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【071 ドクサ地方攻略(七) ~挑発~】


【071 ドクサ地方攻略(七) ~挑発~】



〔本編〕

「……何でも、ジュリス王国偵察兵の話によると、南から来た援軍の中に、第五ペンプトスの砦の指揮官がいるらしいですよ! クーロ兄さん! 二人でその敵、蹴散らしませんか?!」

 第三トゥリトスの砦に到着して、まる一日を過ごした一〇月二七日の夜半、ツヴァンソがクーロの元を訪問し、このような共同戦線の提案を持ち掛けた。

「今、砦から南二キロメートルに駐屯している敵は、第五ペンプトス第四テタントスの砦から来た援軍が合流したもの。兵数が四百五十で、その上、第五ペンプトスの砦の指揮官にあたるヴリオという上位大隊長が援軍としてここに来ている!」

「さすがクーロ兄さん! ジュリス王国偵察兵以上の情報を既に入手していますね!」

「いや! ジュリス王国偵察兵も同じか、これ以上の情報は既に入手しているとみていい。ただ、お前には全て伝えていないだけであろう」

「やはりそうでしたか! 私たちは聖王国の部隊故に侮られているのでありましょう。それを見返すためにも、ここは私と兄さんの隊だけで、南側の敵援軍を蹴散らしませんか?」

「ツヴァンソ! 僕たちは百! 敵援軍は四百五十!」

「クーロ兄さんは、不可能だとおっしゃるのですか?」

「いや! 敵、同盟両軍を見返すのに適当な兵力差かなと思っていた! お前が今日提案しなければ、明朝にでも僕の方から提案するつもりでいた。敵の中央軍の到着にはまだ二日はかかるであろう。明日なら、どこからの邪魔も入らず決行できる!」

「さすがは私が敬愛してやまないクーロ兄さん!」

 てっきり反対されるのではと思っていたツヴァンソは、すごく嬉しそうであった。

「……ところで、ツヴァンソ! 戦術は考えついているか?」

「まあ、大枠ではありますが、一応」

「よし、僕も少し考えている手があるから、お互いに披歴ひれきし合い、さらに練り上げよう」

 その後、二人は二時間ほど話し合い、夜九時にはツヴァンソは自分の寝所に戻った。


 翌日にあたる一〇月二八日の午前十時頃。第三トゥリトスの砦から南方二キロメートルの地点。

 第五ペンプトスの砦と第四テタントスの砦から、第三トゥリトスの砦の援軍に赴いたミケルクスド兵四百五十の前方に五十一騎の騎兵が、突然現れた。

 騎兵が掲げる國旗は一旗。

 白地に金の十字クロスと金の三日月ムーンが重なった旗、ソルトルムンク聖王国の国旗である。

 むろん、そこにいるミケルクスド兵はすぐにそれに気づいた。

 騎兵の動きから、こちらを誘っているのは明白であった。

「ヴリオ上位大隊長! 敵がこちらを挑発しております。何かの罠でありましょうか?」

「そうだな! ここは少し様子見したほうが……」

 ヴリオ上位大隊長が部下からの報告に、こう答えている最中、いきなり横から声が割り込む。

「いや! ここは相手の誘いに乗って撃って出ましょう!」

 ヴリオ上位大隊長が声のする方を見ると、そこに第四テタントスの砦から援軍に来た指揮官の姿があった。

「タリオトランク殿か!」

 ヴリオが一瞥いちべつし呟く。

「あれは明らかなる誘いだ! あえて乗る必要はない!」

「ヴリオ殿! 我らはここに第三トゥリトスの砦の奪回に来た隊ですぞ! それが、ここで何もせずに手をこまねいていれば、後々、味方から臆病者のそしりを受けます!」

 第四テタントスの砦から二百の兵を率いてきた指揮官は、第四テタントスの砦で副官を務めていたタリオトランク中隊長であり、血気盛んな二十代の隊長であった。

「タリオトランク殿! 我らは第三トゥリトスの砦の奪回に赴いたのではない! 第三トゥリトスの砦に籠るグラングウ、リザ両上位大隊長への援軍として赴いたのだ!」

「一緒ではありませんか!」

「大いに違う! 我らは第三トゥリトスの砦に味方が籠っている前提でこの地に赴いていた。しかし、既に第三トゥリトスの砦は陥落し、おまけにそれを陥落させた敵兵の数は八千だ! 援軍の数は、全て合わせて八百! 状況が変わった今、ここでさらなる援軍を待つのが我らの役割となった!」

「ヴリオ殿のお考えはよく分かりますが、わざわざ向こうから出向いてきている敵兵を迎え撃つのに、なんら不都合がありましょうや! 敵兵はたかだか五十、それも精強なジュリス王国の騎兵ではなく、弱小なソルトルムンク聖王国の騎兵であります! ここで待つ間の士気高揚のためにも、軽く蹴散らしてみせましょう!」

「それこそ罠としか考えられない! 五十騎の兵の後ろに茂みがある! そこに兵を伏せているに間違いない!」

「ヴリオ殿は、すこし臆病すぎますな!」

 タリオトランク中隊長がニヤリと笑った。

「何だと!! 上官に向かって、その口の聞きようは……」

「上官ではありますが、直属の上官ではございません!」

 タリオトランクも負けずと言い返す。

「……それにそのようなことはヴリオ殿に言われなくても罠と承知しております! ヴリオ殿のおっしゃる通り、五十の騎兵がおとりで、その後ろの茂みに伏兵がいる。そんなことは百も承知です! しかし、ヴリオ殿もここを偵察されているから分かっているではありませんか! あの茂みは低すぎてホースを伏せるに適していない。仮に伏せても十騎がいいところ。さらに茂みの大きさから百人の兵すら伏せておくことは不可能です。そして、あの茂み以外に第三トゥリトスの砦からここまでの二キロメートルの範囲内に、敵を伏せる場所はありません! 大方、今日の未明、我らの気づかないうちに茂みに五十程度の兵を伏せたのでありましょう。後は砦からの騎兵ですが、いくらジュリス王国の騎兵が優れているとはいっても、二キロメートルであれば砦からここまで、四、五分はかかります。私なら一、二分もあれば五十の騎兵を蹴散らせます! さらに一分あれば茂みに潜んでいる伏兵をも倒せましょう!」

「……それを敵も承知しているはずだから危惧している! やはり攻撃することは許さん!」

「ヴリオ殿! 貴殿は何か勘違いをされている!」

 タリオトランクが、ヴリオをきっと睨みつける。

「ここに集まっている兵のうち、二百五十は確かに貴殿の兵かもしれないが、残りの二百は第四テタントスの砦の隊長コグメーロ上位大隊長から、私が指揮を一任されている兵。集まった四つの砦からの援軍の総指揮官が貴殿なのは、貴殿の役職が一番上だからという便宜上の処置に過ぎない! 個々の砦からの隊の運用は、それぞれの指揮官の指揮の元にあるのをお忘れなきよう……。それでも、貴殿が総指揮官であるのに私も意義を唱えるつもりはありませんので、私は第四テタントスの砦の援軍二百のうち、半分の百で仕掛けます! 何、聖王国の弱兵相手に伏兵含めて同数の百で仕掛けるのは、逆に多すぎるぐらいです。しかし、そこは貴殿の慎重さも尊重させていただき、残り百はここにとどめます。それらの兵はいかようにもお使い下さい!」

 そう皮肉たっぷりに言い放ったタリオトランク中隊長は、騎兵百を引き連れ、五十一騎の聖王国の騎兵の誘いに乗り、攻撃を仕掛けた。

 むろん、ここにいるミケルクスド國兵は誰も知らないことだが、聖王国の五十一騎は、ツヴァンソ率いる独立中隊であることを、ここにあえて言い添えておく。




〔参考 用語集〕

(人名)

 ヴリオ(ドクサ地方第五の砦の上位大隊長)

 クーロ(マデギリークの養子。中隊長)

 グラングウ(ドクサ地方第三の砦を守っていた隊長の一人)

 コグメーロ(ドクサ地方第四の砦の上位大隊長)

 タリオトランク(ドクサ地方第四の砦の中隊長)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)

 リザ(ドクサ地方第三の砦を守っていた隊長の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 テタントス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第四』という意味)

 トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)

 ペンプトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第五』という意味)


(その他)

 上位大隊長(上位大隊は五百人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)

 中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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