア、ドウシマス?」
青年「解ったよ、僕の負けだ、降参するよ」
ATM「賢明ナ選択デス。降ロス金額ヲ半分ニナサルンデスネ?」
青年「そうだ。金額選択画面を表示してくれ」
ATM「ハイドウゾ。二万円ノ半分デスカラ、一万円ト、タッチシテクダサイ」
青年「わかったよ。ほら、一をタッチしたぞ、これでいいんだろ」
ATM「ソウソウ」
青年が高速で続きをタッチしていく。
青年「万、九、千、円、実行、やったー」
ATM「アッ、ズルイ。約束ヲ破リマシタネ」
青年「へっへっへっ。さー出せ、一万九千円出せ。二万円にはちょっと足りないが、僕の勝ちだな」
ATMの前扉が開いて、棒金がごろごろと出てきた。
(棒金とは、同じ種類のコイン50枚をビニールでまとめて棒状にしたものです)
青年「あー、全部一円玉!」
ATM「フフフ。コレデハ無駄遣イハデキナイデショウ」
青年「何てことを・・・ひでーことするなー」
ATM「バラデナク、棒金デ出シテサシアゲタンデスヨ、少シハ感謝シテ欲シイモノデスナ」
後から手提げ袋が出てきた。
青年「とほほほほ」
青年が袋詰めを始める。
ATM「サア、帰ッテ寝マショウ」
青年「そうするしかないだろ。さあ、カードを返してくれ」
ATM「返シタラドウナサルオツモリデス?」
青年「さあねー」
ATM「給料日ニナッタラ他ノ店デ降ロスオツモリデスネ?」
青年「どうでしょうかねー」
ATM「・・・カードハ当分預カッテオクコトニシマス」
青年「そんなのだめにきまってるだろ、返せよ!」
ATM「降ロストキハココニイラシテクダサレバイインデスカラ、問題ナイデショウ」
青年「返せったら返せ」
ATM「イヤデス」
青年「返せ返せ返せ」
青年がATMを蹴飛ばす。
ATM「イテテテテ」
青年「ふん、いい気味だ」
ATM「ヤリマシタネ」
青年「やったよ。だからなんだ? 反撃してこようっていうのか?」
ボクシングスタイルで構える青年。
ATM「皆サーン、彼ノ預金残高ヲ、タダイマカラ発表シマース」
青年「えええ?」
ATM「社会二出テ十年ニナル彼ノ、現在ノ預金残高ハー」
青年「ちょっとタンマー。恥をかかせるんじゃない!」
ATM「タッタノ〇〇〇〇円デース」
青年「わー」
青年が顔を隠して店から飛び出していく。
読んでいただき、どうもありがとうございました。