【093 ドクサ地方攻略(二十九) ~ファング仕留める~】
【093 ドクサ地方攻略(二十九) ~ファング仕留める~】
〔本編〕
「敵軍に潜入させていた兵からの報告です!」
クーロは、ツヴァンソの仲介でアッティモ将軍に会見を求め、会見の場でこう切り出した。
「明日には、敵飛兵部隊と地上部隊が撤退を始めます! その前段階として、敵水軍が攻撃を仕掛けてきます。いわゆる飛兵部隊並びに地上部隊の撤退を援護するための攻撃です!」
「そうか! それで我らはどうすればよいのだ! クーロ殿」
アッティモ将軍の末妹ミラーが、そう尋ねる。
「アッティモ軍におかれましては、敵水軍の攻撃に対し、フセグダー将軍の元に援軍を送っていただければよろしいかと……。千程送るのが適当かと……」
「成程! それで我らは水軍に多くの注意を払い、我らより東に駐屯している地上部隊については、自分たちから攻撃を仕掛けない限り、一切関わらない体に見えるな。 ……それで、敵飛兵部隊と地上部隊については、こちらからは何も仕掛けずに撤退させるつもりでいるのか?」
「まさか! 撤退する部隊には、私とツヴァンソの二中隊が奇襲を仕掛けます! ツヴァンソ中隊と共同で奇襲を仕掛けることについて、将軍のお許しをいただければと思います」
「お前たちは、元々独立遊軍としての性質を持つ中隊だ! 俺に許しを改めて請う必要はない! しかし、二中隊の奇襲でいいのか? 二中隊の奇襲では敵軍にそれほどの痛手は被らせることは出来ないと思うが、本当にお前たち二中隊だけの奇襲でいいのか?!」
「はい!」
クーロが続ける。
「今回の奇襲は、撤退する敵全体を叩くものではございません。飛兵部隊の一人、ワイヴァーンナイトのファングを仕留めるための奇襲です。欲をいえば、生き残っている六体のワイヴァーンナイトと二体のドラゴンナイトである王直属の精鋭兵を全て仕留められれば、将来における憂いとなる芽を一気に摘む結果となることでありましょう。最低限、竜飛兵の隊長ファングなる兵を仕留められれば、それだけで今後のミケルクスド攻略、非常にやりやすくなるでしょう!」
ミケルクスド國国王直属兵の一人、ワイヴァーンナイトのファングは馬で、南に向けて撤退の脚を速める。
その時であった。しんがり軍を務めているワイヴァーンナイトのガーリオを除く、ホースに騎乗している四人のワイヴァーンナイト兵と、それを前後で援護するよう駆ける二体のドラゴンナイトの後方で、眩い閃光がいきなり発せられ、同時に大音響が耳をつんざく。
ファングたちが思わず何事かと後ろを振り向いた時、眩い閃光がファングたちを包み込んでおり、彼らの視野は失われた。
そこに複数の矢音が鋭く響き渡り、そこここで味方の兵のうめき声が聞こえてきて、ファングの周辺は怒号に包まれた。
「しまった! 敵の奇襲部隊は騎兵だけではなかった! 弓兵による伏兵も用意されていたのか!!」
ファングはそう叫ぶと、今まで向かっていた方向から九十度向きを左に変え、そのまま白い光の中を突き進む。
先は全く見えないが、移動方向を南から東に変えたことにより、敵の伏兵から脱しようといった試みであったが案に相違し、ファングの騎乗している馬が数メートル東に進んだところで、巨大な何かに思いっきり激突し、その勢いでファングは後方に落馬する。
さらに、落ちたファングの上に今まで騎乗していた馬が倒れてきて、下敷きになったファングの足から骨盤、さらにろっ骨などの骨を砕いた。
「グウゥゥ!」
ファングがうめき声をあげる。
各所の骨が砕けた激痛に加え、さらに砕けた骨が肺や胃に突き刺さり、ファングは激しく吐血する。
馬の下から這い出そう試みるファングではあったが、身体全体の骨が砕け、それもままならない。
ホースも何かに激突した衝撃で瀕死の状態となり、ファングの上から自力で退くことすら出来ない。
白い閃光が落ち着いてきたので、視野を強化したファングが周りを見回すと、いつのまにか巨大な木々に覆われた森の中にいることに気付く。
ファングは、その森の獣道的な通路を、いつの間にかホースに乗って駆けていたのであった。
「そういうことか! 俺に撤退を導いた兵が、潜伏していた敵方の兵であったか!」
そう観念したファングに、敵の矢が降り注ぐ。
三十本以上の矢を身体に浴びたファングは、もう息をしていなかった。
ツヴァンソ中隊とクーロ中隊による奇襲により、ミケルクスド國地上部隊並びに飛兵部隊は、千近い死傷者を出す。
数の上では千という損害はそれほど多くはないが、この二中隊による奇襲は敵の指揮官級の人物をピンポイントでターゲットとしていたため、数字以上に甚大な被害をミケルクスド國側は被ったのであった。
結局、王直属の竜騎兵並びに竜飛兵は、この奇襲で全員亡くなった。
その上、この場に集結した大隊長以上の兵のうち、九割方がこの一連の戦いの中で戦死した。
クーロ中隊のヤンムール、フォルの両名が、十名程度の隊を編成しミケルクスド國軍の中に潜伏していたためであった。
二人は共に潜伏した部下とともに、精力的に情報収集を行い、地上部隊並びに飛兵部隊の指揮官級の人物を特定していたのであった。
その指揮官の中で、特に王直属の精鋭兵、その中でも第三の砦の上空からの攻めで、寄せ集めの飛兵部隊をまとまった一軍として機能させたファングについては、潜伏兵の誰かが必ず近くで偵察させるほどの徹底ぶりであった。
結局、ミケルクスド國軍撤退の際、ツヴァンソ中隊による奇襲から逃れようとしたファングとその精鋭兵たちを、この森の中の獣道に巧みに誘導したのが、クーロが初陣の折に伝令兵として活躍した当時二十歳のフォルであった。
この森の中に、ファングを始めとする精鋭兵を誘い込み、クーロたちが潜伏している地点で、魔兵による閃光の魔術を行使し、見事弓兵の狙撃により、ファングたちを葬り去ることに成功したわけであった。
こうして第三の砦の連合軍は、ミケルクスド國からの援軍を見事に追い払った。
後、第三の砦を攻めているミケルクスド國軍は、ウーア将軍率いる水軍のみとなったが、遠浅の海岸線を持つ第三の砦を、水軍単独で落とすのはほとんど不可能であった。
そうこうするうち、今回のドクサ地方攻略戦一連のうち、決定的な一打となるべき事項が起こる。
五つの砦の中で一番攻略するのが難しいと謂われていた第五の砦陥落である。
龍王暦二〇二年三月二八日の出来事であった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
ウーア(ミケルクスド國の将軍。水軍の将軍)
ガーリオ(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)
フォル(クーロ隊の一員)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
ミラー(アッティモの妹)
ヤンムール(クーロ隊の一員)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
ペンプトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第五』という意味)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(その他)
大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




