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【082 ドクサ地方攻略(十八) ~竜に挑む者~】


【082 ドクサ地方攻略(十八) ~竜に挑む者~】



〔本編〕

 ツヴァンソが周りを見渡すと、中隊の面々も極度の緊張を隠し切れない様子であった。

 一騎当千の強兵つわもの揃いのツヴァンソ中隊の面々がである。

 ツヴァンソが、自分の目前でジュリス兵に襲い掛かっているドラゴンナイトに改めて目を移す。

 漆黒の鎧に全身を覆い、二メートルの長さの槍を振り回している兵。その兵が騎乗しているのが全長三メートルを超える竜。竜としては小さい部類なので、小型竜又はドラゴネットと呼ばれている。

褐色の肌の色をした竜の皮膚は固く、人々が有している金属の中で最も固いと謂われるゴールドの武器であっても、その皮膚に傷をつけることが出来ない。

 その上、ドラゴネットは非常に気性が荒い。

 目の前で繰り広げられるジュリスの騎兵との戦いでも、ジュリスの精悍なホースですら小型竜に怯え、敵竜騎兵ドラゴンナイトに対し、いつもの機動力や疾走を利用した突撃などが全く発揮できない状態であった。

 そのようなジュリスの騎兵に対し、ドラゴネットが襲い掛かり、一方的に屠っている。

 竜のあぎとが、ホースの首を噛み砕き、竜の前脚の鋭い爪が、ジュリス兵の胸板の鎧ごと、胸をえぐる。

 同じ騎兵でも、騎乗している兵を運ぶことを主目的としてホースと違って、小型竜ドラゴネットは、それ単体で十分戦力になり得る存在であった。

 ツヴァンソも初めて見た竜に、緊張が一気に高まるのを覚えた。……が、それと同時に高揚感も上昇する。

 そこが、ツヴァンソと一般の兵との大きな違いなのであろう。



「竜騎兵は強敵ではあるが、私たちであれば倒せる!」

 ツヴァンソは中隊の面々に、大声でそう言い放った。

「しかし、私たちとて単独で竜騎兵ドラゴンナイトに立ち向かうのは、無謀だ!」

 ツヴァンソが話を続ける。

「私が正面で、小型竜ドラゴネットの相手をする!!」

「ツヴァンソ様! それは危険です!!」

 中隊の一人ホッホが慌てて述べる。

「むろん、倒そうとは思っていない! あくまでも、ドラゴネットの足を止めるためだ! その間に……」

「……その間に?」

「ホッホとエーベネ! 二人掛かりで左右からドラゴネットに騎乗している兵を狙え! 私の見るところ、騎乗している兵はそれほど強くない!」

「しかし……」

「他の者は、ドラゴンナイトより前にいる敵を排除するよう……。テイルクー! 私を信じろ!! いくぞ!!」

 そう言うと、ツヴァンソは愛馬の首に腕を絡ませ、強く抱きしめる。

 ツヴァンソに抱きしめられたホーステイルクーは、今まで怯えていたのが不思議なぐらい一瞬で震えが止まり、テイルクーの瞳は、彼女本来の精悍な目の色に戻った。

「いくぞ!!」

 ツヴァンソの二度目のこの“いくぞ!!”言葉で、ツヴァンソとテイルクーは一体となって駆け出す。

 ツヴァンソ中隊の面々も彼女たちに遅れまじと、一斉に駆け出した。

「……これが、我らが弱兵と侮っていた聖王国の兵とは……。隊長の気迫でこうも変化するのか!」

 アッティモ将軍の上の妹リヤーフは、驚愕感心半々の気持ちであったが、彼女もすぐさま自らの隊に命を下し、ツヴァンソ中隊を守るためツヴァンソ達の後に追随した。


 ミケルクスドの竜騎兵ドラゴンナイトに向かって、一騎の騎兵が真っすぐ駆けてくる。

 駆けてくる騎兵と竜騎兵の間を阻む位置にいるミケルクスドの兵は、駆けている騎兵の背後の騎兵たちが、その都度前に出て、次々と倒していく。

 やがて、竜騎兵とその騎兵の間を阻む兵は全くいなくなった。

 小型竜に騎乗しているミケルクスド兵からすれば、にわかには信じられない光景であった。

 竜騎兵のその兵からすれば、真正面から自分に向かってくる敵の存在は、おそらく初めてであろう。

 しかし、驚きはしたがそれだけであった。竜騎兵も、その向かってくる騎兵に対して真正面から挑む。

 ドラゴネットが吠える。まるで百のヴォルフが一斉に吠えたような大音声であった。

 それでも、そのホースのテイルクーも、騎乗している兵のツヴァンソも、その吠え声に全くじることなく、馬脚もさらに加速する。

 ドラゴネットが大きなあぎとをひらき、向かってくるテイルクーの首筋に食らいつこうとした。

 テイルクーはそれを巧みにかわし、小型竜の顎から間一髪逃れる。小型竜の顎はなにもない虚空こくうを噛む。

 その小型竜の鼻先に、ツヴァンソによる長剣の一撃が叩き込まれた。

「カァァ~ン!」

 鋭い金属音が辺りに響き渡る。

「固っ!!」

 ツヴァンソの剣が小型竜の鼻先に当たった時、思わず彼女の口から漏れた言葉がそれであった。

 長剣を握っていた右手が痺れる。

ゴールドの刃が欠けた!!」

 それでも、ツヴァンソは痺れた右手に左手を添え、もう一回思いっきり、長剣を小型竜の鼻先に振り下ろす。

「ガキッ!」

 小型竜の鼻先に、長剣の刃が一センチメートル程食い込む。

 ツヴァンソの人並外れた膂力りょりょくが、固い小型竜の鼻先に一センチメートルとはいえ剣を食い込ませたのであった。

 小型竜は、鼻先を切り付けられたこともさりながら、二度のツヴァンソの鼻先への攻撃による衝撃が、小型竜の頭蓋に響き、軽い脳震盪を引き起こした。

 小型竜は大暴れし、目の前のツヴァンソに顎と前足の爪で襲い掛かる。

 ツヴァンソは、小型竜のあぎとと爪の激しい攻撃を巧みに躱しながら、さらなる一撃を、今度は小型竜の首筋に叩き込む。

「パキーン!!」

 小型竜の首は、ツヴァンソの馬鹿力の一撃で右に揺らぐが、ツヴァンソの長剣の方は、竜の固い皮膚とツヴァンソの膂力による衝撃に耐えきれず、三撃で砕け散ったのであった。

 ツヴァンソは、それに一瞬の躊躇ちゅうちょもなく、次の瞬間、腰にいている別の剣を抜き放ち、その剣で続いて小型竜の右前脚の甲の部分を切り付ける。

 ツヴァンソをよく見ると、腰に二本ずつと背中にさらに二本の計六本の剣を装備していた。

 ツヴァンソは竜騎兵に突進する前に、自身の一本の予備の剣とは別に、部下から五本の剣をあらかじめ借りていたのであった。

 二本目の剣は、四撃目の小型竜の右脚の甲に続き、五撃目にあたる三度みたび目の小型竜の鼻先への一撃で砕け散る。

 ツヴァンソは、この剣にもなんの未練も持たず、三本目にあたる剣を腰から抜き放つ。

 ツヴァンソの騎乗しているホーステイルクーも、最初のドラゴネットの顎の一撃を躱した後、彼女の頭をドラゴネットの腹部に密着させ、ドラゴネットとの近接距離を保ち続けた。

 テイルクーの首にかかる負担はかなりのものではあるが、それでもドラゴネットに密着している以上、ドラゴネットも頭を下げられず、顎や爪でテイルクーに攻撃をすることが出来ない。

竜騎兵ドラゴンナイトの足が止められた!! そんな馬鹿な!!」

 敵味方の全ての兵がその光景に、驚愕の表情で顔が固まった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 エーベネ(ツヴァンソ隊の一員。ホッホの弟)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)

 ホッホ(ツヴァンソ隊の一員。エーベネの兄)

 リヤーフ(アッティモの妹)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)


(兵種名)

 ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)


(竜名)

 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)


(その他)

 ヴォルフ(この時代の獣の一種。現在の狼に近い種)

 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在のゴールドとは別物と考えてよい)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

 テイルクー(ツヴァンソの愛馬)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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