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【077 ドクサ地方攻略(十三) ~愚かなる王(前)~】


【077 ドクサ地方攻略(十三) ~愚かなる王(前)~】



〔本編〕

 ミケルクスド國の援軍一万八千が大挙して、第三トゥリトスの砦に攻めかかった日の翌日にあたる一〇月二日、第三トゥリトスの砦以外の四つの砦に向けて、ソルトルムンク聖王国軍が進軍を開始した。

 第三トゥリトスの砦が、ジュリス軍八千によって陥落させられてから九日目のことであった。

 第一プロトスの砦へ、マデギリーク軍第二副官アバランが指揮する二千。第二ゼフテロスの砦へは、聖王国側の大将ブーリフォン聖王子率いる五千の軍。第四テタントスの砦攻略は、マデギリーク軍第一副官ガストロンジュ率いる二千。そして、五つの砦のうち最難関と謂われている第五ペンプトスの砦を攻めるのは、マデギリーク将軍が直接率いる五千の軍勢であった。

 総勢一万四千の兵を投入し、四つの砦を攻略しようという大戦略構想であった。

 そしてこれがこの作戦の主攻にあたり、ジュリス王国、ソルトルムンク聖王国連合軍によるドクサ地方攻略の最終段階の手であった。

 ミケルクスド國としても、今回の四つの砦攻略に動き出した一万四千の聖王国兵が、先に占拠したドクサ城付近に駐屯していることは、当然偵察隊からの情報で知っている。

 そして、第三トゥリトスの砦を陥落させた八千のジュリス兵以外が全く動かないことに対し、当初は何らかの作戦ではないかと、ミケルクスド國も当然疑惑を強めていた。

 しかしミケルクスド國は、次第に同盟した二國間に何らかのトラブルが生じ、聖王国兵が進軍を拒否しているのではないかと考えるようになっていったのであった。


 ミケルクスド國が少々楽観的であったことは否めないが、そこは長年敵国として戦ってきた國同士の同盟並びに共同作戦であったため、國同士の協調がうまくいかず、下手をすれば戦争の最中であっても、同盟国が戦列を離脱する、さらに最悪は、同盟国がそのまま攻めに転ずるなどの現象が起こったとしても、それほど不思議でない乱世の時代という前提があったからである。

 援軍として駐屯しているソルトルムンク聖王国が八日間、一切軍としての活動を行わないのは、そういう事情ではないかとミケルクスド國側が考えるようになったのも、それほど突飛な発想とは思えない。

 その上、ドクサ城内の、ジュリス王国ワーハグッホ王子と、聖王国ブーリフォン聖王子が何度も何度も軍議を重ね、時にはその席上でお互いに怒号を飛び交わすといった偽の演出も行われたりした。

 マデギリーク将軍も、ワーハグッホ王子に直接、非礼にあたる強硬な意見具申をしてみたり、既に出立したフセグダー将軍に宛てて遺憾の意をしたためた書簡を何通も出したりした。

 ドクサ城内には、ミケルクスドのスパイあるいは、既にミケルクスドに寝返ったジュリスの兵などもいたので、彼らは、これらの迫真の演技にまんまと騙され、本国にジュリス、聖王国両国の関係に決定的な亀裂が入るのは時間の問題であると報告していた。

 そして、マデギリーク将軍がフセグダー将軍に宛てた遺憾の意をしたためた偽書の書簡もいくつか、ミケルクスド國のスパイなどの手を通じて、ミケルクスド國中央政府は入手していた。

 ……入手していたというより、入手させられていたといった方が正解なのであろう……。

 内容は、フセグダー将軍の共同作戦とは違う軍事行動を批判し、さらにはマデギリークの二人の子供を人質同然の扱いにしていることなどがしたためられ、それらをすぐにやめない場合は、こちらはワーハグッホ王子を拘束し、本国である聖王国に連れ帰るなどといった過激な文言までしたためられているほどであった。

 むろん全て嘘であったが、他国との共同作戦は為しがたいという不利な状況を逆手にとり、まんまとミケルクスド國に、聖王国軍はドクサ城から進軍しないであろうと、ついには思わせてしまうところまで至らしめたのであった。

 それならばミケルクスド國としては、ジュリス王国の精鋭八千が投入され陥落させられた第三トゥリトスの砦を再奪取することに、全力が注げば良いといった決断をついに下してしまったのであった。


 いくら仲が悪い指揮官同士の共同作戦であっても、同じ國の指揮官であれば、罵り合いの演技や偽書といった子供だましのような策に、そうそう引っかかるものではなかったが、そこは元々敵対している國同士の同盟並びに共同作戦であるため、両国の上官から末端の兵士に至るまで、大いなる不満の元、王の命令なので渋々従っていると考えるのが一般的な発想である。

 結果、意外なほどあっさり一国家ですら、その手に引っかかってしまい、第三トゥリトスの砦の奪取のみに一万八千になろうとする大軍を、ミケルクスド國は投入したのであった。


 マデギリーク将軍は、その時を待っていたのであった。

 一〇月二日にブーリフォン聖王子並びにマデギリーク将軍率いる四つの軍が、四つの砦にそれぞれ進軍し始めたのを、翌々日の四日に知ったミケルクスド國の王城イーゲル・ファンタムにいる王を始めとする重臣たち一同の驚きは、尋常でなかったであろう。


「どういうことだ! ジュリス王国とソルトルムンク聖王国は、同盟が決裂寸前の緊張状態で、同盟がいつ破棄されてもおかしくない事態ではなかったのか?!」

 ミケルクスド國第七代国王ツァイトオラクル王は、重臣たちをこう怒鳴りつける。

「はっ! 申し訳ございません! 共同作戦の内容の齟齬そごから、両国間の武将のみならず、派遣されてきた王子同士の仲も悪化し、もうドクサ地方攻略における共同作戦は事実上破綻をきたしたというのが、潜ませている諜報兵たちからの共通する報告でありましたので、皆、そうだと信じてしまいました!」

「馬鹿か! お前らは!! 敵の罠と何故、気づけなかった!!」

 ツァイトオラクル王は、さらに重臣たちを怒鳴りつける。

「無理もございません! 第三トゥリトスの砦攻略にジュリス兵のほぼ全軍を送り込み、その後、聖王国兵が一週間以上、全く軍としての動きをしておりませんでしたので……。それに第三トゥリトスの砦とドクサ城を占拠されて、時間が経ち過ぎると、ドクサ地方は元々ジュリス王国の領土であったことから、砦の奪取がますます困難になると判断いたしたもので……」

「うるさい! だからといって、易々やすやすと敵の策に引っかかるとは……!! お前らは無能の集まりか!!」

“いやいや、王が第三トゥリトスの砦陥落の三日後ぐらいから、早く砦奪取に兵を出すよう積極的におっしゃられ、周りで敵の動きを見極めるまでと、とどめていたのが真相であったはずだが……”

 これは、誰も口に出せないまでも、そこにいる者共通の心の叫びであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アバラン(マデギリーク将軍の第二副官)

 ガストロンジュ(マデギリーク将軍の第一副官)

 ツァイトオラクル王(ミケルクスド國現王)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)

 フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ワーハグッホ王子(ジュリス王国の王子)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 ゼフテロス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第二』という意味)

 テタルトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第四』という意味)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ドクサ地方(ミケルクスド國領)

 プロトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第一』という意味)

 ペンプトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第五』という意味)


(その他)

 副官(将軍位の次席)

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