【091 ドクサ地方攻略(二十七) ~好転~】
【091 ドクサ地方攻略(二十七) ~好転~】
〔本編〕
特にここまでの特攻の柱であった飛竜は、高度三百から五百メートルの高さが無ければ降下特攻作戦が行えず、高度八十メートルでは滑空を維持するのが精一杯の状態であった。
こうなると飛兵部隊であっても、地上兵と同様の攻撃しかできなくなり、例えば天馬はただの馬へとなり下がり、敵槍兵による槍衾を突破どころか、攻め込むことすら出来なくなり、拠点を拡大することがほとんど難しい状況となってしまった。
そうこうするうち、さらに日数が経過し十二月になる。
ついに雪が本格的に降りだし、霧が昼夜問わず大地を覆う。
このままでは、飛兵が空に戻ることすら難しくなり、兵糧を十分に確保していない攻撃側は、このままでは砦の上で立ち往生状態となってしまう。
それではいくら拠点を作っていたとしても、そのまま兵糧が尽き全滅してしまう。
そういった最悪を想定したファングは、一旦、全ての飛兵部隊を砦の上から撤退させ、そのままある地上の一拠点に降下させ、そこで冬を過ごすこととした。
砦の上を半分奪われていたクーロたち籠城部隊は、冬将軍の助けを借り、敵飛兵部隊全面撤退という完全勝利をとりあえずは得たのであった。
十二月に入り、霧がさらに濃くなり視界が完全に奪われたことで、第三の砦での攻防戦は、一時休戦状態となった。
籠城側としては、いつ敵の奇襲があっても対処できるよう十分に警戒しつつ、それでも多くの兵は砦や陣で暖をとり、十分に休息することが出来るようになった。
「クーロ様!」
クーロたち砦内の籠城部隊も、一部の兵に警護はさせていたが、多くは休息をとっており、その場にいた一人のジュリス兵がクーロに声をかけた。
「とりあえず粘ったかいがあり、敵を一旦退かせることに成功いたしました! しかしながら、それでも春先になればまた敵飛兵部隊が、この砦に攻めかかるでありましょう。いくらヴェルト北部は冬が長いとはいっても、五月になればさすがに春の陽気となり、晴天の日も続くようになるでしょう。そうなっては、我らにこの砦を守る術はもうありません。それまでに何らかの手をうつ必要がございます。場合によっては無念ではありますが第三の砦からの完全撤退も頭の片隅にいれておいたほうが……」
「いや!」
ジュリス兵のこの言葉に、クーロが否定する。
「冬まで粘ったことにより、ドクサ地方攻略はほぼ達したといって過言でない! 五か月あれば、他の四つの砦は我ら連合軍が全て手中におさめている!」
そうクーロがはっきりと断言した。
「しかし……」
クーロに問いかけたジュリス兵はまだ納得できていない様子であった。
この砦でのクーロの采配で、ジュリス兵はクーロに全幅の信頼を寄せている。
それでもクーロのこの断言については、素直に頷けなかった。
「正直に申し上げまして、我々ジュリス兵は聖王国兵を弱兵と侮っておりました。しかし、クーロ様によって、それが間違いであったと今は思っております。しかしながら、それはあくまでもクーロ様とクーロ様の中隊の方々への認識であります。まだ、聖王国兵が弱兵という考えが根本から改まったわけではございません。大変申し訳のないことではありますが……」
「それは、当然の考え方であり一般的な認識だと思います。だから謝る必要はありません! 確かに残りの四つの砦を攻めているのは全て聖王国の兵ではありますが、それらの兵は聖王国一の将軍であるマデギリーク将軍麾下の兵士。私の中隊よりはるかに強い兵士たちであります。また、ブーリフォン聖王子様は『闘王』という異名を持つほど戦に長けた王子。その王子の兵もやはり精鋭中の精鋭であります!」
「指揮官や兵が強いのは、クーロ様の今のお話でよく分かりました。しかし今、季節は冬! 我ら北方の兵も一月、二月には本格的な進軍を控えるほど寒さ厳しい季節です。聖王国はなんといっても南部の温暖な気候の國。とても冬場にミケルクスドの兵から砦を奪取できるとは思えません!」
「……確かに聖王国の大半はヴェルト大陸中央部から南部に領土を持っております。しかし、例外もいくつかあります。例えば、父マデギリークや私が住んでいるタシターン地方は、中央部に位置していながら、土地の地形から、寒風が上空に留まり、その風が上空で渦を描くように吹き降りてくる地域であります。ちなみにこのドクサ地方の一二月より、さらに一二月は寒くなります。そしてブーリフォン聖王子様は、北方の強国バルナート帝國と国境付近で主に戦われていらっしゃいます。バルナート帝國との国境付近でありますので、むろんここより寒さ厳しいところです。……まあ、後数か月も経てば私の話が嘘かどうかお分かりになるでしょう」
クーロがにっこりと笑い、ジュリス兵たちにそう語った。
クーロの断言した言葉に嘘偽りはなかった。
年が明けた龍王暦二〇二年二月一五日、早々にそれが実現する。
ソルトルムンク聖王国側の大将であるブーリフォン聖王子が、第二の砦を陥落させたのであった。
第二の砦は内陸部に位置しており海からの援軍を得られず、さらに海に面している第一の砦の次にミケルクスド國の王都から遠い砦である。
従って、五つの砦の中で最も守りにくい砦であった。
ブーリフォン聖王子の中央軍は五千という大軍勢ではあったが、それでも砦の内側には三百の兵が守りを固めており、当然、ミケルクスド本国より地上部隊や飛兵部隊といった援軍も送られていた。
それでも第三の砦ほど重要視されていない砦であったため、せいぜい援軍も加えて千程度の軍勢であったであろう。
そして一般的な兵の強弱尺度で考えれば、ミケルクスド國兵が『三』の評価に対し、聖王国兵は『一』の評価であるので、五倍の軍勢を有していたとしても聖王国軍がミケルクスド國軍の砦を攻略するとは到底思えなかったのであった。
しかし攻め手の司令官は、聖王国王の王子であり『闘王』の異名を持つブーリフォン聖王子である。
王子は時に自ら先頭になって攻め立て、時に策を用いて敵を嵌め、二月という最も兵が活動しにくい時期にも関わらず、砦を陥落させるという大金星を達成した。
実は二月という季節は、攻め手のブーリフォン聖王子側も厳しい戦いを強いられてはいたが、守る側の援軍に当たる地上部隊の機動力が大幅に削がれ、ミケルクスド國自慢の飛兵部隊に至っては、その飛行能力を全く発揮できない状態であったため、むしろ砦を守る側の方が二月という厳冬の影響をもろに受けたといってよいであろう。
いずれにせよ、この第二砦の陥落は、両軍それぞれの士気に大いなる影響を与えたのであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
ゼフテロス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第二』という意味)
タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
プロトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第一』という意味)
(兵種名)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(竜名)
ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)
(その他)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
ペガサス(馬の体に白鳥の羽を持つ動物。『天馬』とも言う)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




