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【087 ドクサ地方攻略(二十三) ~竜飛兵イェショウ~】


【087 ドクサ地方攻略(二十三) ~竜飛兵イェショウ~】



〔本編〕

 黒煙が散った砦上空において、それまで上昇して続けていたワイヴァーンナイト二騎の内の一騎――イェショウのワイヴァーンが、突如として急降下に転じた。

 イェショウの反転は、視界が元に戻ったとはいえ、黒煙と矢の反撃により被害を被った敵飛兵部隊は、全員一旦態勢を立て直すであろうと思っていたジュリス、聖王国の兵士達の不意を突く形となった。

 カランパノ大隊長を一撃で屠った切り込み隊長的存在のイェショウは、黒煙と破裂音などでワイヴァーンが興奮して暴れている間、ワイヴァーンを御すことに全神経を配りながらも、隙があればカランパノ大隊長死後、敵側の崩れかかった戦意をたった一声で回復させた新たな指揮官クーロを倒すことについて、冷静に考えを巡らせていた。

 やがてワイヴァーンを完全に制御し、矢の攻撃の射程から離脱するために上昇を始めたイェショウであったが、その上昇の最中さなか、黒煙が風で完全に飛ばされたことにより視界が完全に開けたことをチャンスととり、まだ敵味方とも乱戦の様相が収まらない中、唯一人敵クーロの存在を焦点とし、急上昇からクーロ目がけて一気に急降下に、騎乗しているワイヴァーンを変化させたのであった。

 このイェショウの電撃的な行動には、敵のみならず味方にも意外過ぎて、結果、砦に向かって急降下をしている飛兵は、イェショウただ一騎だけであった。

 さらにイェショウの急降下しているルートに、逃げ遅れた一騎のペガサスナイトと二騎のホークナイトがいたが、彼はそれらを一切考慮にいれず、クーロに向けての直線的な急襲降下を続行した。

 結果、一騎のペガサスナイトと二騎のホークナイトは、クーロの前にそのワイヴァーン急襲降下によって蹴散らされ、兵、飛行動物共に即死することとなった。

 三騎の味方の飛兵を蹴散らしながらも、イェショウのワイヴァーンは、一瞬とも減速することはなかったのであった。


 クーロは急降下してくるワイヴァーンナイトに向けて、弓を引き絞っていた。

 クーロが自分に向かってくる竜飛兵ワイヴァーンナイトの存在に気づいた頃には、そのワイヴァーンナイトの速度は、時速三百キロメートルになっていた。

 クーロの全力の回避行動で、そのワイヴァーンの一撃を躱せるか否かといったスピードであり、仮にワイヴァーンの突撃は躱せたとしても、続くイェショウの槍の突きで、クーロは確実に葬られるであろう。

 そう瞬時に判断したクーロは弓に矢をつがえ、思いっきり引き絞る。

 この場での速射は意味をなさない。

 渾身の引きによる一射以外に、このワイヴァーンを倒す術はない。

 むろん今のクーロの武器と腕前では、ワイヴァーンの固い皮膚を貫くことは不可能である。

 狙うはワイヴァーンの急所、四日前にパインロと問答した際に挙げられた竜の急所――目と口の中での二点であった。

 どちらも竜が自分の方に向かってこない限り、狙うことが出来ない箇所だが、今はちょうどその状態シチュエーションである。

 このうち口の中の方が狙いやすいが、ワイヴァーンが口を開けなければ狙うのは不可能であるし、ワイヴァーンが敵に向かって口を開くということは、炎を吐く兆候である。

 イェショウのワイヴァーンは口を開かずに、クーロに向かってきている。

 ……となるとクーロの狙いはただ一つ、ワイヴァーンの目に自ずと絞られる。

 仮にワイヴァーンの片目を射抜いたとして、それでクーロの絶体絶命の事態が回避できるかは、未確定要素ではあるが、今はそれしか手立てがない。

 ワイヴァーンの急降下してくるスピードから、クーロが渾身を込めて引き絞る矢に、二射目はない。

 つまり、一射に全てをかける。クーロの覚悟は瞬時に定まった。

 ただ、クーロ自身はそうであっても、クーロ以外の者にとって、クーロの命を晒すという選択肢は当然ない。

 パインロを始めクーロ中隊の弓兵の矢は、クーロ向かって急降下してくるイェショウとそのワイヴァーンに集中する。

 しかし、不意をつかれたイェショウの急降下に反応できた弓兵は全体で二十人といない。

 上位弓兵は、そのうちのさらに数名である。

 その状況下にあって、クーロの師であるパインロの矢が最も的確で、急降下するワイヴァーンの首筋に矢を当てた。

 パインロの強弓故、ワイヴァーンの首筋に刺さったが、本来であれば物理的に刺さるはずのない固さの竜の皮膚であり、さしものパインロの射た矢であっても、時速三百メートルの高速移動している竜の皮膚には深さ一センチメートルしか刺さらず、結果、ワイヴァーンの急降下の動きに何ら変化をもたらすことはなかった。

 パインロの直弟子の一人ヒルルの矢は、イェショウ本人を狙ったが、イェショウまでの距離があったのと、イェショウ本人が熟練兵であったため、イェショウの頭を狙ったヒルルの矢は、イェショウが首を捻り当たることはなかった。

 才能はあるがまだ若いオフクの矢は、イェショウのワイヴァーンのスピードについていけず、的を外す。

 これで結局、クーロの絶体絶命の危機から逃れられる手は、クーロ本人の一射以外に無くなったのであった。


 クーロは弓を目一杯引き絞る。

 ワイヴァーンとの距離は百メートルを切る。

 これで次の瞬間には、ワイヴァーンのあぎとがクーロに届くが、ワイヴァーンもこの距離では、クーロの射る矢から回避することは出来不可能となった。

 つまり、クーロの射た矢が正確にワイヴァーンの目を射抜くものであったなら、回避することの出来ないワイヴァーンの片目は永遠に失われることになる。

「ヒュッッッッッッ!」

 空気を切り裂くような鋭い音と共に、今まさに矢を射ろうとしたクーロの弓のつるが、突然プツンと切れる。

 弓の弦が摩耗したため切れたわけではない。

 竜飛兵ワイヴァーンナイトイェショウの口から吹き出された暗器あんきのせいであった。

 その暗器は長さにして一センチメートル程の長さであったが、鋭い刃があり、それによってクーロの弓の弦が切られたのであった。

 いつの間に暗器を口に含んだのかは定かではないが、これはクーロにとって予測しようがないことであり、イェショウの方が一枚上手であったといえる。

 さらに時速三百メートルの速度下で、それを上回るスピードで暗器を吹き出すあたり、魔術か何かで身体的に強化されているとはいえ、恐るべき肺活量であった。

 弓の弦を切られ、クーロは自らの死を覚悟した。




〔参考 用語集〕

(人名)

 イェショウ(ミケルクスド國のワイヴァーンナイト)

 オフク(クーロと同年齢の弓兵)

 カランパノ(フセグダー将軍の部下。大隊長。故人)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)

 ヒルル(パインロの直弟子、クーロ隊の一員)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)


(兵種名)

 ホークナイト(第二段階のジャイアントホークに騎乗する飛兵)

 ペガサスナイト(第三段階の天馬ペガサスに騎乗する飛兵。天馬飛兵とも言う)

 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)


(竜名)

 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)


(その他)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

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