【084 ドクサ地方攻略(二十) ~脅威の竜飛兵~】
【084 ドクサ地方攻略(二十) ~脅威の竜飛兵~】
〔本編〕
「いずれにせよ……」
アッティモ将軍の末妹で、アッティモ軍の頭脳であるミラーが話を続ける。
「これで敵地上軍が、私たちを倒し、敵地上軍単独で第三の砦を落とすという可能性は一切なくなりました! ……しかし」
ミラーがさらに話を続ける。
「それでも敵は私たちの倍以上の兵を有しているため、私たちも敵地上軍をここから完全撤退させることはかないません。したがって私たちアッティモ軍は、ここでの長期戦へと移行いたします。これは私たちの望む戦況ではあるので、この場に限って言えば良き状況になったといえます」
「『この場に限って』とは……」
ミラーの姉のリヤーフが尋ねる。
「姉上もご存じの通り、今、第三の砦は、私たちアッティモ軍と敵地上軍の戦い、フセグダー様の軍と敵水軍との海岸沿いでの戦い、そして、フセグダー様の一部隊並びにツヴァンソ殿の兄上にあたるクーロ殿の部隊と、敵飛兵部隊の砦上空の戦いの三つが同時展開されております」
ミラーの話が続く。
「フセグダー様の軍と敵水軍との海岸沿いの戦いも、もうしばらくすれば、おそらく膠着状態となりましょう。したがって、第三の砦防衛の鍵を握るのが……」
「敵飛兵による砦の上空からの降下戦!」
「はい! 兄上のおっしゃる通り! 飛兵部隊は数こそ援軍の中で最も少ない三千でありますが、飛兵三千は、むしろ地上兵一万より脅威かもしれません。なぜならその三千の中に竜飛兵が十体含まれていると聞き及んでおります。私たちの軍やフセグダー様の軍がいくら敵を撃退しても、砦の上空からの降下戦で味方が敗れれば、第三の砦の防衛戦はその時点で失敗であります。砦を直接奪われれば、私たちには倍以上いる敵地上軍の砦への進軍を押しとどめる術はありませんし、それどころか私たちアッティモ軍が、砦を占拠した敵飛兵軍の襲来によって敵地上軍との挟撃にさらされます。それは、敵水軍と戦っていらっしゃるフセグダー様の軍も同様に敵飛兵軍との挟撃状況に陥ることでありましょう。ところで……」
ここでミラーがツヴァンソに尋ねる。
「ツヴァンソ殿! 今回の第三の砦の防衛戦で最も重要な鍵を握る、対敵飛兵による防衛戦でありますが、その砦内にフセグダー様の軍から五百の兵とツヴァンソ殿の兄上にあたられますクーロ殿の中隊が配備されました。クーロ殿の中隊は、いかほどの力をお持ちでありますか? 失礼を承知でお尋ねいたします! 忌憚のないご意見を……」
ツヴァンソは、ミラーのこの質問に笑顔で即答する。
「地上での接近戦であれば、私の中隊の方に分がありますが、それ以外であれば兄クーロの中隊の方が格段に優れております。総合的評価でいえば、私の中隊より兄の中隊の方が倍は安定感があり、全面的に信頼していただいて何ら問題はございません!」
今日、竜騎兵を破ったばかりのツヴァンソのこの一言は、ミラーを始めとするアッティモ軍全体に大いなる安堵感を与えたのは言うまでもなかった。
「グハッ!」
第三の砦防衛指揮官カランパノ大隊長の胸元に、一本の槍が突き刺さる。
高度百メートルの高さからの急降下によるその槍の一撃は、カランパノ大隊長の鎧ごと彼の分厚い胸板を一息に刺し貫いた。
カランパノは吐血し、その場に崩れ去る。
「大隊長!!」
「カランパノ様!!」
砦の上で戦っていたジュリス兵が、口々にカランパノ大隊長に声をかける。
「皆! 狼狽えるな!! 私は倒れるが、後は聖王国のクーロ殿を頼りとせよ! 私の指揮権を、クーロ殿に全て引き渡す! グハッ!」
そこまで一気に叫んだカランパノ大隊長は、最後に大量の血を吐き、そのまま絶命した。
「クーロ殿! カランパノ様のご遺志を引き継いで下さい!」
カランパノに長年仕えた部下の言葉である。
「分かった!」
クーロもカランパノの心情はよく理解していたので、カランパノの最後の申し出に即座に応じた。
砦上空戦三日目のことである。
カランパノ大隊長を槍で串刺しにした兵は、敵飛兵部隊に加わっていたミケルクスド國國王直属竜飛兵十体のうちの一体であった。
砦上空降下戦において初日、二日目と全く攻撃に参加していなかったワイヴァーンナイト達であったが、自分たちの十分の一程度の数のジュリス、ソルトルムンクの連合部隊を前に、一体として飛兵が降下からの拠点確保すらできず、次々と敗れていく不甲斐なさに、ついに三日目戦いに参戦し、結果一撃目の攻撃で敵司令官カランパノ大隊長を槍で串刺しにしたのであった。
三日目から参戦したワイヴァーンナイトの降下攻撃は、それまで辛うじて敵の降下を凌いでいたジュリス王国、ソルトルムンク聖王国の連合部隊を、一気に危機的状況に追い詰める形となった。
飛兵にとって、弓兵の飛び道具である矢の攻撃は鬼門中の鬼門である。
接近戦であれば、上空からの攻撃という高さの優位性を誇る飛兵も、接近する前に一方的に攻撃される矢による遠距離攻撃は、防ぐのが非常に困難であった。
なまじ上空という高低差で優位な位置にある飛兵にとって、高速で飛んでくる矢を回避することについては、実は空中が遮蔽物もなく小回りが利かない分、一番難易度が高いといえる。
地上部隊であれば、大地を蹴り方向を急速転換出来るし、また大地に足を踏みしめて盾で矢を受けるといった対処も出来るし、遮蔽物があればその陰に隠れられる。
また水兵であれば、水中に逃げ込むことによって、射られた矢が水圧の影響で一気にその速度と殺傷能力を激減するので簡単に回避できるが、こと飛兵に限っては、そういった防御や回避をするのに、空中では踏ん張りが利かないことから、それがままならない。
結果、高速で飛んでくる矢から逃れるのは、非常に困難であった。
しかし、同じ飛兵であっても竜飛兵は例外である。
飛竜は竜の一種であるため、人が持つ最硬度の金属である金を上回る硬度の皮膚を持っているからである。
そのため、一般の弓兵の力で射る矢では、貫くどころか一ミリとしてワイヴァーンの皮膚に突き刺さらないのである。
竜飛兵が三日目の戦いに参戦してわずか数分、カランパノ大隊長はワイヴァーンナイトの攻撃を受け、命を散らしたのであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
カランパノ(フセグダー将軍の部下。大隊長)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
ミラー(アッティモの妹)
リヤーフ(アッティモの妹)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(竜名)
ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)
(その他)
ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金とは別物と考えてよい)
大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)




