【078 ドクサ地方攻略(十四) ~愚かなる王(後)~】
【078 ドクサ地方攻略(十四) ~愚かなる王(後)~】
〔本編〕
「分かりました! 陛下! それではさらなる増援を……」
「何を言っている! 既に二万近くの兵を派遣しておきながら、さらなる増援だと! そんなことをすれば、ここ王都の守りが手薄になるではないか!! 既に派遣した兵で、この事態を対処せよ!」
「……しかし、陛下! どのようにして……?」
「馬鹿者共! それを考えるのがお前たちの役目であろう! 今回の件でドクサ地方を奪われたら、お前ら全員、死を免れぬものと知れ!!」
それだけ言うと、ツァイトオラクル王は玉座から立ち上がり、自室へと引きあげていった。
「ぐっ! このような事態でありながら、早々に自室に引きあげられるとは……。それも援軍の増援もお許しになられない状態で……。セミケルン宰相殿! いかがなさいますか?」
重臣の一人が困り果てた挙句、王がいなくなったことにより、この場で最も位が高い宰相セミケルンに訴えかけた。
宰相はミケルクスド國における文官のナンバーワンにあたり、今の日本国における総理大臣のような役職と考えればよいであろう。
「皆様方のご心労お察しいたします!」
セミケルン宰相は、ここにいる重臣たちに深々と頭を下げる。
「いやいや、宰相殿に全く非はございません! むしろ、セミケルン殿が宰相であったればこそ、今我が國はこの程度で済んでいるのです。現王に任せては、今頃、我が國は……」
「滅多なことはおっしゃいますな! どこに阿る小人の耳があるとも限りませんので……」
セミケルンは、あえて誰に阿るかについての明言は避けたが、ここにいる者で、それが誰であるか分からない者は一人もいなかった。
ミケルクスド國第七代国王ツァイトオラクル。
初代から数えて、六代賢王が幸運にも続いたミケルクスド國において、最初の愚王であった。
特に先代、先々代に名君が続いたミケルクスド國の第七代国王に就任したツァイトオラクル王であったが、彼は凡庸以下で、さらに本人に全くその自覚がないどころか、むしろ今までで最も優れた王であると思い込んでいる有様であった。
「今回の援軍で唯一の将軍がウーア将軍か! しかし、彼は水軍の将であるから、全体の指揮官とは言い難いな!」
「宰相殿のおっしゃる通り、ウーア将軍は水軍の将、将としての実力に申し分はございませんが、地上軍や飛兵部隊からすれば、全く無名の将軍であるため、彼の指揮に地上軍や飛兵部隊が従うとは思えません。実際、ウーア将軍自らも水軍として五千を率いているだけでありますので、全く地上軍や飛兵部隊との連携どころか、連絡すらとっていない有様であります!」
「地上軍や飛兵部隊に将軍クラスの指揮官がいないとはいえ、将軍の次点にあたる位の指揮官などはいないのか?」
「それが宰相殿! 集結させた兵が、王の勅命で集められた者たちでありますので、地上兵で最も位が高いのが小官で、それが三名。飛兵部隊には小官クラスすらおりませぬ! どの隊も勅命に応じ、第三の砦奪回に各々向かい、現地付近で自然に合流したような有様です!」
「竜騎兵や、竜飛兵も援軍に加わっていると王から聞いているが、彼らは指揮官にはなり得ないのか?」
「それは無理でありましょう!」
宰相の質問に、軍務担当の大臣が答える。
「彼らは、王が直接命を下す特殊兵の類。個々の戦闘能力は、他兵の三十から五十人に匹敵するだけの実力を持っておりますが、如何せん兵を率いるといった経験は一度もありません。そして、王直属の兵でありますので、将軍の命にすら従うことはないでしょう。さすがにミケルクスドの三将軍の命であれば、彼らも従うかもしれませんが、それ以外の者に従うことは王の勅命でもない限りあり得ません。今回の彼らの出征も、彼らが実戦において手柄を立て出世したいという彼らの要望を、王が聞き入れただけでありますので、そもそも第三の砦の援軍として向かったという自覚すらあるのかないのか……」
「三将軍について、ツァイトオラクル王陛下は、中央から動かすつもりは毛頭ないので、その説得は難しいとしても、それ以外の将軍であれば現地に派遣できるよう、王に私から進言いたそう。少なくとも地上側全体の指揮官が存在していないのは致命的だ! 大臣! 適任者は……?」
「一番の適任は三将軍の次点にあたるエンテ将軍でありますが、エンテ将軍の能力はともかく、聖王国領のエーレ地方侵略に失敗した直後でありますので、王がそれを許さないでありましょう。そういたしますと、アエラキ将軍かティフォンニー将軍あたりかと……」
「分かった! 援軍の増援は望めないにしても、その両将軍のうち、どちらかを第三の砦攻略の総指揮官として派遣されるよう、王に進言しよう! 総指揮官さえ決まれば、第三の砦攻略は兵の数から達成することが出来、その後、他の砦にも援軍を差し向けることも可能となろう。皆はここで軍議を続けてくれ! 私が今から陛下を説得してこよう!」
そう言うと、セミケルン宰相は、ツァイトオラクル王の自室に向かった。
しかし、セミケルン宰相の必死の説得も虚しく、ツァイトオラクル王は首を縦には振らなかった。
〔参考 用語集〕
(人名)
アエラキ(ミケルクスド國の将軍)
ウーア(ミケルクスド國の将軍。水軍の将軍)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
セミケルン(ミケルクスド國の宰相)
ツァイトオラクル王(ミケルクスド國現王)
ティフォンニー(ミケルクスド國の将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
(その他)
小官(指揮官の位の一つである官の第三位。千人規模を指揮する。大隊長より上位)




