【085 ドクサ地方攻略(二十一) ~竜飛兵攻略談義~】
【085 ドクサ地方攻略(二十一) ~竜飛兵攻略談義~】
〔本編〕
四日遡る一〇月三一日。第三の砦に、ミケルクスド國の一万八千の砦奪還軍が到着する前日にあたる夜半の一幕。
クーロと、彼の家臣であると同時に弓の師でもあるパインロの二人で、あることについての対策を練っていた。
それは、明日一一月一日には、強襲してくるであろう敵の飛兵への対策についてであった。
「パインロ先生!」
クーロが師のパインロに語りかける。
「敵には、十を数える竜飛兵がおります! その兵を倒すにはいかがすればよろしいでしょうか?!」
「クーロ殿! その質問に答えるのは非常に難しい!」
パインロがそう答える。
「そうですか、それでは……」
クーロが少し質問を変える。
「パインロ先生であれば、どのように攻略されますか?」
「私ですか……」
パインロが苦笑交じりに答える。
「いくつかございますが、それでも確実に倒せるといった手は一つとしてございません!」
パインロはそう前置きをして続ける。
「先ず、前提として飛竜は、竜の一種である以上、人の有する金属で最も固い金を上回る固さの皮膚を持っているということです。そのため、人の持つ武器では、竜を傷つけることは出来ません。それは矢も例外ではありません!」
「それでは私たち弓兵では、竜飛兵が砦へ降下するのを防ぐ術はないと……」
「ただ私であれば、いくつか可能な手段がございます!」
「……それは?」
「竜の身体全体に覆われた皮膚は、確かに人の武器では傷つけることができませんが、その中で二か所ほどその皮膚に覆われていない部分がございます。一つが目、そしてもう一つが口の中です!」
「成程! どちらも狙いを定めるのが非常に難しい箇所。特に高速で滑空するワイヴァーンのそれらを狙うというのは……」
「そうです! その上、目にしても口の中にしても、弓兵が下から上空のワイヴァーンのそれらの部分を狙うのは、実質的に不可能! それが出来るのは、ワイヴァーンが自分に向かってきている時ぐらいです」
「つまり外した瞬間、こちらがワイヴァーンの顎か、ワイヴァーンナイトの槍の餌食になっているということですね。特に口を開けて、こちらに向かってくるということは、次の瞬間、竜の口から炎が吐き出されるということ! たとえ矢を口の中に射ることが出来たとしてもその次の瞬間、その者も竜の炎で火だるまになるということですね」
「まあ、そうなりますね!」
パインロは笑いながら、大きく頷いた。
「しかし、パインロ先生にはそれが可能と……」
「はい! 私の力量と技量があれば可能でありましょう。それでも絶対ではありません!」
絶対でないとはいえ、ワイヴァーンを射止められると言えるパインロ。
そしてそれが決して大口でないことに、クーロは、パインロに対する尊敬の意をさらに強めた。
「そして、実は目と口の中以外にワイヴァーンの身体を射抜ける箇所がもう一か所ございます。不確定要素ではありますが……」
「パインロ先生! そのような箇所があるのですか?」
「『逆鱗』という言葉はご存じですか?」
「はい! 言葉だけは……」
「竜の皮膚は固く、さらに鱗のように重なり合っているため、強度がさらに増しており、また鱗のように皮膚が個々に分かれているため、頑丈な皮膚に覆われていながら、竜は素早くかつ複雑な動きが可能です。まさに、神々を除けば、この世で最強の生物と謂えます」
「はい!」
「しかしそのような竜の鱗のような皮膚のある一部分だけが、他の皮膚と違って逆に重なっております。それを我々は逆さまの鱗――逆鱗と呼んでおります!」
「……」
「その逆さまの鱗である皮膚は、普段は竜の身体を他の皮膚と同じように覆っておりますが、竜の動きによっては、逆さまについているため、そこの部分だけ逆に動き、逆さまの鱗部分と普通の鱗部分の皮膚の間に、若干ではありますが隙間ができます。若干でまた一瞬ではありますが、そこだけ竜の内皮が外にむき出しになります。そして竜の内皮は、普通の動物の皮膚と同じ硬さしかありませんので、我々の武器も通じるでありましょう。何故、竜の身体がそのような作りになっているかは定かではありませんが、もしかしたら神々が竜を作りし時に、我々人間にも竜に勝ちうる一縷の機会をお与えになったのかもしれません。これは私の勝手な解釈ではありますが……」
「成程! そこを狙えば確実に竜を倒せると……」
「……ただ」
パインロが話を続ける。
「その逆鱗がある箇所を、まだ人ははっきりと確定できておりません。それが竜の喉元であったり、後ろの首筋であったり、あるいは心臓部であったり、または頭部であったりとはっきりしないのです」
「……!」
「……さらにそれが竜の種類によって違うのか? 個体ごとによるものなのか? はては竜一体に逆鱗の箇所が一か所なのか? 複数あるのか? 竜によっては逆鱗が一つもない竜も存在するのか? これらのことがまだ現段階では一切不明なのであります。その上……」
「その上?!」
「逆鱗と普通の皮膚の区別が、人の目では判別できません! ……なので、それが開くことによって、竜の内皮がむき出しになっている現象を見た者も、おそらくは数えるほどではないでしょうか? 少なくとも、私は竜の内皮がむき出しになっている現象をまだ見てはいません。おそらくは、その現象を見た者は、竜と遭遇したわけでありますから、大半の者はその場で命を落としているのではと思われます」
「……なので、飛竜を直接攻撃するのではなく、ワイヴァーンに騎乗している兵を、矢で狙いましょう」
パインロが結論づけるように、最後にそう締めくくった。
このあたりの発想は、ツヴァンソ達が、竜騎兵と戦った時と同じ発想といえる。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(竜名)
ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)
(その他)
ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金とは別物と考えてよい)




