【098 ベンナ地方到着】
【098 ベンナ地方到着】
〔本編〕
「成程! その具体的な手段として、私たちのゴンク帝國攻略ということになるのね!」
「はい! ツヴァンソ様」
コロンフルが嬉しそうに頷く。
元々、クーロは戦略的なものをよく理解しているので、コロンフルとしてもそれほど意外ではなかったが、ツヴァンソはどちらかというと力押しする猛将タイプで戦略的なことを軽んじる傾向にあったが、初陣の苦杯から、その傾向は無くなりつつあった。
コロンフルにとって、それがツヴァンソから感じ取れ、素直に嬉しかった。
「フルーメス王国は、三國と接しております。東がミケルクスド國、北が我がソルトルムンク聖王国、そして西がゴンク帝國で、唯一南側だけが海があるため他國と接しておりません。いずれにせよ三國と接しているため、ミケルクスド國にだけ戦力を集中させるわけにはいかないのが、フルーメス王国の実情であります。そこに我らからフルーメス王国に、ゴンク帝國を聖王国が攻めることにより、フルーメス王国にとってミケルクスド國一國に戦力が集中できる状況を作ることを、外交を通じて伝えました。フルーメス王国からすれば、苦杯を舐めさせられたミケルクスド國を攻め、悲願である反故にされた約束以上の領土を自力で奪う絶好の機会となるはずであります! そして、フルーメス王国は必ずこの機会を逃さず、ミケルクスド國に大部分の戦力を注ぐことでありましょう。そうなればミケルクスド國は、北のジュリス王国、南のフルーメス王国の侵攻に対処しなければならず、ブーリフォン聖王子様のバラグリンドル地方攻略のみ対処するわけにはいかなくなります。むろん、バラグリンドル地方が奪われれば、ミケルクスド國が二つに分断されるので、それ相応の戦力は割くはずではありますが、それでもそれに固執して北と南から領土を侵食されるのを、指を加えて見ているようであれば、結局は国土の大部分が失われ、バラグリンドル地方のみ守ることが、本末転倒ということになってしまいます。さらに言うと、北方に王都がある以上、その喉元にジュリスの軍勢が迫れば、今の王ならば、王都防衛を最優先とするでありましょう」
コロンフルはここで少し語尾を強める。
「つまり我らコロンフル軍のゴンク帝國攻略は、聖王子様のバラグリンドル地方攻略を左右するほど大事な役割を担っているということになります」
龍王暦二〇二年一二月二〇日、後二〇二年が十日あまりで終わろうとするその日。コロンフル率いる千の軍勢が、ゴンク帝國国境沿いの聖王国領ベンナ地方主城ベンナ城に到着する。
今回のゴンク帝國への侵攻は、このゴンク帝國と国境を接している聖王国領ベンナ地方が拠点となった。
ベンナ地方には、ソルトルムンク聖王国の王都マルシャース・グールより、アコニト将軍が派遣されていた。
アコニト軍の総勢はおよそ一万。
しかし、アコニト将軍自身は千程度の中央軍を率いてきただけで、残りはベンナ地方の地方兵並びに各地域から派遣された兵による混成軍であった。
「どうやら我らの到着が、一番遅かったようでございます」
ベンナ城外の北方に千の軍勢を駐屯させたコロンフル副官が、クーロとツヴァンソにそう言った。
「先ほどアコニト将軍の使いの者がここに来て、今夜、最初の軍議を設ける故、軍の責任者は参集すべしと言って参りました。使いの者には、クーロ様、ツヴァンソ様も共に軍議に参加する旨を申し渡しました。本日午後七時にベンナ城に入城いたしますので、よろしくお願いいたします」
この日の午後七時十五分、ベンナ城内の一室において軍議が開かれた。
その席にコロンフル軍からは、コロンフル、クーロ、ツヴァンソ、そしてパインロが参加した。
ツヴァンソは終始笑顔で、ある一点を見つめていた。
ツヴァンソがご機嫌なのは、この軍議の席に着く前からであり、さらに言えば、今日ベンナ地方に到着した日でもなく、それより三日前の一二月一七日からであった。
それもそのはず、実はこのベンナ地方に参集した軍の中に、彼女がずっと憧れていたヌイの軍勢もあることが、三日前に判明したからであった。
当然、ツヴァンソが見つめている先には、その当人であるヌイがいる。
ベンナ地方に集結したアコニト将軍率いる軍勢は、色々な地域から参集した混成軍であるのは先述した。
タシターン地方のマデギリーク将軍が第四副官のコロンフルに千の兵を率いさせ、この地に参集したのと同じように、別の地域からも各軍勢がここに参集していたのである。
その中で最も規模が大きいのが、ヌイ中官が率いる三千の中官軍である。
ここに集結した一万の軍勢の指揮官は、むろんアコニト将軍であるが、アコニト将軍が中央から率いてきた兵は千人に過ぎないため、ここに参集した軍勢の中で中心となるのは、三千のヌイ中官軍であり、その直接の指揮官のヌイその人であった。
ツヴァンソが憧れを抱いているヌイは、龍王暦一九八年当時一五歳で初陣を経験し、それからわずか一年で三度の戦いを経、その度に昇格し一年で『上位中隊長』になった人物である。
三度目の戦いでは、東国の強国カルガス國の将軍を倒し一躍有名になった。
この当時、クーロもツヴァンソもまだ初陣すら経験していないにもかかわらず、ヌイのことを知っているぐらいであるから、かなり有名な事柄であった。
ただ、クーロからすれば、ヌイに憧れたツヴァンソによって、何百回とヌイのことを聞かされていたので、それで詳しく知っているとは思われるが……。
いずれにせよそれから四年、ヌイは順調に戦績を積み重ね、十九歳で三千人を預かる『中官』に昇格を果たしていたのであった。
「それでは皆揃っているようなので、これから軍議を始める」
指揮官であるアコニト将軍が軍議を始めようとしたその時である。
「将軍! お待ち下さい!」
一人の人物が軍議の開始を遮った。
「いかがなされた?! ヌイ殿!」
皆、ヌイの方を見る。ヌイは席から立ちあがっていた。
身長が二メートルになるヌイの立ち姿は、それだけで周りを圧倒するほどの迫力があるが、それでいて鎧の上からでも分かる、がっしりした筋肉に覆われているその精悍な立ち姿は、大衆の目を彼一人に惹きつけるぐらい魅力に富んでいたものであった。
クーロは、ツヴァンソがヌイのことを無邪気に語っていたその当時を思い起こし、少し嫌な気分になった。
「申し訳ない! アコニト将軍! 大事に軍議の鼻っ柱をへし折る空気にさせてしまって……」
そう言いながら、ヌイは全然悪ぶれている様子ではなかった。
〔参考一 用語集〕
(人名)
アコニト(聖王国の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
ヌイ(ソルトルムンク聖王国の中官)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
カルガス國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)
ベンナ城(ベンナ地方の主城)
ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
(その他)
上位中隊長(上位中隊は百人規模の隊で、それを率いる隊長)
中官(指揮官の位の一つである官の第二位。三千人規模を指揮する。小官より上位)
副官(将軍位の次席)
〔参考二 大陸全図〕




