表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/281

【080 ドクサ地方攻略(十六) ~ジュリス最強の軍~】


【080 ドクサ地方攻略(十六) ~ジュリス最強の軍~】



〔本編〕

 アッティモ軍の攻撃をすり抜けて、第三トゥリトスの砦までたどり着いた騎兵に関しては、フセグダー軍の防衛網で十分に対処することができた。

 それでも、兵の総数でいえばジュリス、ソルトルムンク連合軍の数が八千百人に対して、ミケルクスドの軍は一万八千人、倍以上の数である。

 実際、ミケルクスド國が組織的に攻め寄せてくれば、かなり厳しい戦いにはなる。

 とりあえず、第三トゥリトスの砦のジュリス、聖王国の防衛軍は、個々の戦果の積み重ねで敵の兵数を削ること、そして時間を稼ぎ、友軍が残り四つの砦を陥落させるのを待つしかなかった。

 友軍の動きや戦果、そしてミケルクスド國王都での次なる動きなどの情報は一切入ってこない状況なので、とにかく、必ずこの困難から切り抜けられるという不断の決意の元、砦の防衛軍は各々の戦場で、自分たちの使命を全力で果たすべく、獅子奮迅ししふんじんの働きをひたすら継続し続けるだけであった。



 さて、ジュリス王国一の猛将であり、切り込み隊長的な性格のアッティモ将軍であるが、『生きる武神』の異名を持つフセグダー将軍に次いで、ジュリス王国第二位の将軍と謂われているだけあって、単純な猪突猛進タイプの将軍ではない。

 四千の軍で、一万のミケルクスド地上軍に強襲は仕掛けたが、その強襲の勢いのみで、一万の敵軍全てを駆逐出来るなどという単純な発想の持ち主ではなかった。

 一度は四千全軍で敵に攻め入ったが、その五分後には、最初から取り決められていたであろう指示に従い、一部の兵を除き、全ての方角にほとんどの兵は離脱した。

 むろん完全な離脱ではなく、敵兵から五百メートルほどそれぞれの方向に離脱し、その地点で待機する。その待機は、一時的な休息を意味していた。

 二キロメートルの距離を最速で駆け、敵軍に強襲を仕掛けたのである。アッティモ軍の兵が精鋭とはいえ人である以上、必ず疲弊する。そして、それはホースも同様であった。

 アッティモ将軍の率いる軍は、ジュリス王国で最強の軍であるため、二キロメートルを駆けた後、三十分ぐらいは連続で戦うぐらいの体力は、皆一様に持っている。

 それでも全軍で三十分戦えば、その後、アッティモ軍の戦闘能力は十分の一程度にまで激減してしまうであろう。

 三十分で、一万の敵地上兵を全て駆逐できれば何ら問題はないが、それは博打ばくち以外の何物でもない。

 そして意外かもしれないが、アッティモ将軍はそのような博打的な戦法は、本人はむろんのこと部下にも一度たりともさせたことがない。

 先に結論を述べた形になったが、強襲した四千の軍は攻め込んで五分後に、五分の一にあたる八百の兵を除き、残りは各方向に離脱し、そこで休息に入った。

 野戦ではあるが、長期戦を視野に入れた戦法である。


 ツヴァンソ中隊も、アッティモ軍の一部である以上、その戦法に沿って戦う。

 アッティモ軍は、一万のミケルクスド軍の八方に八つの休息拠点を暫定的に設け、兵達はそれぞれの上官の指示に従い、その八つの休息拠点を利用して休息をとりつつ、その後のアッティモ将軍参謀からの指令に従い、順次攻めに転じていた。

 ツヴァンソ中隊は独立遊軍なので、ツヴァンソ自らが攻める箇所や敵部隊などを決めているが、それでもアッティモ軍の伝達兵を通じ、全体の戦況や、攻撃箇所並びに攻撃部隊の要請などの情報は常に届く。

 あくまでも『要請』であって『命令』でないのが、ツヴァンソ中隊の独立遊軍としての立場を尊重しているからであった。

 さらに、攻め入った後の休憩拠点の受け入れ体制などの調整も、アッティモ将軍から遣わされた伝達兵が都度行った。

「アッティモ軍の統制はなかなかのものだ! 成程! ジュリス王国一の強さを誇る軍勢は、伝令や待機といった細部まで組織的に成り立っているというわけか!」

 ツヴァンソの付き人ムロイが感心する。

 既にアッティモ軍が強襲して三日目の午後四時、ツヴァンソ中隊はこの日だけで八回出撃し、今が八回目の休息時であった。

「特に野戦慣れをしている軍のようで、四千の軍勢で、倍以上の一万の敵兵をここに足止めにさせている。城や砦といった拠点がないこのだだっ広い平原で、敵を足止めしつつ、かつ敵を一方的に削り続ける戦いを長時間継続させられるなどは、並みの指揮官や軍では出来ない芸当だ!」

「ツヴァンソ様も、ここでそれを学び、是非とも今後の戦いにお役立てるよう……」

「ムロイのいう通りだ! 手伝いいくさでありながら、良い経験をさせてもらっている。アッティモ軍からの次なる要請は届いているか?」

「はい! 先ほど!」

 アッティモ軍からの伝令兵の要請を、ムロイがツヴァンソに告げる。

「うん、分かった! 要請内容も、私たち中隊の力量と地点を考慮して、常に的確だ! よし、今日最後の戦闘になるだろう。五分後に出撃できるように皆に伝えてくれ!」


「ミラー様! 聖王国のツヴァンソ中隊が、ミラー様の要請した敵ではなく、その手前の騎兵に攻撃を仕掛けました! 同盟国という別國の部隊とはいえ、ミラー様の命令に従わないこと度々ありますが、そのことをツヴァンソ殿に一言強く申し上げた方が……」

「何ら問題はない!」

 ミラーと呼ばれた小柄な女性参謀が口を開く。

「最初にフセグダー様や、兄上から申し渡されているとおり、聖王国のツヴァンソ中隊は完全なる独立遊軍だ! 私は彼女の隊に、攻撃要請しているのであって攻撃命令を出しているわけではない! 私の攻撃要請と違う標的を攻撃しても、それについて何ら咎める筋合いではない!」

「……しかしながら、ミラー様の芸術的ともいえる出撃要請をたがえるとは、我が軍内にあっては考えられないこと、それをツヴァンソ中隊がしているのが、私には信じられません!」

「いや! 彼女は私の要請の八割方を忠実に遂行している。独立遊軍としては役目を十二分に全うしている。……ちなみに今、私の要請と違う目標を攻撃したといったが、どの敵部隊を彼女は攻撃した?!」

「はい! 三一の九七から三三の八五に移動した敵騎兵百に攻撃を仕掛けました!」

 参謀の一人が暗号めいた数字で答える。

 アッティモ軍は、敵の位置を五メートル間隔で碁盤のように分け、その位置を数字に置き換えて伝えているのであった。

 その答えに、ミラーは満足そうにつぶやく。

「成程! 私がツヴァンソ中隊に要請を出した際には、動きのなかった騎兵隊だ! その騎兵隊が三三の八五に移動したのであれば、今の私なら、その敵を攻撃するようツヴァンソ中隊に要請を出していたであろう。むしろ、私の出した要請より、今の私の意向に沿った敵を攻撃したというわけだ、ツヴァンソ中隊は……」




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 ムロイ(ツヴァンソの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)


(その他)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ