【088 ドクサ地方攻略(二十四) ~竜飛兵イェショウ(続)~】
【088 ドクサ地方攻略(二十四) ~竜飛兵イェショウ(続)~】
〔本編〕
「グォォォォォォ~!!」
ワイヴァーンの咆哮が砦全体に響き渡る。飛竜の左目が矢に射抜かれ、そこから鮮血が勢いよく吹き出した。
ワイヴァーンの左目を射抜いた人物は、パインロの直弟子の一人、ズグラであった。
ズグラは、ワイヴァーンナイトのイェショウがクーロ目がけて急降下を始めた刹那、クーロに向かって駆け出していた。
彼は駆けながら矢をワイヴァーンに向かって射かけ、結果、ワイヴァーンの左目を射抜いたのであった。
しかし、ワイヴァーンは大きく吠えたが、それで動きが止まるわけではなかった。
「片目を射抜いたとしても、それだけでは致命傷には至らないか……」
クーロを始め周りの誰もがそう思い、クーロの命を諦めかけたその時、一つの想定外が起こった。
片目を射抜かれてもワイヴァーンの動きは止まらなかったが、ワイヴァーンは自らの意思で、自分の左目を奪った弓兵を攻撃対象に切り替えたのであった。
結果、クーロはワイヴァーンの顎の餌食になるところ九死に一生を得、その代わりにズグラがワイヴァーンの餌食になろうとしていた。
急降下からの強引な飛竜の軌道修正には、さしものイェショウも御する術がなく、イェショウは先ほどのように竜にしがみつくのが精いっぱいの状態となった。
ズグラの命は風前の灯であったが、ズグラからすればクーロの命を寸前のところで救った満足感から、命尽きるその瞬間であっても、その表情は晴れやかであった。
しかしクーロからすれば、自分の代わりに部下の命が奪われるのが、堪らなく嫌であった。
その時、クーロの目に一瞬“ある” ものが映った。
ワイヴァーンが首を捻った際に、そこだけワイヴァーンの他の部分と違う色合いの皮膚が、見えたような気がしたのであった。
“光の反射によるワイヴァーンの皮膚の光沢で、そこだけ色が違うのは、そこだけ違う方向から鱗の生えているからではないか! それがいわゆる『逆鱗』では……!!”
クーロは直感的にそう感じた
その異なった皮膚の色合いは一瞬であり、それが逆鱗か否かを確かめる術はないが、そこを躊躇している事態では当然ない。
クーロは近くに落ちている槍を拾い、ワイヴァーンの首筋で、その色合いの変わった箇所目がけて思いっきり投げつけた。
クーロの槍の投擲は素早く、そして正確に行われ、高速で投げられた槍はワイヴァーンの首筋に深々と刺さる。
「ギャアアアアアア~!!」
ワイヴァーンは先程より大きな声で咆哮し、それと同時にワイヴァーンは長い首を滅茶苦茶に振り回し始めた。
それはついに首だけでなく身体全体にも及び、やがて背中に騎乗しているイェショウを思いっきり振り落とし、ワイヴァーン自身は悶えながら砦の上に激突し、そのまま転げ回った。
ワイヴァーンから思いっきり振り落とされたイェショウであったが、空中で華麗に二回転し、砦の上に着地する。
そして、間髪入れず槍を構えて、クーロに迫った。
それを阻止しようとしたジュリスの槍兵二人が、瞬く間にイェショウに突き殺され、イェショウとクーロの距離は二十メートルを切る。
クーロは再び落ちている槍を拾い、イェショウの鋭い槍の突きを、手にしたばかりのその槍で横にいなす。
イェショウも精鋭兵であり当然槍の腕前にも自信があったが、弓兵であるはずのクーロの槍の腕前が、自分と互角であると感じ、イェショウは動揺する。
自慢の槍で肉薄すれば、容易くクーロを倒せると思っていたイェショウからすれば、悪夢のような誤算であった。
「グッ!」
焦りを禁じ得ないイェショウに向けて、オフクが矢を射かける。
オフクによるその一射を、かろうじて槍で防いだイェショウであったが、防いだ際に少しバランスを崩したイェショウをクーロは見逃さず、イェショウの腹部にクーロの槍が深々と突き刺さった。
「ガァァ~! 馬鹿な!!」
その一言を残しながらイェショウは、クーロの槍をもろに受けた腹部を押さえながら、そのまま足から崩れ去る。
イェショウの乗っていたワイヴァーンも砦の上で悶えながら転げ回っていたが、そのワイヴァーンの両目と口の中、そしてクーロが見つけた急所である逆鱗付近に矢が集中し、矢が射かけられる毎に動きが徐々に遅くなり、二十分後ついに動きの一切が止まった。
それを上空から見ていたワイヴァーンナイトの隊長ファングは、飛兵部隊全員を砦の上空から、一旦退かせた。
さて、竜飛兵部隊の隊長ファングは、ミケルクスド國の現王ツァイトオラクル直属の兵であり、今、第三の砦を攻略するために集まった三千の飛兵部隊とは、一切面識がない。
また、三千の飛兵部隊もそれぞれが各地域から召集された部隊であるため、それをまとめ上げる指揮官なるものは三千の兵の中には一人も存在しない。
実際、ミケルクスド本国から第三の砦奪回のために派遣された援軍一万八千の司令官は、五千の水軍の長であるウーア将軍であるが、水軍、地上部隊そして飛兵部隊のそれぞれの隊は連携しているわけではなく、またミケルクスド中央政府も司令官のウーア将軍も、地上部隊並びに飛兵部隊の現場の指揮官を明確にはしていない。
一万八千という大軍なら、一気に第三の砦を奪回出来るであろうと誰もが思った結果かもしれないが、それが致命的といえるほどの過ちであったとミケルクスド國が思い知るのは、そう遠くない将来であった。
実際ミケルクスド地上部隊一万も、半数のジュリス王国とソルトルムンク聖王国の連合軍の前に、砦の前で足止めを余儀なくされ、五千の水軍も、フセグダー将軍の直属の兵によって上陸を阻まれ、同じく砦に近づけない有様となってしまったからである。
しかし、その中にあってジュリス、ソルトルムンク側の唯一かもしれない誤算が、竜飛兵部隊隊長ファングの存在であった。
〔参考 用語集〕
(人名)
イェショウ(ミケルクスド國のワイヴァーンナイト)
ウーア(ミケルクスド國の将軍。水軍の将軍)
オフク(クーロと同年齢の弓兵)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ズグラ(パインロの直弟子、クーロ隊の一員)
ツァイトオラクル王(ミケルクスド國現王)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
ファング(ミケルクスド國ワイヴァーンナイト隊隊長)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(竜名)
ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)




