【075 ドクサ地方攻略(十一) ~カランパノ大隊長~】
【075 ドクサ地方攻略(十一) ~カランパノ大隊長~】
〔本編〕
「クーロ殿、ちょっとよろしいか? 二人きりで話がしたい!」
一一月一日の午前七時の早朝、クーロと共に、第三の砦に籠ることになっているカランパノ大隊長が、クーロを自室へ呼び出す。
クーロがカランパノ大隊長の部屋に入ると、彼は他の兵を全て退室させた。
「カランパノ大隊長、何か昨日の軍議の内容に変更でもあるのでしょうか?」
クーロが尋ねる。
「いえ、そうではありません。私事ですが、実は私は龍王暦一八〇年に、ソルトルムンク聖王国がジュリス王国に侵略された土地に住んでおりました。当時、自分は十二歳でしたので、今年三十三になります。元々はソルトルムンク聖王国の民でありました」
カランパノ大隊長は、クーロに対して、こう切り出した。
「そうでしたか! ご苦労が多かったでありましょう。カランパノ様」
「そうですね。当時、自分は第一段階の槍兵『ランスポーン』であり、将来は騎兵になることを目指しておりました。しかし、ジュリス王国は良い馬の産地であると同時に、ジュリス王国の民は、子供のころからホースに乗ることを日常茶飯事にしておりましたので、自分は十四の時に、騎兵の道を諦め弓兵となりました。信じられますか? ジュリスの民は、十歳でランスポーンを選んだ子供たちに、國が無償で一人に一頭仔馬を与え、馬に乗る訓練をその時からしているのです」
カランパノ大隊長は笑いながら、クーロに語った。
「むろん、誤解しないでいただきたいのは、今はジュリスの民であり、それを誇りとしていることです。それに、騎兵が主力のジュリス王国にとって、ミケルクスド國の飛兵は天敵のような存在であるため、それを遠隔攻撃できる弓兵は、それなりに優遇されておりますので……」
「そうでしたか! それでは、共に死力を尽くしましょう!」
「そのことでありますが……」
カランパノ大隊長がより真面目な顔になって、クーロにある提案をした。
「表向きは、大隊長である私がここの全体指揮を執りますが、実質的な指揮はクーロ殿にお任せいたしたいのでありますが……」
「……?」
「ご不審に思う気持ちはよく分かります! しかし、私は元々聖王国の民であることと、弓兵であるという二点からクーロ殿に前々から注目いたしておりました! いえ、厳密に言いますと、パインロ殿のことを注目しておりましたが、そのパインロ殿が、クーロ殿の小隊に入られたと聞き、それからクーロ殿のことも色々調べておりました。むろん、諜報的な意味合いではなく、興味からでございます!」
「にわかには信じ難い話ではありますが……」
クーロはどこまでも慎重であった。
「確かにお疑いになるお気持ちも分かります。マデギリーク将軍のご子息とはいえ、わずか十六歳のクーロ殿に、私が何故注目されているのかと……」
クーロも、カランパノのその言葉に素直に頷く。
「さきほども言いましたが、私は先ずはパインロ殿について注目をしておりましたが、こちらは純粋な興味からではなく、ジュリス王国の王からの指示によってです。クーロ殿もご存知とは思いますが、パインロ殿は元々聖王国の富国強兵策の一つにあたる、弓兵による一部隊を編成するという聖王国の国策に携わっておりました。まだ、この当時は我がジュリス王国とソルトルムンク聖王国は同盟国ではありませんでしたが、実は裏ではいくつかの繋がりを持っていたのであります。その一つとして、パインロ殿が携わっている弓兵強化の国策に、ジュリス王国もそれなりに関与していたのでありました!」
「それは知りませんでした」
クーロは正直にそう白状する。
「さすがにパインロ殿も、それは聖王国における最重要機密事項なので、クーロ殿にもお話していなかったのでありましょう。弓兵強化策に携わっている者であっても國の大臣級や将軍級の上位の数人しか知らない事柄ではありましたので……。とにかく、パインロ殿はジュラーグレース聖王の要請で、何人かのジュリス王国の弓兵を、聖王国の兵ということにして、軍事演習や国策の話し合いの場にも参加させておりました。私も実は末席ではありましたが、そこに参加していたうちの一人であります!」
「そのような事情であれば、パインロ殿も同席させましょう。その方が、話が早いのでは……」
クーロとしては、パインロに面通しをさせることにより、このカランパノ大隊長の話の裏が取れると考えたからであった。
このカランパノ大隊長なる弓兵が、まさかミケルクスド國の回し者とまではさすがに考えてはいなかったが、少なくともこの第三の砦にいる聖王国兵は、ツヴァンソ中隊も含めて百人しかいない。
どのような事柄でも、用心のし過ぎということはないはずである。
「おお! それは良い。すみません! すぐ気が付かずに……」
クーロのこの提案を、クーロの好意からと受け取ったカランパノは、すぐに部下を介してパインロも、この場に呼んだ。
「おお! 懐かしい! カランパノ殿であるな! カランパノ殿がここの指揮官になるとクーロ殿から聞いていたので、もしかしたらあの時のカランパノ殿ではと思っていましたが……」
「パインロ様、お久しぶりでございます。このような形で再会できるとは夢にも思いませんでした」
カランパノとパインロは、お互いに笑いながら、手を握り合った。
クーロの疑惑も、これで氷解した。
「しかしパインロ先生! 何故、聖王国はまだ当時同盟国でなかったジュリス王国と国策の一部とはいえ、繋がりを持ったのでありましょうか?」
カランパノとパインロが少し昔語りで盛り上がった後、クーロがパインロにそう尋ねた。
「おそらく、ジュラーグレース聖王はいずれ、今回のようなジュリス王国との同盟の画を描いていたのであろうと思われます。しかし、どうやらそれを具体的に提案したのは他でもない、今ここで共同戦線の聖王国側の大将となっていらっしゃるブーリフォン聖王子様であるとのこと。その国策が始まったのが龍王暦一九五年なので、その当時ブーリフォン聖王子様は十三歳であるから、その当時から既に他の聖王子様の比して抜きん出たお方であったのであろう。まあ、王位継承権としては第四位にあたるので、いずれは将軍の一人として、正式に戦場を駆け回ることになるお方であるのは間違いない! ブーリフォン聖王子様が王位に就かれないということは、聖王国にとって非常に惜しいことではあるが……」
パインロは残念そうにそう語った。
〔参考 用語集〕
(人名)
カランパノ(フセグダー将軍の部下。大隊長)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)
ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
(兵種名)
第一段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番下のランク。ファーストランクとも言う)
ランスポーン(第一段階の槍兵)
(その他)
小隊(この時代の最も小規模な集団。十人で編成される)
大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)




