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【090 ドクサ地方攻略(二十六) ~冬~】


【090 ドクサ地方攻略(二十六) ~冬~】



〔本編〕

 第三トゥリトスの砦には、城壁の上から下に降りる階段が三つあるが、それらは一つとしてまだ敵には奪われていない。

 そのため弓兵を始めとする籠城兵が、砦の上と下とを行き来する動線は健在であった。

 ただ敵は飛兵部隊なので階段を利用せず、城壁を越えて砦内に直接降下することも当然可能であったが、飛兵部隊単独では、砦の完全占拠は難しかった。

 なぜなら、飛兵部隊以外の地上部隊と海洋からの上陸部隊が、第三トゥリトスの砦籠城部隊に完璧に抑えられており、砦に近づくことが不可能なばかりか、むしろ敵地上部隊と相対しているジュリスのアッティモ将軍の軍や、敵水軍と相対しているフセグダー将軍の軍の方が、砦内に多少ではあるが、応援の騎兵や歩兵を送るほどのゆとりすらあったからである。

 結局、ファングの飛兵部隊は、砦の上の一部分を確保するだけで完全占拠とはなり得ず、飛兵部隊だけで第三トゥリトスの砦を完全占拠するには、かなりの出血を強いる戦い方に移行する必要があった。

 クーロたち籠城部隊とアッティモ軍とフセグダー軍からの援軍だけであれば、二千七百の飛兵部隊だけで完全占拠も可能ではあるが、それは理論上の話であり、仮にファング率いる飛兵部隊が決死の攻撃を始めれば、アッティモ軍並びにフセグダー軍も手をこまねいてそれを見ているはずはなく、必ず主力部隊を砦内に投入してくることになるであろう。

 当然、敵軍を足止めしているアッティモ軍並びにフセグダー軍の数が半減すれば、それによって抑えられていたミケルクスドの地上部隊並びに水軍も、砦近くにまで攻め入ることが可能となり、それこそ双方総力挙げての戦いになる。

 純粋な兵数でいえば――当初の数での換算になるが、籠城側八千に対し攻城側が一万八千なので、難攻不落とは言い難い第三トゥリトスの砦如きでは、攻城側が勝利すると考えられるが、実際にはここまで自分たちより少数の敵に抑え込まれている味方の地上部隊並びに水軍が、その総力戦に積極的に付き合うかは未知数であり、可能性としては、はなはだ心もとないものをファングはいだいていた。

 そういった事情で、ファング自身は飛兵部隊を一つにまとめたが、他の味方の動向が全面的に信じられない以上、決死の総力戦に戦い方を変えることが出来ないのであった。

 ファングの存在が、攻城側の一つの光明的な要素を持ちながらも、根本的な組織連携が出来ていない以上、ミケルクスド側が勝利するためには、後二つぐらい奇跡的な僥倖が重ならなければならなかった。


「クーロ様! あまり積極的に攻めますと、指揮官がここにいることに敵が気づき、敵の一斉攻撃にさらされてしまいます! 少しはご自重下さい!!」

 クーロの付き人ヨグルが、クーロに何度もそう注意する。

「分かった!」

 クーロはヨグルにそう注意される度、ヨグルに向かってにっこりと笑い、口ではそう言うが、しばらくすると矢を積極的に射かけ、敵の主力と思われる飛兵を次々と屠っていく。

 それを見てヨグルは、いつ敵に気付かれるかと肝を冷やさんばかりではあったが、実際にクーロが自分の存在を危うくしても敵を積極的に倒そうとする姿――この場合は、クーロから射られる矢によってであるが――、それが敵より少数の味方の士気を保っている。

 もし、クーロのその積極的な行動が無ければ、数でも兵の質でも劣る第三トゥリトスの砦籠城部隊は早々に敗退し、砦を敵に明け渡すことになっていたであろう。


 しかしヨグルが心配するほど、クーロの小集団に敵が集中することはなかった。

 なぜなら、同じように矢を射かけているパインロ、ズグラ、ヒルル、オフクのうち、オフクがクーロの攻撃よりやや劣る程度で、後の三人の矢は、むしろクーロより卓越していたためであった。

 ファング率いる敵飛兵部隊が、指揮官のいる集団を絞り切れない理由がそこにあった。

 そしてしばらく経つと、飛兵部隊が拠点を作ることが段々難しくなってきた。

 一つが、砦の上がそれほど広くないため、物理的に拠点を作るスペースがなくなってきたこと。

 そしてもう一つが、新たな拠点が出来たとしても、最初のうちに敵が奪った拠点を籠城側のクーロたちが奪還するようになってきたからであった。

 クーロたちに再奪取された拠点では、飛兵が半数を失い、残りがほうほうのていで上空に追い帰される現象が起きるようになってきたのであった。

 そのため、ファングは既に作った拠点に飛兵を増員させ、拠点を再奪取されないよう手をうち、数の力でジュリス、聖王国の連合部隊を攻め、籠城側を退かせて、そこから拠点の範囲を広げるという戦法に切り替えていった。

 竜飛兵先陣による特攻降下の時のように派手に拠点が増やしていくのに比べれば、徐々に拠点を中心に占拠地帯を拡張させていくという地味な戦法に変わったが、飛兵部隊の兵数は充実しているので、時間さえかければ、そのままその戦法で砦を奪取することも可能であったであろう。

 しかし、それをするには時間が足りなかった。

 ……否、時間が足りなかったというよりは、時季が悪かったといった方が適切であったろう。



 一一月という季節は、ヴェルト南部の地であればまだ秋であったが、ヴェルト北部の地であれば、既に長い冬の入り口から半ばになろうとする時期であった。

 気温も、一桁台かあるいは零度以下となる日が続くのも当たり前の季節であった。

 元々北方の國家であるジュリス王国もミケルクスド國もそのぐらいの寒さは常に経験していたが、さすがにドクサ地方は一一月も上旬を過ぎると、気温が氷点下の日が続き、そのうえ厚い雲に覆われる曇りの日が頻繁となり、ほとんど晴れの日が無くなる。

 つまり上空を滑空する飛兵にとって、厚い雲で視界が奪われるだけでなく、雲の中はさらに気温が低く、飛行動物たちの翼が凍り出すほどであった。

 結果、雲より下でしか飛ぶことができなくなってしまう。

 さらにこの季節には雲が低く垂れさがるため、飛兵が飛べるのは高くて高度八十メートル、天候が特段悪い日には高度が五十メートルまでしか飛べないなどという状況になる。

 これは、弓兵にとっては射程圏内であり、飛兵の優位性が全く無くなり、むしろ上空自体が弓兵にとって格好の狩場と化してしまう。

 クーロたち籠城部隊は、十日間で砦の上の半分のエリアをミケルクスドの飛兵部隊に占拠されてしまっていたが、その頃から一気に気温が下がり始め、厚い雲が低くたちこめる曇りの日がずっと続く天候となってしまったのであった。

 これで飛兵部隊による特攻降下作戦が、この天候によって一旦頓挫してしまったのであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 パインロ、ズグラ、ヒルル、オフク(クーロ中隊の弓兵)

 ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 ヨグル(クーロの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)


(兵種名)

 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)

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