【081 ドクサ地方攻略(十七) ~三兄妹~】
【081 ドクサ地方攻略(十七) ~三兄妹~】
〔本編〕
「ミラーがそんなに褒めるのは珍しいな。ツヴァンソはお前並みの戦略眼を持つということになるのか?」
「いや、姉上! 私が彼女を一見した限りでは、そういった才能は見受けられませんでした。おそらくその場その場で、自分が今一番なすべきことが瞬時に分かるのだと思われます。おそらくは直感の類の才能だと思われますが……」
「成程! それなら安心できる。もし、お前レベルの戦略眼を持っているのであるなら、この戦場でどさくさに紛れて除こうかと本気で考えてしまった!」
「姉上! 冗談にしても物騒過ぎます。それで仮に姉上が返り討ちにあったら、両国の関係に決定的な亀裂が入るばかりか、アッティモ兄さんはリヤーフ姉さんという、兄さんを守る最も優秀な盾を失うことになります。姉上! ご自重の程を……」
末妹のミラーは、こちらも冗談にしては物騒極まりないことを、姉に向かって呟いていた。
ジュリス王国一の猛将アッティモ将軍には、二人の妹がいる。
上の妹がリヤーフ、下の妹がミラーといい、アッティモ将軍自身が現在三十六歳の男盛りで、精悍な顔つきの美男子であるが、二人の妹もジュリス王国で五指に入るほどの美人姉妹であった。
リヤーフが身長百七十五センチメートルのすらっとした美丈夫であるのに対し、ミラーは身長百五十五センチメートルの小柄な美人軍師であった。
アッティモ将軍がアッティモ軍の右腕(攻め)、リヤーフがアッティモ軍の左腕(守り)、そしてミラーがアッティモ軍の頭脳(戦略)と謂われており、三人の兄妹によって、ジュリス最強のアッティモ軍を形成していた。
今、アッティモ軍の八つの休息所の一つに、軍本部が設けられ、そこにミラーを中心とする参謀集団がおり、そこからアッティモ軍全ての隊に指令が飛んでいた。
そして、そのミラー達参謀集団を守るように、姉のリヤーフの隊によって防御陣形が形づくられているのであった。
「いずれにせよ、ツヴァンソ殿の直感力に加え、ツヴァンソ中隊の個々人の戦闘能力は目を見張るものがあります。まだ、集団戦法は未熟ではありますが、個々の力がそれを補って余りあるので、これに集としての力が練られれば、益々脅威な存在となりましょう。とりあえず将来はともかくとして、今、味方としてその存在を知り得たことは、僥倖といえましょう。……なのでここは、ツヴァンソ中隊に竜騎兵への対処を要請しようかと思っております! 姉上、よろしいでしょうか?」
「ミラー! お前がそう思うのであれば、それで間違いない!」
リヤーフにも異論はなかった。
「しかし、竜騎兵を倒すのであれば、兄上に任せる方が確実ではないのか?」
ミラーの提案に異論はないものの、リヤーフとしても一つだけ気になった点について、ミラーに尋ねた。
「姉上のおっしゃる通りです!」
ミラーも、リヤーフの疑問には素直にそう答えた。
「しかし万が一にもアッティモ兄さんが、ドラゴンナイトに敗れることにでもなったら、アッティモ軍は精神的な支柱を失ってしまいます!」
「ドラゴンナイトとは、それほどの強敵なのか?」
リヤーフが驚いて尋ねる。
「兄がドラゴンナイトに敗れるとは、私も思ってはおりません! それでも万が一といったように、兄が敗れるまではなくても、ドラゴンナイトとの戦いで兄が負傷するやもしれません。ドラゴンナイトとは、それほどの敵であり、アッティモ将軍の負傷は、それだけでアッティモ軍への士気に関わります。……であれば、他國の者をぶつけるほうが、私たちにとってもリクスがない! それにツヴァンソとその中隊は、ドラゴンナイトを相手に出来るほどの実力を既に持っていると私は思っております。ただ、ここは戦場のど真ん中、ツヴァンソ中隊がドラゴンナイトの相手をしている間に、他の敵の横槍が入る可能性もあります! それだけはなんとしても避けたいところ……。……なので姉上! 姉上の隊が、ツヴァンソ中隊がドラゴンナイトとの戦いに専念できるよう、ツヴァンソ中隊の周りの他の敵兵を相手していただけますでしょうか?」
「……それは構わぬが、ここの守りはどうする?」
「姉上の兵を十騎も置いていっていただければ、大丈夫であります。それでは姉上! ツヴァンソ殿への伝令も兼ね、よろしくお願いいたします!」
「……以上が、妹であるミラーからの要請だ! ツヴァンソ殿いかがかな?」
「謹んでお受けいたします!」
「ほう。即答とは……。ミラーが期待するだけのことはあるな!」
アッティモ軍軍師ミラーからの竜騎兵打倒要請を、直接ツヴァンソに伝えにきたミラーの姉リヤーフは、感心したように頷く。
「それでは、私たちと共に、ここから西に移動してもらう。竜騎兵の居場所についての詳細は、妹の伝令がその都度伝える。ツヴァンソ中隊に対し、ドラゴンナイト以外の敵兵が攻撃することに関しては、私と私の隊が全て引き受ける! ……なので、ツヴァンソ殿とその中隊は、ドラゴンナイト打倒に専念してもらえばよい!」
ツヴァンソ中隊とリヤーフの騎兵隊が西に移動を始めた。
百メートル西に移動した辺りで、ミラーからの伝令兵が近づき、ドラゴンナイト一騎が暴れている具体的な場所まで案内する。
「あれが、竜騎兵!!」
ツヴァンソが呟く。ツヴァンソは、竜を実際に見るのは初めてであった。
「ん?!」
ツヴァンソが腰に揺れを感じ、彼女の騎乗している馬に目を向ける。
「テイルクー! お前まさか、震えているのか?!」
テイルクーは、ツヴァンソが小隊長に昇進した際に、父マデギリークから贈られた馬の名前である。
全身黒毛のホースであり、マデギリーク将軍御用達として育てられた馬の一頭で、戦のために生まれてきたような精悍な牝馬であった。
ジュリス王国の最高峰の馬ほどではないが、少なくともジュリス王国の一般兵が騎乗するホースと大差ないほど心身ともに強靭なホースであった。
そのホースが、初めて味わう恐怖から、馬体をガクガクと震えさせていたのであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
ミラー(アッティモの妹)
リヤーフ(アッティモの妹)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
(その他)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
テイルクー(ツヴァンソの愛馬)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




