【097 ミケルクスドとフルーメスの確執】
【097 ミケルクスドとフルーメスの確執】
〔本編〕
「ちょっと、クーロ兄さん!」
ツヴァンソがクーロに尋ねる。
「ジュリス王国は同盟国なので分かりますが、フルーメス王国がそのような我らの助力に応じるとはとても思えませんが……。フルーメス王国が聖王国に協力する理由がありません!」
「その通りだ、ツヴァンソ! いや、驚いた! 昔の腕力頼みの暴れ者ツヴァンソからは、そのような発想は出てこないからな! 兄さんは妹が成長しているのが見れて素直に嬉しいぞ!」
「……今、兄さんに対する殺意がふつふつと芽生えてきました!」
ツヴァンソが静かにそう呟く。
クーロは、身震いをしてさっと後ろに引き、
「ごめん! ツヴァンソ! 誉め言葉のつもりだったのだが、どうもうまく伝わらなかったようだ! すまん!」
ツヴァンソはここでニヤッと笑い、
「分かっております。兄さんの含みのある誉め言葉ということは……。ただ、少し調子に乗っているようでありましたので、軽く脅かしてみました。こちらこそ、ごめんなさいね」
クーロはホッとして、苦笑いをしながら呟く。
「お前にとっては、軽い脅かしかもしれないが、僕の寿命は少なくとも一年は縮んだぞ。まあ、含みのある言い方をした僕に責任があるから、自業自得ではあるが……」
「はい!」
クーロとツヴァンソは共に笑いあう。
ひとしきり二人で笑った後、クーロが話を戻した。
「フルーメス王国が聖王国のバラグリンドル攻略に付き合う義理も義務もないのは、ツヴァンソの言った通りだ! ジュリス王国のように同盟国でもなく、むしろ聖王国とは領土を接しているので、その領土を奪い合う敵国の間柄だしな……」
クーロは続ける。
「……なので、フルーメス王国には聖王国の都合ではなく、自国の利益のためミケルクスド國への軍事行動を促すというのが正確な表現になるかな。そうですね、コロンフル副官!」
「さすがはクーロ様! マデギリーク様のお考えと全く一緒でございます」
コロンフル副官は感心して、そうつぶやいた。
「遡る龍王暦一八〇年、我がソルトルムンク聖王国がバラグリンドル地方を始めとする海洋に接する地域全域を失った時、その時の敵国がミケルクスド國とフルーメス王国の二國だったのであります。ジュリス王国もミケルクスド國の誘いに応じ、同時に聖王国を攻め込みましたが、ジュリス王国は聖王国の内陸部を攻めたので、実質的に聖王国の海岸沿いを攻めたのは、ミケルクスド、フルーメスの二國であります」
コロンフル副官が、先ず時代背景について軽く触れた。
このあたりの内容は、クーロもツヴァンソも当然知識として熟知しているので、コロンフルもあえて詳しい話はしなかった。
「そしてこの一連の戦いにおいて、最も利益を得たのがミケルクスド國! ジュリス王国は、聖王国領の内陸部は手にしましたが、逆にミケルクスド國によって海岸線を持つ領土、ドクサ地方を奪われてしまいました。これは、ミケルクスド國の完全なだまし討ちではありましたが、実は共同で聖王国の海岸線を攻めたフルーメス王国も、最終的にはミケルクスド國によって煮え湯を飲まされたわけであります!」
「成程! では、あの噂は本当だということか?」
「兄さん! 噂とは何ですか?」
クーロの言葉に、ツヴァンソがいち早く反応した。
「いや! 僕も詳しくは知らないが、どうやら龍王暦一八〇年の聖王国に対してのミケルクスド國とフルーメス王国が共同戦線を結ぶ際に一つの約束事があり、それをミケルクスド國が一方的に破棄したという噂だ!」
「その約束事とは、領土分割に関する約束事のことでありました。一応、両国が聖王国の領土を切り取り次第という決め事だったらしいですが、それでも切り取った後の最低限の国境線は決められていたようであります。それも、それについてはミケルクスド國側が、フルーメス王国側を誘うにあたって提示された条件であったようでしたが、それをミケルクスド國が一方的に破棄した――というより、無視を決め込んだということでありましょう」
「それぞれに切り取り次第ではあるけれど、切り取った後、最低限の国境線を設ける約束事って、少し矛盾した意味合いの条件のように聞こえるけど……」
「お互いの國が切り取る地域の難易度の差から決められた条件と謂われております。ミケルクスド國側が切り取る聖王国領の方が、フルーメス王国側が切り取る聖王国領より容易く切り取っていけるというのが、その当時の両国の共通認識でありました。地形、城の規模、聖王国の地方領主の資質などの諸条件から……。そして実際問題、その条件をミケルクスド國が提案しなければ、一八〇年の共同戦線は実現しなかったと言われたぐらいでありました。そして案の定、フルーメス王国側の聖王国領切り取りの方が大幅に手間取り、結果、聖王国の切り取られた領土の割合は、ミケルクスド國側が三分の二で、フルーメス王国側が三分の一というものでありました。当然、全てが成された後に、改めて共同戦の条件に従い国境線を引き直すものと、少なくともフルーメス王国側は考えておりました。しかし……」
「ミケルクスド國側はそれに頑として応じなかったわけですね」
コロンフルの説明の最後の部分を、クーロが引き継ぐように思わず口を出していた。
「はい! 何でも国境線の約束事は、国王同士の同盟では一切触れられておらず、大臣レベルの決め事であったため、それは最初から無かったことにしたという経緯であったそうです」
コロンフルが続ける。
「確かに詳細な部分なので、大臣同士の話し合いであったかもしれませんが、我が國から海岸線を奪って間もなく、ミケルクスド國側のその決め事をした大臣が解任されたようでありました。おそらくは、ミケルクスド國は最初からそれを狙っていたのだというのが、その当時のもっぱらの噂ではありました」
「むろん、フルーメス王国としてはそれでは引き下がれないな!」
「はい、クーロ様。フルーメス王国は、その後も外交を通じて何度もミケルクスド國と折衝を重ねましたが、ミケルクスド國はのらりくらりとそれを躱し続け、ついに三年後の龍王暦一八三年にフルーメス王国とミケルクスド國は国交を断絶し、戦争状態に入りました」
「結局、外交では解決できないので、武力でその国境線を引き直そうとしたわけね」
「そうです、ツヴァンソ様。しかしながら、陸上軍や水軍においては互角の両国でありましたが、ミケルクスド國の飛兵部隊の前に、フルーメス王国は苦杯を舐めさせられ続け、現在に至っております。今回の我々の任務は、そのフルーメス王国の悲願を後押しする役割を担っております」
〔参考一 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子。大隊長)
コロンフル(マデギリーク将軍の副官)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。大隊長)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
バラグリンドル地方(ミケルクスド國領)
〔参考二 大陸全図〕




