【070 ドクサ地方攻略(六):幕間閑話込(まくあい かんわ こみ)】
【070 ドクサ地方攻略(六):幕間閑話込(まくあい かんわ こみ)】
〔本編〕
「ようやく、到着したか! マデギリーク将軍の子らは……」
家臣からの報告を受けたアッティモ将軍はそう呟き、その旨をフセグダー将軍に報告した。
「そうか! それでは部屋に案内して、休んでもらえ! 明日には、敵が攻め寄せてくるので、忙しくなるからな!」
フセグダー将軍の言葉に、家臣の一人が頷き、第三の砦に辿り着いたクーロとツヴァンソ、二人の中隊長を寝所に案内すべく、フセグダー将軍の下を去る。
「しかしマデギリーク将軍は、自分の子らを、明日から激戦地となるこの戦場によくも送り込みましたな! 実子ではないと聞き及んでいますので、本当は二人の子を亡き者にする腹づもりなのでしょうか?」
「アッティモ! それは冗談でも言い過ぎだ! 何でも、マデギリーク将軍は将来の大将軍を育成するため、能力に秀でた子供を引き取り、自分の養子とし、軍事の英才教育を施していると聞く。そのような将軍が、子供を亡き者にするために激戦地に送り込むか! この戦場で大きな経験を積ませるつもりに相違ない! それに……」
「それに……? 何でありますか? フセグダー将軍!」
「二人の子供の中隊は、独立遊撃隊として扱って欲しいとマデギリーク将軍から直々に頼まれた。つまり、我らジュリス王国軍の一部に編成しないようにという要望である!」
「我ら精鋭軍に組み込む! そんなの足手まといになるだけです! 下手すると我が軍の馬蹄に押しつぶされて全滅するかもしれません! しかし、独立遊撃隊となると、いざ死地に陥っても、我らが救いに行く前に全滅するかもしれませんな! どちらにしても全滅か! やはり、マデギリーク将軍の意図が理解できません!」
「子供たちの死について、我らは全く責任を負う必要がないとのこと。だからこそ、わしも将軍の要望を受諾した!」
フセグダーのこの言葉に、「それなら、安心ですな!」と、アッティモ将軍は笑いながらそう応じた。
ジュリス王国軍八千が、第三の砦を陥落させたのが、龍王暦二〇一年一〇月二五日。
その翌日にあたる一〇月二六日には、他の四つの砦から、それぞれ敵の援軍が第三の砦まで到達していた。
しかし、四つの砦から第三の砦に駆けつけた援軍は、砦から一キロメートルの地点まで近づきながら、そこから先に進軍できなくなっていた。
第三の砦に駐屯するジュリス王国軍の数が、予想を遥かに上回る八千だったからである。
この第三の砦を除く四つの砦には、常時、一人の上位大隊長と五百の兵が駐屯している。
上位大隊長は、二百五十人規模を指揮する大隊長より一ランク上の位で、倍の五百人を指揮できる役職である。
五百人が駐屯している四つの砦から、それぞれ第三の砦へ援軍を派遣したが、その数はまちまちであって、多くて半数の二百五十程度であった。
各砦からの援軍の具体的な兵数は、第一の砦が百五十、第二の砦が二百、第四の砦が二百、第五の砦が二百五十で、全て合わせて八百であった。
これでは、第三の砦に駐屯しているジュリス軍の十分の一であるため、砦を攻めることなど絶対に無理であった。
とりあえず、第三の砦の北側と南側で、それぞれ第一と第二、第四と第五の援軍が合流し、さらにそれぞれ一キロメートル、砦から距離をとったことにより、第三の砦から南北二キロメートルの地点にそれぞれ陣を構えた形となった。
「……援軍に向かう途中で、敵兵八千という情報は得たが、まさか本当だったとは……。既に第三の砦は陥落しているし、我らだけの手には負えない。至急、王城イーゲル・ファンタムに使者を送り、中央からの援軍を請おう!」
この発言は、第五の砦から派遣された援軍の指揮官、四つの砦からの援軍のうち、唯一の上位大隊長ヴリオの言であった。
さて幕間における閑話のようなものであるが、重要な新定説であるのでここで紹介しておく。
一般的に一國が兵として動員できる限界数は、その國の人口の一パーセントと言われている。
それ以上動員は、軍備がかさみ、それを支える國の生産体制が維持できず、結果、國という母体自体を崩壊させてしまうからであった。
これが、今までの一般的な定説であった。
この定説に当てはめると、当時のソルトルムンク聖王国の人口が九百万、ジュリス王国が二百万、そしてミケルクスド國が三百万であるので、聖王国の限界動員兵数が九万、ジュリスが二万、そしてミケルクスドが三万ということになる。
そうなると、ミケルクスド國が先般の聖王国領エーレ地方に侵攻した際、エンテ将軍が兵一万を動員し、さらにエーレ城への援軍としてジュスウ将軍が一万を動員しているが、これだけでミケルクスド國の限界動員兵数の三分の二に当たる兵を動員していることになってしまう。
一地方への侵攻で、國の三分の二に当たる兵数を動員するとはとても考えられない。
さらにこの時、ミケルクスド國は王城の守りを重点に置き、所謂ミケルクスド國三将軍を全く動かしていない。
ミケルクスド國の最も優れた将軍である三将軍三人で動員できる数が、残りの一万程度とは到底考えられない。
戦いが常に起こっている時代であるから、國の限界動員兵数の倍程度は常に動員していたのではという考え方もあるが、一時期の急激な増員ならばいざ知らず、むしろ戦が常態したこの時代に、そのような無茶な増員や兵の運用を繰り返し行っていたとしたら、その方が逆に、國を内側から破綻に追い込む結果を招いてしまうであろう。
そのような史実との矛盾が解決されないまま、古代遺跡から、ヴェルト時代という新たな画期的な発見と、それに伴う発掘から数十年が経過した。
そしてようやく、ヴェルト史における研究結果を踏まえ、新たな定説の提言がなされたところであった。
それによると、あくまでも一般論としての限界動員兵数の定義に変更は全くないが、ことヴェルト史に限り、その一般論には当てはまらないのではないかというものである。
なぜなら、古代ヴェルト史におけるヴェルト大陸の民は、全員が十歳で武器を選択し、常に戦うことを想定して生きている民であるからである。
騎士や武士といった戦闘階級の存在は、古今東西存在した。
また、スパルタといった都市国家、アマゾネスという戦闘部族も、歴史上には存在した。
しかし、一大陸全ての民が戦闘民という歴史は他にはない。
一時期の奴隷を除く、老若男女全てが戦闘民で、その数が大陸全土で三千万人規模。
そのような事例は、古代ヴェルト史以外にはない。
その唯一無二の民に、一般論の限界動員兵数は当てはまらないのではというのが新定説の提言であった。
何故なら、そもそも一般論の限界動員兵数の初期段階にあたる兵の育成――民を兵として訓練する、武器の扱いを覚えさせる、兵士として戦場で生き残る術を教える――の段階を全く考慮する必要がないからである。
次段階の兵の運用、集団戦法といったものの習得は必要になるが、そもそも最も手数と時間、そして費用がかかる初期段階の兵の育成が不要なため、限界動員兵数も一パーセントでなくていいのではないかというのが、提言内容の根幹である。
ここから先の具体的な数値は、今後の研究成果に委ねるしかないが、現段階でいえるのは、少なくとも限界動員兵数は二パーセント以上から、二.五パーセント未満は可能であろうとのことである。
これに当てはめると聖王国の限界動員兵数が十八万から二十二万程度、ジュリス王国が四万から五万未満、ミケルクスド國が六万から七万程度となる。
今後、古代ヴェルト史については、こちらのヴェルト限定となる最新定説を基軸に語っていくこととする。
〔参考 用語集〕
(人名)
アッティモ(ジュリス王国の将軍)
ヴリオ(ドクサ地方第五の砦の上位大隊長)
エンテ(ミケルクスド國の将軍)
クーロ(マデギリークの養子。中隊長)
ジュスウ(ミケルクスド國の将軍)
ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中隊長)
フセグダー(ジュリス王国の将軍。『生ける武神』の異名を持つ)
マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)
ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)
(地名)
イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)
エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)
ゼフテロス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第二』という意味)
テタントス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第四』という意味)
トゥリトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第三』という意味)
ドクサ地方(ミケルクスド國領)
プロトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第一』という意味)
ペンプトス(ドクサ地方の五つの砦のうちの一つ。『第五』という意味)
(その他)
上位大隊長(上位大隊は五百人規模の隊で、それを率いる隊長)
大隊長(大隊は二百五十人規模の隊で、それを率いる隊長)
中隊(小隊五部隊で編成される隊。五十人規模の隊)
中隊長(中隊は五十人規模の隊で、それを率いる隊長)




