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【089 ドクサ地方攻略(二十五) ~隊長ファング~】


【089 ドクサ地方攻略(二十五) ~隊長ファング~】



〔本編〕

 ファングは、王直属の竜飛兵ワイヴァーンナイト部隊の隊長であり、それはあくまでも九体のワイヴァーンナイトを束ねる隊長であって、残り三千の飛兵部隊の隊長ではない。

 よって、三千の飛兵部隊を束ねる権限は一切持っていない。

 さらに王直属の兵は精鋭中の精鋭である故に、一般の兵をさげすむという傾向がある。

 一般の兵からしても、戦場という現場で戦っていない王直属の兵については、その技量は認めているものの、実戦経験が皆無なため、本当に実戦で役に立つのかといった疑いを常に持っている。

 いわゆる表面的には敬っているように見せかけて、影では王直属の兵を馬鹿にしているといった有様である。文字通り面従腹背めんじゅうふくはいの現象が起こっていたわけである。

 実際に、地上部隊の王直属の竜騎兵ドラゴンナイトの一体がツヴァンソとツヴァンソ中隊の者に討ち取られてしまってから、援軍の中で最も兵数が多く主力として期待されていた地上部隊が、その後全く機能できなくなってしまったのが、その端的な事例といえよう。


 しかし、そういった傾向はあくまでも一般的な事例であって、常に例外というものは存在する。それが竜飛兵ファングであった。

 ファングは当初、王直属の竜飛兵を待機させ、一般兵三千の飛兵部隊に砦の攻略を任せた。

 一般兵の目には、竜飛兵たちが自分たちは手を汚さないつもりでいるように映ったことであろう。

 しかし、ジュリス王国のカランパノ大隊長と聖王国のクーロ中隊長の連合部隊の想像以上の反撃により、五倍もの兵を擁する味方の飛兵部隊が苦戦をする。

 それを見たファングは、部下の竜飛兵に命じ、敵指揮官のカランパノ大隊長を瞬殺し、主導権を奪う。

 しかしその後、クーロとその中隊の働きで勢いを盛り返した敵により、イェショウという切り込み隊長的なワイヴァーンナイトを含む四体の竜飛兵を失ってしまった。

 十体のうち四体の竜飛兵を失った時点で、砦上空の攻防戦も籠城側に戦局が完全に傾いたかと思われたが、そうさせなかったのが竜飛兵の隊長ファングであった。

 四体の竜飛兵を失った後、全ての飛兵部隊に撤退を命じ、砦近くの草原に全ての飛兵部隊を着陸させた。そこで、ある一つの戦法を兵全員の前で披歴したのであった。

 先ず、飛兵部隊を六つに分け、一つの隊に竜飛兵を一体配置する。

 そして、それぞれ部隊がファングの示す箇所を攻める。その際、先陣は竜飛兵が務め、残りは陣形を組んでそれに続くといった戦法であった。

 これには一般の兵の方が驚きで声も出なかった。

 自分たち一般兵に先ず攻めさせ、その犠牲の上で、ちゃっかり戦績を稼ぐのが王直属の兵だと皆が認識していたからである。

 それが逆に竜飛兵の方が先陣を切り、それに敵防衛部隊が戦力を注いでいる間に、一般の飛兵部隊が拠点に降下するという戦法を、竜飛兵のファングの方から示したからであった。

 確かに、飛竜ワイヴァーンの皮膚は一般兵の矢などでは貫けない。

 そのため敵防衛部隊は、その竜飛兵一体に多数の戦力を割かざるを得ない。

 そうなれば後続の飛兵たちは、自分たちはそれほど攻撃を受けずに砦の上に降下できるわけである。

 当たり前すぎるほどの正攻法ではあるが、王直属兵は決して、自分たちの身を切る戦いはしない。

 ましてや、自分たちを一般兵が降下するための布石にするなどという発想は、ほとんど考えられないことであった。

 さらに部隊を六部隊に分けたということは、隊長のファング自身も、先陣を切るということの証明である。

 このファングの在り様は、一般の飛兵達に大いなる驚き、それと同時に大いなる感動を呼び、この一事で一般兵士が抱く王直属兵に対する認識を一変させるほどであった。

 かくして、援軍の総司令官ウーア将軍が特に任命したわけでもないのに、飛兵部隊には、カリスマ的指揮官ファングがここに誕生したのであった。



 カランパノ大隊長が倒れ、その後を継いだクーロが見事にその指揮官の役割を果たし、四体の竜飛兵を倒した日から三日目後の一一月六日。

 新たに六部隊に編成されたミケルクスド國飛兵部隊が、第三トゥリトスの砦に再び攻めかかった。

 わずか三日間で態勢を立て直した敵の在り様に、第三トゥリトスの砦を守っていたジュリス王国、ソルトルムンク聖王国の連合部隊も予想外であったが、それ以上に予想外だったのが、四体の竜飛兵を失ったはずの敵が戦力を落としているどころか、むしろ組織的でこれまで以上の厳しい攻めを始めたということであった。

 竜飛兵ワイヴァーンナイトを先陣に、特攻を仕掛けるファングを中心としたミケルクスド國飛兵部隊の降下攻撃。

 十体のワイヴァーンナイトの内四体を失い、部隊の数も当初の三千から二千七百程度に減っていたが、それでもジュリス、聖王国合わせて五百五十の籠城部隊より遥かに数は多く、そこにワイヴァーンナイトを先頭に押し出した効果的な戦法によって、ミケルクスドの飛兵部隊は、先陣の竜飛兵を打ち落とそうと躍起になっている籠城兵を打ち払いながら続々と砦の上に降下し、拠点を作っていく。

 五百五十のうち既に五十を失い五百に減ったジュリス、聖王国連合籠城部隊は、この攻撃でさらに百近くの戦死者を出した。

 拠点についても、ワイヴァーンナイトが降下寸前に上昇し、二度、三度と連続で降下攻撃を展開するため、攻撃が開始されて二時間あまりで、三十箇所ほどの拠点を砦の上に作られてしまったのであった。

 竜飛兵ファングの指示により、一拠点には降下兵が三十、そのまま上空に留まる兵が二十の計五十人の兵を配置したため、一度作られた拠点をおいそれと奪取することは難しい。

 既に三十箇所の拠点は、二拠点さらに三拠点と線として繋がり始め、砦の上の全占拠が時間の問題という様相を呈してきた。

 攻城戦当初は、砦の上に拠点を作ることすら苦労していた飛兵部隊が、ファングの指揮のもと一丸となって、まさに三十ほどの拠点を作り上げたのは驚嘆に値する。

 しかしそれでもまだ砦の攻防戦について、大勢が決したわけではなかった。

 一つがクーロを始めとするパインロ、ズグラ、ヒルルやオフクといった中心となる弓兵並びに、小隊の時からの仲間、フォル、ヤンムール、スーシャ、さらにはジュリス側の中心となる人物については、他の兵で厚く守らせ、降下攻撃の際に敵に倒されないようにしたためであった。

 そのため百の兵を失い、数としては四百となった防衛部隊であったが、まだ組織的な抵抗を続けていられるのであった。

 さらにそれら中心人物の隊が、分断されて孤軍とならないよう配慮もされていたため、拠点を確保したミケルクスド兵が、砦の上からクーロたちを追い落とすには、さらなる拠点の構築と、併せて敵の中心的人物の直接的な排除が必須であった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 イェショウ(ミケルクスド國のワイヴァーンナイト)

 ウーア(ミケルクスド國の将軍。水軍の将軍)

 カランパノ(フセグダー将軍の部下。大隊長。故人)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)

 パインロ、ズグラ、ヒルル、オフク、フォル、ヤンムール、スーシャ(クーロ中隊の面々)

 ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)


(兵種名)

 ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)

 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)


(竜名)

 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)


(その他)

 大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

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